第127話 因縁の対決⑪‐再来した復讐者
鳴り響く銃撃音。マナを結晶化させた銃弾が、周りの木々を吹き飛ばす。グナテルと戦闘するブリュンヒルドは、砕かれ、降り注ぐ機の欠片やその枝の雨の中を駆け抜けていた。
「(このままでは、ただやられるのを待つだけだ。それよりかは―――)」
ブレーキをかけたブリュンヒルドは、地面を思い切り蹴り強引に方向転換する。撃ち出される銃弾の間を左右にくぐり、時々、剣で弾きながらグナテルとの距離を詰めた。
「くっ・・・・・・」
逃げようと後ろに身を引いたグナテルの、左腕のガトリングガンを切り落とす。もう一歩踏み出して剣を振り上げるが、ギリギリで抜かれた剣に阻まれる。男と女の腕力比べでは男のほうに分があり、ブリュンヒルドは簡単に飛ばされるが、宙返りして地面に着地した。だが、二人ともすぐに飛びかかり、剣をぶつけ合う。
鋭い金属音を響かせ、今度も簡単に打ち上げられるが、ブリュンヒルドは剣を叩きつけた反動でさらに高く上がる。剣を突き立てようと構えるグナテルに対して、空中で体勢を整えて後ろに剣を構える。
「(こちらの攻撃に合わせて反撃するつもりか)」
そう見抜いたグナテルは即座に剣を上段に構えて、魔力を溜めた後に振り下ろして一気に放つ。ブリュンヒルドはそれをあえて突っ込んでかわし、地面にかがんだ状態で着地する。
「―――ッ!!」
すぐに剣を突き出そうとしたが、それよりも早くブリュンヒルドの剣が横一線を描く。彼女の剣は重厚な鎧に阻まれ、グナテル本体に届かない。そこにグナテルが剣を突き出したのと、ブリュンヒルドが後ろに飛んだのはほぼ同時。グナテルの剣は彼女のスカートの一部を割き、千切れた布が空気中を舞ったが、それに動揺するブリュンヒルドではない。
「ふう・・・・・・」
着地したブリュンヒルドは剣を構え、深く息をつく。互いに隙をうかがい迂闊に攻め入らない。剣を構えたまま動かないブリュンヒルドに対し、グナテルハ少しずつ脇に寄っている。やがてブリュンヒルドに切り落とされたガトリングの砲身の所まで辿り着き、彼女がそれに気付くと砲身を蹴り飛ばした。
「(フッ!!)」
即座に斜めに突っ込み、砲身の飛んでくるコースから外れてグナテルとの距離を詰める。しかし、飛び上がったグナテルは左手で蹴り上げた砲身を掴み、そのままブリュンヒルドに向けて投げる。反射的に剣で切り伏せたが、その時にはすでにグナテルはブリュンヒルドとの距離を詰めていた。振り下ろされた剣は難なく止められたが、重厚な鎧を着ているため体重の重いグナテルはすぐ地面に足が着く。次の瞬間、踏み込む足に力を込め、物凄い力でブリュンヒルドを打ち上げた。
「がっ・・・・・・!!」
打ち上げられる時、体に受けた強い衝撃で息が吐き出される。剣を引いたグナテルが確実に仕留めようと構えるが、ヴァルキリーとしての意地で体をひねり、突き出された剣を己の剣で弾く。耳を突く金属音が響き渡り、右腕が伸びきったブリュンヒルドは、両腕が延びきっているグナテルに左腕を向ける。左腕の装備が展開して弓となり、マナと魔力で作られた光の矢が放たれる。
「ちっ!!」
上半身を引いて後ろに飛ぶ。降り注ぐ矢は鎧と足鎧に当たり、何本かは浅く刺さる。ブリュンヒルドとほぼ同時に着地すると、刺さっていた矢の何本かは砕けて消滅する。
「(畳み掛ける!!)」
再び左腕の弓から魔力の矢を連射、それに続いて自らも駆ける。魔力の矢は簡単に叩き落とされ、後ろをついて来ていたブリュンヒルドの剣はギリギリで防がれる。だが矢を捌いていた直後に無理に振ったためあまり勢いがついておらず、深く踏み込み自らの体重を乗せて思い切り振ったブリュンヒルドの剣に、簡単に弾かれる。
「(手数の多い攻撃と接近戦の波状攻撃・・・・・・!)」
