第125話 因縁の対決⑨‐激突の騎士
デモス・ゼルガンク本拠地がある島の、前線基地を前から見て南東部。囮役を買って出た少女が破壊した西部と比べ、まだ移動砲台や砲塔が無傷で残っている。
「中央より伝令。移動基地全域に展開している全部隊は、中央本部に帰還とのことです」
伝令のために、ある程度の自我と会話機能が与えられたディゼア兵に、寝転んでいたデンテュスは面倒くさそうに体を起こした。
「なんで、わざわざ全員が帰還するんだ?」
「我が軍の総力を結集して、敵を殲滅するとのことです」
「フム・・・・・・効果的ではあるな・・・・・・何より楽だし・・・・・・」
立ち上がったデンテュスは欠伸を噛み殺し、首を左右に動かして歩き出し、部下に招集をかけた。
「これより中央区に帰還する。各自、移動の準備を―――」
その時、突然声をさえぎった爆発に驚く。
「な・・・・・・なんだ!?」
「て・・・・・・敵襲!島の外より、攻撃が―――」
直後の爆発が伝令を吹き飛ばし、爆炎が晴れると銀色の鎧をまとった騎士が姿を見せた。
「クーフーリン・・・・・・!?」
「上陸早々、会ったのが貴様とは・・・・・・いったいどういう因果だろうな」
表情を引きつらせてゲイボルグを構えるクーフーリンに、「ハハハ」とデンテュスは笑うと腰の剣を抜いた。
「全員、戦闘態勢!たった一人で乗り込んできた、バカを討ち取れ!!」
「バカはお前らだろ」
命令を受けて周りを取り囲んだディゼア兵にクーフーリンは呟く。二体ほど飛びかかろうとしたその時、クーフーリンの前側にいるディゼアを光の矢が撃ち抜いた。後ろ側にいるディゼア兵が自らの後ろを振り向いた瞬間、二人の騎士が剣を振るって切りふせた。
「・・・・・・後ろから攻撃するのは、騎士道に反するからな」
「戦略的には、有効なんだが、な」
二人の騎士、ファーディアとジークフリートがグチを言ってると、後からブリュンヒルドが駆けつけた。
「だから、クーフーリンの後ろについた敵を、わざわざ振り向かせたんじゃない」
四人に対し、デンテュスは再びディゼア兵に周りを取り囲ませる。
「なるほど、確かに騎士道精神にのっとった戦い方だ。だが・・・・・・あんなもの、荷物にしかならん!!」
再び襲いかかったディゼア兵に対して、クーフーリンたちは四方に散開して迎え撃つ。クーフーリンの魔槍ゲイボルグがディゼアの群れを貫き、ファーディアの振るう魔剣クラドホルグの延びた刀身が敵を薙ぎ払い、ジークフリートのグラムが唸り、ブリュンヒルドは矢で牽制した敵を剣で切る。結末はどうあれ、神話や伝説に名を残す戦士たちは、意思を持たない道具に等しい兵士であるディゼアでは相手にならないのは明白。あっという間に全滅した。
「残りはお前だけだ!」
クーフーリンがデンテュスにゲイボルグを向けて突っ込む。しかし、すぐに何かを察知すると横に槍を構える。その直後、ゲイボルグに当たった何かが爆発し、クーフーリンを吹き飛ばした。
「あの攻撃・・・・・・ッ!!」
一瞬目を見張り、すぐに厳しい表情になるファーディア。吹き飛ばされたクーフーリンは空中で体勢を立て直し、地面に着地した。
「遅いぞ、ビィウル!!」
「悪い、悪い」とビィウルが謝ると、新たにディゼア兵が迫って来た。
「いくらお前らでも戦いが長引けば消耗する。無尽蔵に兵力を持つ我々が有利だ」
デンテュスが連れていた部下の何倍も多いディゼア兵が、遠巻きにクーフーリンたちを取り囲む。
「・・・・・・一つ訂正いいかな」
口元に笑みを浮かべているジークフリートに、ビィウルは「ん?」と疑問を浮かべる。
「騎士道精神とか言っていたが、それを守るのはケルトやイグリースの連中くらいだ」
