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幻想戦記  作者: 竜影
第3章
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第129話 因縁の対決⑬‐些細な変化






周囲を霧になったアドニスに包囲されたアレスだが、落ち着きを保って剣を掲げる。その動作にアドニスは不審を覚える。

「どういうつもりだ?まさか、いくら貴様でも霧を切れると思ってるんじゃ・・・・・・」

「テメエは言ったよな?『吹き飛ばされたら、お陀仏』だと」

「それが何?」

声の調子から完全に見下しており、アレスの狙いに気付いていない。

「お前は魔法が使えない。力だけの猪突猛進バカだからな!ブラッディ・バレット!!」

霧の中に赤い水玉が生まれ、アレスに向かって跳んでいく。さすがに気付いたアレスは飛び退いてかわす。それでもなお向かってくるものは剣で弾く。

「ほらほら、どうした?なんなら、炎の剣で切りつければ?」

「ちぃっ・・・・・・」

逃げ惑うだけのアレスをアドニスが挑発する。

「できないよね?魔法素結晶をはめて作られた、魔術を助ける特別なアクセサリー・・・・・・それを隠し持ってたから撃てたんだよね?あの炎の剣」

ヘパイストスがクトゥリアからの依頼を受けて作っていた、特別なアクセサリー。元は暴走の危険をはらんだ魔術素養の持ち主の魔力を、制御するために制作を依頼した。だが、材料の組み合わせによる相乗効果がヘパイストスの腕によりさらに引き出され、アクセサリー自体が魔術素養の代わりになるものができてしまった。無論、勝手に持ち出したので怒られ、さらに取り上げられた。当然、今は持っていない。

「そんな状態で、どうやって僕に勝つんだ!?」

「黙ってろ、クソガキ・・・・・・」

静かに呟いたアレスの挑発に、「何!?」と怒りを露わにする。血飛沫の弾幕が止まると、アレスは再び剣を掲げる。

「ホント・・・・・・今も昔もむかつくガキだ・・・・・・」

昔はアフロディーテが夢中になっていたことへの嫉妬、今はコケにされていることへの苛立ち。両足でしっかり立ち、剣の柄を強く握る。

「今―――ぶっ飛ばしてやるよ!!」

叫び、剣を振り下ろす。地面が砕けて衝撃が走り、それによって巻き起こった風が吹き荒れる。当然、アレスを包んでいた霧は吹き飛ぶ。

「うわああああああああああっ!?」

霧と同化しているアドニスは、体自体が切り当然の状態。そんな状態で吹き飛ばされれば、文字通り雲散霧消する。慌てて体を元に戻すと、目の前に立つアレスが剣を向ける。

「た、助けてよ・・・・・・元はといえば・・・・・・あんたが悪いんだよ・・・・・・」

「ああ、そうだな。昔やったバカが、今こうして利用され跳ね返っている」

「そ、そうだ。だから、僕は悪くない。だから助け・・・・・・」

一閃。剣を振り上げ、アドニスを切る。そのアレスの表情に、迷いも情もない。

「敵として対峙した以上、確実に仕留める。それが戦場のルールであり、俺が俺である証だ」

切られた箇所から、目を見張るアドニスの体が煙のように消えていく。

「悪いな。来世じゃ、せめて達者に暮らせよ」

剣を下ろしたアレスの言葉に、顔を上げたアドニスは驚く。

「・・・・・・以外だな。あんたがそんなこと言うなんて。情か?」

「俺にそんなものはない。多分、ただの気まぐれだ」

「・・・・・・・・・だと思った」

ふと笑みを浮かべたアドニスは安らかな顔で消滅する。霧になって隙を伺っているのではなく、魂を偽りの肉体につなぎとめていた仮初の命が消えての消滅。それを見届けたアレスは、剣を肩に担ぎ空を見上げた。

「戦争の神である俺が、こんな空しさを覚える日が来るとは、な・・・・・・」

本来ならありえないこと。それが今起こる。それは変化したということなのか。そんなことを考える暇はないことはわかっており、アレスはすぐ切り替えた。次の敵を倒すため、戦場を歩き出した。