そのままブリュンヒルドの剣は目を見張るグナテルの胴鎧に当たるが、火花を散らして傷を入れるだけで砕けない。
「(くっ・・・・・・この攻め方でもダメか・・・・・・)」
完全に腕が延びきる前に斜めに跳んで離れる。その動きが少しでも遅かったら、切り返してきたグナテルの剣に腕が切り落とされていた。振り下ろされた剣がブリュンヒルドの剣に当たり、体勢を崩しかけるがなんとか倒れずに足を着け、地面を滑って後退する。少し舞った土埃が消えると、ブリュンヒルドは剣先を下ろした。
「(このままだとジリ貧ね。例の結界もあることだし・・・・・・息切れも覚悟して飛ばそうか・・・・・・)」
「なんだ、諦めたのか?」
挑発気味に言うグナテルに、「誰が・・・・・・」と笑みを浮かべて返す。ふと、笑みを浮かべたことに驚く。
「どうした?その笑みは、やはり戦いを求めているという証か?」
「・・・・・・・・・どうかしらね」
今度は苦笑する。相手の挑発を聞き流しつつ、ブリュンヒルドは心を落ち着かせる。構える剣から揺らめく光にグナテルは目を見張る。
「魔力を溜めて剣戟の威力を上げるか・・・・・・そうはさせるか!」
突っ込んできたグナテルの態度に、ブリュンヒルドは『魔力を武器に込めれば壊せる』と一瞬思った。こちらをはめるためのフェイクという危険もあったが、このまま戦っていても体力を待つしかない。それならば、魔力切れ覚悟で飛ばしたほうがいいと考えた。
「はっ!!」
「―――っ!!」
足を狙ったグナテルの剣に気付き、とっさにジャンプする。剣はかわしたが、グナテルが振った左腕に叩かれ地面に落とされる。
「利き腕をもらう!!」
叫んだグナテルはブリュンヒルドに剣を振り下ろすが、彼女が構えた剣に砕かれる。グナテルが驚く暇もなく、魔力を帯びた彼女の剣が輝きを放つ。
「なんだ、その光!」
「行くわよ!これが―――!」
地面を蹴り、目にも止まらぬ速さで剣を振り、三方向から六連続の斬撃を食らわせる。その後、剣を振り上げてグナテルを真上に打ち上げ、さらに剣に溜めていた魔力を解放して吹き飛ばす。
「私の―――!」
そこに左腕の弓から三発の矢を放つ。矢は縦三列から方向転換して鎧を貫き、空中に固定されたグナテルにブリュンヒルドが魔力を溜めた弓を構える。輝きを放つ左腕の弓は大きくなり、そこに三本の光の槍が矢のように添えられている。
「最終奥義!!」
放たれた三つの光が一本を除いてあさってのほうに飛んでいくが、その二本は誘導弾のように弧を描いて炸裂する。鎧の背中に白い光の翼を展開したブリュンヒルドは飛翔し、高速旋回して輝きを放つ剣を構えて流星のように突っ込む。
「―――ヴァルキレイ・ストライザー!!」
輝く巨大な光の刀身でグナテルを切り、彼の鎧と撃ち込んだ光の槍が砕ける。体を回してその勢いを乗せて剣を振り下ろし、凄まじい魔力の光がグナテルを直撃した。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
衝撃を放ち、轟音を響かせ、断末魔を上げてグナテルは光の中に消えていく。着地したブリュンヒルドの背中から、光の翼が羽根のように散って消える。
「フウ・・・・・・なんとか勝った・・・・・・」
だが、その疲労感は決して小さくない。主にヴァルキリーがよく使う技を独自に改良して会得した技だが、オーディンたちから見れば魔改造というか無茶なやり方と思える部分はある。
「(やはり習得して一年半では、使うのが早すぎたみたいね・・・・・・)」
決してその限りではないが、そう思ったブリュンヒルドは額に当てているバイザーの下から流れた汗を拭い、剣を左腕の弓の下の鞘にしまおうとした。すると、どこからか金属を叩きつけるような音がかすかに聞こえて来た。