「悪かったな」と、クーフーリンが悪態をつく。
「エインヘリヤルやヴァルキリーは、そういうものを守る義務はない・・・・・・」
ジークフリートが呟くと、飛んできた矢がディゼア兵を背中から貫く。倒れる部下にデンテュスは顔色すら変えず、淡々と続ける。
「わかってるよ。君たちエインヘリヤルはあくまで兵士。ヴァルキリーはその選定者・・・・・・」
ディゼアの一団の遥か後ろには、ヘイムダルが引き連れたエインヘリヤルの大隊が進軍しており、ディゼアたちは自分の判断でそれらに向かっていく。自由に動けるようになったクーフーリンは、ビィウルにゲイボルグの穂先を向けた。
「・・・・・・ってわけで、あんたの相手は俺だ」
「いいぜ。三年前の決着をつけようぜ!!」
クーフーリンとビィウルが別の場所に移動すると、ほぼ同時にファーディアとデンテュスが剣をぶつけていた。凄まじい音が鳴り響く度に、二人は近くの岩場に向かって行く。
「まさか、ヘイムダルがいるとはね。だがいいのか!?これでビフレストはがら空きだぞ!」
「問題ない!ビフレストに新たに設置された警備結界!ドヴェルガーたちの最高傑作だ!!」
「知ってるよ!」
ファーディアのクラドホルグの一撃で吹き飛ばされたデンテュスは、空中から二方向に斬撃を飛ばす。ファーディアは跳ね返った斬撃を後退しながらクラドホルグで叩き落とした。
「不意打ちでくらってたあの時とは、やはり違うか」
笑みを浮かべて着地したデンテュスに、クラドホルグの剣先を向ける。
「ついでに、貴様の攻撃のタネも見抜いた」
その言葉に、ピクッとデンテュスの眉が動く。
「ほう、おもしろい・・・・・・」
残虐な笑みを浮かべ、デンテュスは空中に飛び上がる。ファーディアは腰を落とし、クラドホルグを構えた。
「―――なら早速、破ってみろよ!!」
振り下ろされた剣から放たれる、魔力の塊である斬撃が向かう場所。ファーディアはそこを狙ってクラドホルグを振った。斬撃は放たれない。だが、伸びた刀身が弧を描いて、斬撃とその着弾点をなぎ払う。轟音と共に砕けた岩が散らばる。
「防いだだけか!!」
体勢を変えて再び斬撃を放ったデンテュスだが、跳ね返ることはなく着弾点の岩の欠片を砕いた。目を見張ったデンテュスにクラドホルグの剣先が伸びる。とっさにかわして刃先が頬を掠めると、着地したと同時に真っ直ぐ斬撃を飛ばし、柄で防いだファーディアからさらに離れた場所に着地する。
「(バカな、なぜ俺の攻撃が跳ね返らん・・・・・・!?)」
動揺を隠せないデンテュスは岩の欠片の中に、別の欠片が混じってることに気付く。その間にファーディアは、クラドホルグの刀身を戻した。
「貴様の放つ斬撃は、魔力を凝縮して生成した弾丸で、魔法反射装甲の小型マシンとやらに、常にそれを当てて跳ね返していた。外してもマシンが動いて軌道を修正する。これが貴様の攻撃のタネだ」
「いつ、わかった」と、屈辱を味わったような表情になる。
「・・・・・・〈名も無き島〉に渡った後、魔法を反射する特殊装甲の存在を知った時だ。だが、どうしても解せないことが一つある」
「・・・・・・なんだ?」
引きつった表情で聞きつつ、デンテュスは左手に隠し持つ暗器をファーディアに気付かれないように取り出す。
「・・・・・・ドヴェルガーが言うには、物質が魔法を反射できるようにし続けるには、なんらかの方法で常に魔力を送らなければならない。だが、そのような技術は・・・・・・」
「・・・・・・存在しない、とでも言いたいのか!」
叫ぶと同時にデンテュスが放った投てき具を防ぎ、ファーディアは距離を詰める。