                      ―※*※―



「アドニスがやられただと!?」

魔力で作った猟犬の群れでエインヘリヤルを攻撃していたアクタイオンが、驚くと共に振り返る。

「おい、どうなっている!カサンドラの預言で、少し先の未来はわかるんじゃなかったのか!?」

左手を耳に当て、ヘッドホンにある通信機でラオコーンたちに通信を送る。だがその隙を、攻撃のチャンスを伺っていたエインヘリヤルが逃すわけがなかった。

「今だ!!」

声を上げた一人が駆け出し、それに気付いたアクタイオンが猟犬の群れを向かわせる。しかし、後ろに続いた他のエインヘリヤルがそれを止め、後列のエインヘリヤルも矢を飛ばして猟犬を止める。その隙に突撃した一人がアクタイオンに切りかかる。

「させるか!!」

シシュポスがマナナン・マク・リールに切られた鉄球を投げ、エインヘリヤルの突撃を阻む。無事なほうの鉄球を振り回すが、その鎖がブリュンヒルドに切り離される。

「敵から目を逸らすなんて、余裕でなければただの愚行よ」

「くそっ!!」

ブリュンヒルドを絡めとろうと鎖を振り回すが、リーチが足りず掠りもしない。鎖を負ってがら空きになったところから、高速で動いたブリュンヒルドが飛び込んで切り伏せる。

「ちいっ!!」

猟師が使う短剣を抜き、武器を振り切ったエインヘリヤルとアクタイオンがすれ違う。エインヘリヤルの肩鎧が切り落とされ、アクタイオンは胴体に切り込まれていた。

「がはっ!!」

大量の血を吐いて倒れ、主を失った魔力の猟犬が消え始める。それらが全て消えると、アクタイオンの体も消滅を始めた。

「一気に形勢逆転だな!」

「そうか?素人目線ながら、有利でも不利でもなかったと思うが?」

高速で動くアトランテの槍を、マナナン・マク・リールは長い槍で捌く。穂先だけでなく柄のいたるところで受け止め、受け流し、隙あれば突き出してアトランテを飛ばす。

「カサンドラ?あんたの預言が働いてないみたいだけど、それについて申し開きはある?」

マナナン・マク・リールとの戦闘の合間に、小さな声で通信する。そこから帰ってきたカサンドラの小さな声に、アトランテは目を見張った。その瞬間にマナナン・マク・リールが槍を突き出し、槍の穂先がアトランテの左肩をえぐった。

「つっ・・・・・・容赦ないね」

「戦場では容赦した者や情けをかけた者が先に死ぬ。それが道理だ・・・・・・」

長い歴史の中で人間によって証明されてきた事実。そのため人間は戦争を起こせば、情けをかけることも疑問を抱くこともなく戦い続け、敵を倒す。

「もっとも・・・・・・今はその限りではないが、な」

時折、その道理を覆す強者がいることも、マナナン・マク・リールらは見逃してはいない。彼らの存在こそが、『戦場では容赦した者や情けをかけた者が先に死ぬ』という長年の道理を覆す可能性。もっともあくまで『可能性』に留まらないため、期待はしない。

「そうか・・・・・・だが、一ついいか?無用なことかもしれないが、一度倒したからって油断しないほうがいい」

意味深な笑みを浮かべ槍を構えるアトランテの言葉に、マナナン・マク・リールは眉を寄せた。



                      ―※*※―



人工物の木々で構成された森が破壊され、その中に数人の人影が地に伏している。羽の装飾がつけられた鎧を着けたヴァルキリー、半人半鳥の姿で血を流して倒れているアプサラス。そんな中で立っているのは、タカの羽衣を纏い、血が流れ落ちる肩を押さえたフレイアと、スカアハの娘で親に内緒で勝手に参戦したウアタハ。

「くっ、こいつ・・・・・・」

親に倣い黒いマントとつばの広い帽子を身に付け、その下には軽い鎧をまとう。手に持つ槍はゲイボルグの簡易版、というよりスカアハ談『失敗作』の槍。それでも並みの武器を大きく超える威力は持っていたが、その穂先は欠けており、柄も途中から折れている。

「クククハハハ!素晴らしい。素晴らしいぞ、この体は!」

彼女たちの前の前で笑っている男は、アガメムノン。傲慢で非常、所有欲の強い元ミュケナイ王で、シシュポスと並ぶネクロの切り札。その力の前に、本来戦闘向きでないとはいえフレイアたちは膝を突いている。