「戦闘音。誰かが近くで戦ってる!?」
再び剣を抜いたブリュンヒルドは、人工的な木々が倒れた森の中を駆け抜けて行く。
「(最初の上陸地点から大分、離れてしまった。ジークフリートたちとは完全に分断されたわね・・・・・・)」
やがて音が大きくなっていき、木々の間を抜けて開けた場所に出ると、ブリュンヒルドは目を見張る。そこでは大勢のエインヘリヤルが倒されており、ただ一人ディゼアと戦っていたのはぼさぼさ髪の青年だけ。ただ、鎧を着込んだ姿格好から兵士であることは察することができた。
「(残っている者はあいつだけ・・・・・・)」
ブリュンヒルドはそう判断すると共に、疲れた体を引きずって戦いの中に飛び込む。青年の後ろにいたディゼアを、振りかざした剣で吹き飛ばした。
「助けに来たわ!!」
背中合わせになったブリュンヒルドを一瞥して、「女だと!?」と叫んだ。
「むっ・・・・・・女で悪いの?」
襲いかかってきたディゼアを切り伏せたブリュンヒルドに、「ハッ!」と答えながらディゼアを剣で吹き飛ばす。
「女なんざ、このアレスさまの助っ人には・・・・・・チョ~~役不足だぜ!!」
それを聞いてブリュンヒルドはカチンときたが、その言い回しで彼のことを思い出す。
「(こいつは確か・・・・・・ヴァルハラに来て、エインヘリヤルと一緒に鍛錬した奴か・・・・・・)」
アースガルドのヴァルハラに来て当初、エインヘリヤルが不死ということを聞き、「何度も殴れる」と喜んでいた。それから始まった演習ではアレス対エインヘリヤル四人という形式を取った。結果は、アレスの惨敗。一対一の真っ向勝負は優勢だったが、四人のコンビネーションには翻弄され敗北を喫した。抗議するアレスを負け犬の遠吠えと聞き流したこともよく覚えている。
「(オリュンポス、そしてダーナ神族との同盟の証として、まず各自で協力してアレスを中級神レベルまで鍛え上げる)」
そういうオリュンポスと盟約を交わし、彼の世話係を命じられた時のことをブリュンヒルドは思い出していた。
「(当時はジークフリートと再会して日も経ってなかったため、かなり嫌な顔をしただろうな・・・・・・)」
そして今も。女だからと不満を漏らしたこいつに手を貸すのは、とても嫌だ。
「・・・・・・・・・何、嫌そうな顔してんだ!?」
ディゼアを切り伏せたアレスの言葉に、ブリュンヒルドは慌ててごまかそうとする。
「私、そんな顔してる?」
「してるわ!!」
投げた剣を慌ててかわすと、後ろから襲いかかっていたディゼアの体を貫く。ブリュンヒルドは驚きつつも左手でそれを引き抜き、アレスに投げ返した。アレスもそれを受け取り、体を回して周りのディゼアを一閃した。
「(ホント・・・・・・強くなっちゃって・・・・・・)」
それでも、共闘は嫌だと言うのがブリュンヒルドの心情だった。
―※*※―
同盟を結んだもう一つの神族、トゥアハ・デ・ダナーンの受け入れ準備が整ったと聞き、とりあえず連敗を重ねて荒れてもらっては困るので、ティル・ナ・ノーグに送ることにした。そちらでは戦闘に特化した神はルーグかヌアザぐらいだったが、
「彼を鍛えるのに、ちょうどいい奴がいるぞ」
そう言って連れて行かれた〈影の国〉、スカアハとオイフェの殺人的トレーニングを受けるはめになったが、元々不死のオリュンポス神であるアレスは脱落しようと命を落とされなかった。そのせいで、スカアハとオイフェの心に火が点いてしまった。
「フ・・・・・・フフフ・・・・・・フハハハハハ!不死の体を持つ者を鍛えるなど滅多にないことだ!」
「そうだな。ただ、今までは人間用の試練だ。これは、オリュンポスやヴァルハラの者を鍛える特別メニューを考える必要があるな」
「そうだな。では、どんなものを考える?」
「そうだな・・・・・・」