「騎士の戦い方とは思えない!!」
鼻で笑って突き出されたデンテュスの剣をクラドホルグで受け流す。攻撃を防がれたデンテュスは左腕の仕込み剣を振るが、これも防がれる。
「言ったはずだ!騎士道など邪魔な荷物にしかならん!」
「なんだと!?」
自らが重んじる騎士道を侮辱され、激昂したファーディアが切りかかるが、デンテュスが腕を交差させるとファーディアの肩や腕から鮮血が飛び散る。
「!?・・・・・・糸・・・・・・?」
滴る血が糸を伝って流れ、その姿をあぶり出す。
「もがくほど食い込む特別製の糸だ!抜け出せずにくたばるがいい!!」
糸を引くデンテュスだが、「クラドホルグ!!」とファーディアが叫ぶと、クラドホルグの刀身が伸びてヘビのような動きで糸を切る。目を見張ったデンテュスは、直後に引き寄せた一撃に対応できず体に食らった。
「俺のクラドホルグは刀身が虹のように伸びる魔剣。相手が悪かったな!!」
「くっそぉぉっ!!」
崩したバランスをすぐに立て直すと再び投てき具を投げ、その中に紛れ込ませた無数の刃がついた綱が、投てき具を弾いたクラドホルグに絡みつく。
「・・・・・・まるで忍者だな」
「なんだ、それは!?」とデンテュスが驚く。
「シャニアクに古くから伝わる諜報員だそうだ。俺たち騎士には思いつかない、トリッキーな戦いをするらしい」
引っ張られる綱が真っ直ぐ張られ、仕込まれた仕掛けで立った刃のいくつかがファーディアの体に突き刺さる。
「ぐっ・・・・・・もっとも、ここまで攻撃的じゃないが、な・・・・・・」
「ならば、俺は違うということだな」
綱を引きながらデンテュスが笑った時、刃に刺された箇所から血を流すファーディアは、一端下ろしたクラドホルグを素早く振り上げる。長く伸びた刀身を巧みに操り、刃が付いた綱を切った。
「―――腑抜けの騎士ごときが!!」
取り出した小型の盾に入った溝から細かな刃が飛ぶが、クラドホルグが描く軌跡が次々と叩き落とす。
「・・・・・・なぜ、それほどまで騎士を嫌う」
「気に食わないんだよ!騎士道とか、正々堂々とか。命の取り会いの中でも守れ、だと!?ふざけるな!!」
「それが理由か?」
「ハハハ、違う!どうせいつか死ぬなら、その時まで楽しんだっていいはずだ。なのに、俺が所属してやった騎士団の連中は・・・・・・騎士道を守れ!正々堂々戦え!誇りを捨てるなって偉そうに言いやがって!!」
飛ばした盾をファーディアが叩き落とすと、その陰からデンテュスが剣を突き出す。ファーディアは体を仰け反らせて、それをかわす。
「どうせ敵は殺すんだ。どう殺したっていいだろ!それを奴らは、騎士道に反してるとか言いやがって、俺を追放しやがった!」
振り下ろした剣を左にかわし、ファーディアはデンテュスの胴鎧に肘での一撃を見舞う。
「ぐっ・・・・・・テメエも・・・・・・刃向かえないように切り刻んでやるよ!!」
刀身がいくつにもわかれ、細い紐につながれた剣がファーディアに巻きつく。が、一瞬で紐が切られ、刀身が地面に落ちる。攻撃が当たることに余程の自身があったのか、デンテュスは目を見張っている。
「な・・・・・・なんだと・・・・・・!?」
「・・・・・・・・・敵側の兵士や民間人を、全身、小さな刃物で滅多切りにし、惨殺する騎士の噂を聞いた。そいつは無残な姿をした被害者を見て、笑みを浮かべていたそうだ。・・・・・・その凶器が―――」
地面に落ちた刃を踏みつけ、「これというわけか」と鋭い視線でデンテュスを睨みつける。
「その罪で俺は捕らえられ、処刑された。だが!俺に再び体を与えてくれた奴がいる!!」
「それが、デモス・ゼルガンクってわけか・・・・・・」