「ご満悦みたいね・・・・・・そんなに、私たちより強いことが嬉しいのかしら?」

皮肉を込めたフレイアの笑みに、アガムメノンは砲身が付けられた左腕を向ける。集められたマナのビームがフレイアを吹き飛ばし、地面に倒した。

「ケホッ・・・・・・」

「フレイアさん!」

「美女と名高いゲルマン国の女神フレイア・・・・・・少々気は強いが、まあ俺好みだからいいとしよう」

笑みを浮かべるアガムメノンに、ビームを受けた部分を押さえたフレイアが体を起こし、視線を向ける。

「もっとも・・・・・・さらに俺好みにしつけてやるがな」

「しつけって・・・・・・あんたそう言う趣向の持ち主?」

不快感を露わにするように顔をしかめさせる。そんなフレイアを見ていたウアタハは、嫌悪感を込めてアガムメノンを睨んだ。

「それが俺の目的だ。美しい女を全て俺のものにする。ただし、ゲルシャの奴らにはひどい目に合わされたからな。そいつらは全滅させて、他の国の俺のものにするため協力している」

「ふざけてるわ」

「なんとでも言え」

槍を握る手が震えるウアタハに、見下すような視線を送って言い返す。傲慢で自分の欲望に忠実。そういう人間で神をも侮辱してきた者には、災いが被るよう因果を操作した。それが神罰。現在はその方法は取れないが、いざ取れないとなると目の前のこの恐れしらずははっ倒すしかない。

「(できる・・・・・・かしら・・・・・・)」

自分たちとアガムメノンの間に広がる力の差が、その困難さを現している。そんなことは気にもかけず、アガムメノンは我が物顔で喋り続ける。

「ゲルシャの女神は、美しいが性格的に高飛車の連中が多いからな。だがお前たちは負けず劣らず美しい。体付きもふくよかだ。今は着痩せていることが残念だが・・・・・・この俺のものになって快楽に身を落とし、その体をいつまでも披露できることを光栄に思うといい」

狂気とも取れる笑みを浮かべるアガムメノンに、恐怖に呑まれかけたウアタハは息を呑む。今まで母親に弟子入りしに来る人間を何人も見た。戦争での活躍を望む兵士、純粋に強さを求める武芸者、英雄と呼ばれるほどの力を求める者、色々見てきた。

「(でも、こいつは・・・・・・)」

だが、アガムメノンほど欲望に塗れた者は見たことない。正確にいえば、スカアハの元で修業を終えられた者は欲望に従っていたといえる。だが、それを露骨に出すこともなければ嫌悪することもない。ただ、『強くなりたい』という目的のために命を賭けて強くなる。そんな者しか〈影の国〉を訪れなかった。ゆえに、目の前にいる元人間は知らない。

「怯えなくていい・・・・・・全てを俺に委ねればいいさ・・・・・・」

身の毛もよだつ猫撫で声にウアタハは後ずさりする。武芸に秀でた〈影の国〉の女王スカアハの娘とは思えない行動。相手の狂気に呑まれるのは時間の問題、かと思われた。

「冗談・・・・・・」

鼻で笑い、声が聞こえ、おびえた背中に手が当てられる。思わずウアタハが振り返ると、強気な表情でフレイアが身を屈めて立ち上がっている。

「私たち全員・・・・・・そろって、願い下げよ・・・・・・」

「フレイアさん・・・・・・」

「呑まれちゃダメ。気をしっかり持って・・・・・・」

ウアタハに声をかけ、アガムメノンを睨んだままわずかに後ろに下がる。

「戦場に立ったんなら、その覚悟を持たなきゃ・・・・・・」

「は・・・・・・はい!」

折れた柄を握り、ウアタハは奮い立たせる。少しずつ下がりながら、フレイアは打開策を探る。下手に動こうとすればその瞬間に仕留められる。下手に逃げれば、ここで倒れている仲間がさらわれる。この傲慢男の毒牙からいかに逃げるか、もしくは仲間の女神を逃がすか。一瞬の判断が勝負を決める。

〔アガムメノン・・・・・・誘い出されている・・・・・・〕

「おっと・・・・・・」

突如両者の耳に聞こえた虚ろな少女の声。フレイアがそれに気を取られ、アガムメノンの左腕の銃がタカの羽衣の翼を打ち抜く。

「しまった!」

「二人きりで楽しいことをすると思ったら、仲間から引き離そうとしてたのか。ガッカリさせんなよ」

飛行手段を落とされた。まだ魔術メイズがあるが、それはここまでことごとく防がれている。一気に不利になって表情を険しくするフレイアに、アガムメノンは両腕を広げせせら笑った。