普段は〈影の国〉の覇権を争う仲だが、こういう時は意気投合している。隙を見つけては逃げ出そうとしたアレスだったが、鎧の襟首を捕まれて止められる。
「どこへ行く?」
「逃がさんぞ。お前は、久しぶりにきた鍛えがいのある奴だ」
「うっ・・・・・・」
「よし、スカアハ。あの谷はどうだ?」
「あそこか?クーフーリンに越えられたからな・・・・・・」
「神のクセに、その血を引く人間よりも弱いのだろう?少し身体能力が高い人間と同じだと考えるべきだ」
「そうか?」
アレスを引きずりながら、スカアハとオイフェは屋敷に入っていく。それから地獄の特訓を経て、アレスは一応強くなった。
―※*※―
心身共に成長したアレスは、もはやエインヘリヤル百人切りをも達成した。が、それでもヴァルキリーには敵わない。近距離のみのアレスと遠近両方に対応するヴァルキリーでは相性最悪。それでもしつこく戦えといわなかったのは、アレス成長の証といえた。
「それでも、係わりたくない・・・・・・」
「聞こえたぞ!!」
呟いたブリュンヒルドの声にアレスが怒鳴る。そこに襲いかかって来たディゼアを、二人は蹴散らす。
「なんで女に助けられなきゃいけないんだ!」
「男とか女とか関係ないでしょ!それよりも、勝つことだけを考えなさい、オリュンポスのザコ戦神!」
「てめっ!人が気にしてることを!!」
怒鳴り返しながらでたらめに剣を振ってディゼアをなぎ払う。一件荒々しい戦い方だったが、見た目と裏腹に無駄な動きが一切ない。
「ペース配分を間違えて、後で息切れしないでよ!」
「お前に言われなくても!ムカつくやつだな!」
「あんたもね!」
言い争いをするアレスとブリュンヒルドの剣はディゼア兵を吹き飛ばす。落ちたディゼアの後ろから別のディゼアが肩のキャノン砲を撃ってくる。ブリュンヒルドはハイジャンプでかわすが、アレスはそのまま特攻を仕掛けた。当然、砲撃は直撃するが、アレスは気にも止めずに突っ切る。
「俺さまは!不死身!無敵!絶対!止まらねぇ!」
次々とディゼアを切り伏せるアレスだが、突如、体に痺れを感じる。
「な・・・・・・んだ・・・・・・!?」
動きが鈍ったアレスにディゼアがキャノン砲を向ける。だが、発射される前にブリュンヒルドが弓で射抜き、着地と共に周りのディゼアを切り伏せた。
「・・・・・・形無しね」
ブリュンヒルドの言葉に、「うるせえ」と顔を背ける。襲いかかろうとしたディゼアを、遠くからの攻撃が仕留めた。
「大丈夫か!?」
攻撃を放ったミディールとマナナン・マク・リールが駆けつける。
「ええ、なんとか」
「けっ。あれから俺さまが、逆転するところだったんだよ」
「強がるな」とミディールに言われ、「けっ」とソッポを向いた。
「かなりの数だな。運べるか?」
「その必要はないわ」とブリュンヒルドが言うと、エインヘリヤルたちが起き上がった。
「今、復活に有する時間が経ったということは、かなり早い時から戦闘不能になっていたみたいね」
呆れた視線を送るブリュンヒルドにそう言われ、「うっ・・・・・・」とアレスは唸った。
「まあ、それはさておき・・・・・・」
「ちょっと待て!!」
アレスのツッコミを流し、ミディールはブリュンヒルドに向いて続ける。
「ルーグはこのまま前線意地を判断。アレス中隊はしばらくここを拠点として迎撃して欲しいとのことです」
「待て!俺はそんな命令聞かない!このまま突っ込んで、斬って、斬って、斬りまくる!」
「あなたはそれが可能でも、エインヘリヤルやブリュンヒルドは消耗が激しい。少しは休憩が必要だ。特に人間界では・・・・・・」
マナナン・マク・リールの意見に、「ちっ、軟弱な・・・・・・」と舌打ちしたアレスが顔を逸らす。
「すまないな。こちらは人間に何度やられても死なないこちらと違って、体力や魔力の消耗度も視野に入れなくてはならなくてな」