「ああ、そうだ。人間だったころよりも強い体にしてくれた。色々と人間場慣れしたおかげで俺は、もっと殺しを楽しめる」
恍惚の表情を浮かべるデンテュスを、ファーディアは嫌悪感を込めた鋭い眼差しで見る。
「俺を蘇らせた奴も、『任務に支障をきたさないなら、好きにしていい』と言った。時々、抜け出しては、呑気な奴らを獲物にしたよ」
「アウグスが拾ってきた、連続猟奇殺人。貴様の仕業だったか」
「ああ。コノートとアルスターの兵士を殺せば殺すほど、二つの国の奴らは互いに疑いあって俺の仕業とはばれなかった。民間人を狩っても、別の犯人と思ってくれた。おかげで、俺は結構、楽しめたよ」
再び、「ハハハハハハ」と笑うデンテュスの頬を、空気を切り裂いて伸びたクラドホルグが掠める。
「・・・・・・それ以上は喋るな・・・・・・」
頬から血が流れ、デンテュスは残虐な笑みを浮かべる。ファーディアの声は静かだったが、彼の心は怒りに満ちていた。
「いいだろ。貴様はどうせ、俺に倒されて死ぬのだから、冥土の土産の笑い話―――」
声を遮ってり、クラドホルグを振り下ろすと伸びた刀身がデンテュスの頬を打った。地面を転がったデンテュスは、起き上がりざまにファーディアを睨む。
「・・・・・・なんだ?お前ら神にとって、人間はいくらでもいる寄生虫だろ?いくら殺してもいい連中のために、どうしてそんなに怒れるんだ?」
「ならば俺も聞こう。貴様、同じ人間を殺して何も思わないのか!?」
「全然」と笑うデンテュスにファーディアは眉間にシワを寄せる。
「騎士なら、己の信じた道を貫くのみ。それでも迷いが消えることはない。お前はそれに対して、何か葛藤したことはあるのか?」
「はあ?なんだ、そりゃ・・・・・・ねぇよ、そんなくだらねぇこと・・・・・・」
「何・・・・・・?」
「だから笑っちまったよ。堅苦しい騎士がくだらない騎士道とかを守って無念そうに死んでくさまは。自業自得なのに、『無念』だって?どこのお笑い番組だよ」
噛み殺していた笑いを堪えきれず、「クハハ・・・・・・ハハハハハハ」と笑う。
「くだらないか・・・・・・」
そう小さく呟いたファーディアは、抱いていた静かな怒りが爆発した。無防備に笑っているデンテュスの横腹を左から打ち、遠くの地面に叩きつける。数メートル先の地面にめり込んで止まり、体を起こしたデンテュスに、ファーディアはクラドホルグの刀身を元の長さに戻す。
「わかった。もう二度と喋るな・・・・・・」
静かに呟くファーディアに、「あん?」となぜか口元を拭って立ち上がる。
「バカらしい問答は終わったのかよ?」
「今のでよくわかった・・・・・・貴様は・・・・・・騎士以前に、人間として・・・・・・失格だ」
「黙れよ!!」
激昂と共に全身の鎧に刃物を立て、狂気の笑みを浮かべて特攻する。ファーディアはそれを見据え、腰を落としてクラドホルグを構える。刀身を伸ばしたクラドホルグの能力を使った技も、妖精の力を使った身体強化での翻弄もしない。この外道を真っ向から打ち倒すための、ファーディア渾身の一撃。
「・・・・・・・・・」
ファーディアの足が一瞬地面を蹴り、距離を詰めるに連れて加速していき、高速で突っ込んだ二人はすれ違う。砕けた刀身が宙を舞い、地面に刺さる。立っているデンテュスは、信じられないことを見たかのように目を見張って震えている。
「バカな・・・・・・俺が・・・・・・騎士ごときに・・・・・・」
「騎士ごときに?・・・・・・騎士とか関係ない。この結果は―――」
クラドホルグを返して剣先を下に向けると、デンテュスの鎧やそれについている刀身が砕け、鮮血が飛び散る。