「お前だけじゃないさ。ここにいる奴等全員、俺に恋愛感情を持たせれば毎日擦り寄ってくる。まさに天国、飽きず楽しめるってものだ」

「うっわ~~・・・・・・あなた、ほんとに最低ね」

「その反抗的なお前がどうなるか・・・・・・クク、今から楽しみだ」

「なら貴様がどう踊るか。そちらも楽しみにしていいか?」

今度はアガムメノンが驚く番。後ろの斜め上に視線を送った瞬間、フレイアが誰かに抱えられて戦場から離脱した。それとほぼ同時。アガムメノンが構えた剣が、上から振ってきた影の武器と激突し、刀身が砕けた。漆黒のマントを翻した影が飛び退き、地面に降りる。

「スカアハさん・・・・・・オイフェさんも・・・・・・」

唖然とするフレイアを抱え、ウアタハをどこかに放り投げ、オイフェもスカアハの後ろに立つ。

「さ~~て、オッタル。少しはいい所見せてもらわないと困るぞ?」

「うるさい!くそっ、なんで俺はこんなことしか・・・・・・」

真っ先にアガムメノンに挑み、あっさり返り討ちにあったのだから、足手まといであることはわかりきってしまっている。愚痴を呟いたオッタルは、負傷したヴァルキリーやアプサラス、ウアタハを乗せた荷車を引く準備をしていた。

「ほら、フレイアも乗る!」

「えっ、あっ・・・・・・!」

答えが返る前にオイフェが有無を言わさずフレイアを荷車に乗せる。

「行かせるか!」向かって来るアガムメノンに、スカアハは長槍を構える。

「母上、そいつは・・・・・・!」

心配したウアタハが声を上げるが、構わずスカアハはアガムメノンに突っ込む。

「ほら、行く。でないと役立たずだよ」

「役立たずって言うな!・・・・・・くそっ」

オイフェに急かされたオッタルは、悪態をつきながらも荷車を引いて戦線離脱する。そのわずかな間、スカアハはすばやい動きでアガムメノンを翻弄し、隙を見つけては鋭い一撃を打ち込む。

「ぐあっ・・・・・・」

「散々好き勝手なことを言って・・・・・・まあ、できるかどうかやって見るのも一興だろう」

「何を・・・・・・」

笑みを浮かべたアガムメノンが飛び退き、背中に背負っていた剣二つを引き抜く。

「〈影の国〉の女王スカアハ。女王というからにはそれなりの体をしてるんだろうな?」

「お前の基準など知らん。だから、答えかねる・・・・・・」

と、槍を下ろして直立に近い形で立つ。普通ならありえない無防備をさらす行動。本当ならこれを目の当たりにした戦士はほとんどが警戒をして動かないのだが、アガムメノンは口を吊り上げて笑みを浮かべ、斬りかかった。手元の操作で剣の刀身をムチに変化させ、スカアハの動きを封じようとする。

「―――な!!」

深い踏み込みで威力を増した鋭い突きがアガムメノンの胸を貫く。衝撃で開いた口から血が吹き出し、空を切ったムチは肩目を閉じたオイフェの横を抜け後ろの木の枝に巻き付いた。

「なんだ、こんなものか?物語の悪役じゃないが・・・・・・」

槍を引き抜き、回し蹴りで飛ばす。血を流して地面を跳ねたアガムメノンを見て、スカアハは失望したような目で続きを呟いた。

「期待外れだな」



                      ―※*※―



一方、クーフーリンたち第二部隊の陣地では。戦闘のダメージで動けないクーフーリンの代わりにルーグが前線に立っている。移動準備をしてテント類を畳んだ陣地の周囲は戦闘の跡を残し、所々で煙が立っている。その中に、複数の影がある。

「ブリアン、ヨハル、ヨハルヴァ!勝負はついたぞ!」

ルーグは三叉の槍の穂先を、膝を突いている四人の兵士の先頭に向ける。

「勝負はついただ?俺はまだ―――生きてるぜ!!」

切りかかった男の剣を、ルーグは抜いたアンサラーで受け止める。

「ブレス・・・・・・これ以上は!!」

「敵が死ぬまで勝負は続く!それが戦争ってもんだろ!いつから腑抜けになったんだ、ダーナの神族は・・・・・・!!」

力を込めて剣を押し込む。しかし、あらゆる武器や鎧を断ち切る切れ味を持つアンサラーにそれは自滅行為。刀身をわずかに切り込まれたところで、ブレスは後ろに飛んで着地した。