「てめえ!今ここで畳んでやろうか!!」
ブリュンヒルドの嫌味にアレスが怒鳴った時、赤黒い血のような弾が降ってくる。盾を構えたエインヘリヤルたちが隊列を組み、それを防ぐ。爆発が収まると、近くの崖に何人かの人影が現れた。左腕のほとんどを覆う籠手をした少年を先頭に、複数人の男女が立っていた。
「あれに気付くとは・・・・・・そういう奴に付いているとは悪運は強いな、アレス」
先頭の少年に呼ばれ、アレスは眉を寄せる。
「なんだ、あいつらは?」
「わからない。知らない顔だ」
「知らない?まあ、あれから何百年も経っていますからね」
少々気分を害したように眉をひそめるが、少年はすぐ平静に戻る。
「僕はアドニス。君がけしかけたイノシシに殺されたものだよ」
「は・・・・・・?」
名乗った少年にアレスは首をひねる。どこか知ったような名前だったが、さすがに千年近く昔の出来事に係わっていたアドニスのことは思い出せなかった。特に当時のアレスは、勝負事で戦えさえすれば他のことはどうでもよかった。
「やはり・・・・・・何も覚えてないみたいだね・・・・・・」
怒りに震えているのは、アドニスの側に立つ女性もそうだった。左腕に小さめの丸い盾を付け、肩に薄い鎧をつけているも、胴体は見た目が普通の布地ではいているスカートも短い。腰に付けた鎧の前後には持ち手が短く穂先が鋭い槍を四つ携えており、足は黒いスーツの上にレガースを付けている。
「私はアトランテ。あんたの愛人のアフロディーテのせいで、あたしは・・・・・・」
「俺はアクタイオン。あんたの仲間のアルテミスには世話になった」
そう言った男性はさらに軽装だった。目立つ装備は腕のボーガンと腰の短剣、背負っている弓矢くらい。狩人と同じく硬そうな皮のベストを着てはいたが、アレスたちを相手にするには心許ないばかりか無謀とも思わせる。
「ゼウスはいないのか?」
「ちっ、復讐をできると思ったのに・・・・・・」
甲の部分に丸い弾が付いた手甲を着けた壮年の男と、背中に武装を背負った鎧姿の男が忌々しそうに呟く。
「イクシオン、シシュポス。まずは目の前の連中を片付けよう」
「そうだ。そうすれば、奴も出てこらざるを得なくなる」
そう落ち着いた口調のアクタイオンに剣や槍をつけた杖を持った神官が同意すると、アドニスが彼のほうを振り返る。
「プレギュアス。どうせ後続の部隊がいるから、そいつらを牽制しててくれない?」
「いいだろう。その代わり、そこにいるやつらを必ず仕留めろ」
「愚問だ。俺とアドニスがいる。少なからず、アレスは必ず仕留められる」
腰と背中に二つずつ剣を携えた男の言葉に、「なんだと!?」とアレスが叫ぶ。
「では、ここのオリュンポスは任せたぞ。アドニス、ペイリトス」
「ペイリトス!?ペルセポネを誘拐しようと冥界に押し入った男か?」
プレギュアスと呼ばれた神官が姿を消すと、下で聞いていたアレスが目を見張る。その後、灰色のロングコートの上に革のベストを着た男が前に出る。
「俺もパスだ。ゼウスがいないなら、この戦場に留まる理由はない。好きに動かせてもらう」
「いいよ、サルモネウス。どうせ、僕の言うことを聞いてくれる奴はいないんだから・・・・・・」
いじけだしたアドニスにサルモネウスらは騒然とし、アレスたちも唖然としていた。
「・・・・・・・・・どうせ、僕の言うこと聞く人はいないんだよ・・・・・・」
「ちょ・・・・・・おい、いじけるな。リーダーだろ、お前」
「そのリーダーに構わず好き勝手に動く部下・・・・・・自信なくす」
「いや、なくすなよ!おい!」
慰めようとしながらもツッコミを入れるアトランテに、アレスは思わず呟いた。
「なんなんだ・・・・・・こいつら・・・・・・」