「―――単なる・・・・・・実力差だ」
倒れたデンテュスの方を振り返り、冷徹なまでの眼差しを向ける。
「・・・・・・タネがあったとはいえこんな奴に負けてたとは、我ながら情けない・・・・・・」
そう呟くと、ファーディアはデンテュスに背を向け、その場を去って行った。
―※*※―
ファーディアとデンテュスが戦闘を行なっていた場所から、数キロ行った先の海岸近く。突き出されたゲイボルグから放たれたであろう無数の矢がいたるところに刺さっていた。
「―――ゲイボルグ!」
「それしか能がないのか!!」
嘲笑いながら、クーフーリンの攻撃をビィウルは腕の一振りで全ての矢を叩き落とす。
「その程度か?〈赤枝の騎士団〉のエース!失礼・・・・・・元エースだったな!!」
切りかかったビィウルの剣を受け止め、「いちいち、うるさい」と悪態をつく。
「それも仕方ないことだ。なぜなら・・・・・・」
柄にゲイボルグを引っ掛けて上に弾いた後、クーフーリンに蹴りを入れる。それを軸足にして回し蹴りを浴びせた。
「リミッターなし!慣らしも終わった!俺の真の実力だ!!」
蹴り飛ばされたクーフーリンは着地後、「ちっ」と蹴られた頬を拭った。
「とは言え・・・・・・デモス・ゼルガンクでは中尉程度の実力しか持ち合わせてない俺に、ここまで苦戦するとは。余程ぬるい訓練をしたのだな・・・・・・」
砂浜に叩きつけられ、「はぁ?」と立ち上がる。
「スパイとして入り込んだ時も思ったが、兵の士気が低すぎる。その上、隣国が攻めて来た時の対応の遅さ。軍備縮小などという腑抜けたことを掲げるから、我らの策に簡単にかかるのだ」
剣を持つほうの手を開いて話している隙を突いたが、すぐに反応されて防がれる。
「このように、隙を突いてもダメージ一つ与えられない!」
剣でゲイボルグを弾き、クーフーリンの腹に蹴りを入れる。後ろの砂地に着地すると、クーフーリンはビィウルを睨む。
「ぐっ・・・・・・」
ビィウルは空に昇ると両手を腰に添えて力を溜めた。全身の筋肉が盛り上がり、肩から三本ずつ鎖が現れ、背中から黒く図太い腕が生える。ゲイボルグを突き出して無数の矢を飛ばすが、腕を振って飛ばした鎖が矢を弾く。後ろに飛んでそれをかわし、鎖が砂を叩く。黒い腕で鎖を操り、空中で身をかわすクーフーリンをもてあそぶ。しかしそんな攻撃が当たるがなく、ゲイボルグで弾く。隙を見出して両手で構え、鋭く睨み付けて突き出す。
「ゲイボルグ!!」
「だから!効かないって行ってるだろ!!」
飛び出した無数の槍を、四本の腕で振り回す鎖で弾いていく。
「・・・・・・む?」
弾かれる矢の中を突っ込み、クーフーリンは距離を詰めていく。笑みを浮かべたビィウルが鎖を振るが、体を回してそれをかわし、ゲイボルグを回して弾き、穂先で腹を切りつける。引き裂かれた脇腹から鮮血が飛び散るが、それが固まって鎖になり、左足に絡みつく。即座にゲイボルグを振ってそれを砕き、続けて振られた鎖を砕こうとするができずに弾くだけに留まる。
「(血を固めて鎖を作れるのか?こいつの魔導変化とやらの能力は・・・・・・)」
傷口から溢れる血が鎖に変わり、クーフーリンに襲いかかるがそれをゲイボルグで砕いていく。試しに左足と右腕に絡み付いたものを力一杯引き抜くと、少し力が必要だったが砕くことができた。
「(強度は血でできたものが低いか・・・・・・)」
なら、血でできた鎖はまず脅威になりえない。だが、肩から生えるものはゲイボルグを使ってもなかなか砕けない。血でできたものを囮に肩から生えた鎖で巻きつかれたら厄介なことこの上ない。
「(だったら、さっさと片付ける!)」