「本当に戦いを終わらしたければ、殺すんだな!」

「・・・・・・その方法しかとらない人間を見続け、我々は否定した。否定した以上、譲るわけには行かない」

「それで死んだら、貴様らは間抜けだ!!」

突っ込んだブレスの剣をアンサラーで破壊し、がら空きになった腹を殴りつける。息が詰まったブレスは呻き、地面に崩れ落ちた。

「・・・・・・これでも、まだやるか?」

「・・・・・・殺せ」

「断わる」

「一度俺を殺してんだ。二度目は簡単だろ」

「・・・・・・イーネも心配している。これ以上、戦う必要はない」

「情けのつもりか!?ダーナの神も落ちぶれたものだな!!」

顔を上げたブレスが憎々しげにルーグを睨み吐き捨てる。だがそれに、ルーグは平静を保っている。

「落ちぶれたつもりなどない。だが・・・・・・殺した者としては変かも知れんが、せっかく蘇ったお前らを再び殺す理由はない。降伏するなら命は助ける」

「交渉のつもりか?隙あらば、寝首をかくぞ」

「構わない」と言ったルーグに、ブレスは驚く。

「―――俺は隙を突かれても持ち直す、そういう強さを手に入れたつもりだ。例え寝首をかかれても・・・・・・やられるつもりはない」

「・・・・・・どこからそういう自信が湧くのだ。まあいい・・・・・・」

柔らかな笑みを浮かべたブレスは、右手の折れた剣を放した。

「てめえに毒気を抜かれたか・・・・・・もう戦うつもりはない。俺たちの負けだ」

「・・・・・・使えん奴め」

その時、重く冷たい声がすると、黒い雷がトゥレン三兄弟とブレスを直撃した。彼らは悲鳴を上げる暇もなく意識を手放し、地面に崩れ去る。

「ブリアン!ヨハル!ヨハルヴァ!ブレス!」

「・・・・・・敵の心配か。こいつの言うとおり、焼きが回ったのではないか?」

黒いモヤが一箇所に集まり、形を成した。

「デズモルート・・・・・・」

「あの時の決着をつけようか。ダーナの王よ・・・・・・」

エリウでの戦いで決着が付けられなかった領有が対峙する。二人の間には当然、一触即発の張り詰めた空気が満ちていった。右腕でブリューナク構え、左腕で逆手に持ったアンサラーを抜く。

「ルーグ・・・・・・こいつは!」

駆けつけたリールが、倒れているブレスたちを見て剣に手を掛ける。

「・・・・・・リール、悪いがそいつらの治療を頼む」

「はっ!?どういうつもりだ!?」とリールは驚く。

「とりあえず、ディアン・ケヒトに治療してもらえ。もし、再び敵になったら・・・・・・俺が倒す」

「・・・・・・だったら、くたばるなよ」

リールはしぶしぶブレスたちを担ぎ上げ、陣地へ戻って行った。

「貴様・・・・・・まさかとは思うが―――怒っているのか?」

デズモルートの指摘に黙って目を向ける。今のルーグの表情はとても厳しく、鬼や般若も逃げ出すのではないかと思うほどの形相でデズモルートを睨んでいた。

「ブレスはお前らの仲間だっただろ。それなのに、なぜ傷つけた・・・・・・」

「おかしなことを聞く。貴様に説得された時点で、奴らは裏切り者。始末するのが当たり前・・・・・・」

「ほう・・・・・・言いたいことはそれだけか」

「それだけだ」

こちらが場違いなことを言ったかのように、無表情ながらもデズモルートがせせら笑う。しばらく睨み合いが続く中、どこか遠くで爆音が響く。






※この小説のアレスについて


原点のギリシャ神話より強くなってると思われる方もいると思いますが、楽屋裏的に言えば自己解釈です。


この小説の世界観では、現実世界に伝わる神話・伝承が実際に起こり、そこから千年単位の膨大な時間が経ったという設定ですから、それに応じてアレスの実力も強化させました。


いずれそのあたりのエピソードも書きたいと思ってますが・・・・・・。


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