第123話 言霊使いの侍
弥生、サツキ、光輝はギバ・ゲルグを倒した。だが、その最期の言葉が三人の心に暗い影を落としていた。
「・・・・・・・・・・・・」
黙り込んでいるサツキに、「きっと・・・・・・大丈夫だよ」と弥生が声をかける。
「・・・・・・どんなに時間が掛かっても、私たちが伝えて行けば・・・・・・きっと・・・・・・」
それでも、限界があることはわかっている。しかし、それでも諦めたくはない。サツキも弥生も光輝も、そう思っていた。
「・・・・・・それより、俺たちには別の問題が・・・・・・」
「それって・・・・・・」と弥生が聞こうとした矢先、サツキが屋根の上に倒れた。
「サツキ!!」
「やっぱり・・・・・・な」
近くに寄った弥生が光輝のほうを見ると、彼も膝を突いていた。
「お前も・・・・・・疲れたんじゃないのか・・・・・・」
確かに、弥生も体に脱力感を感じていた。
「・・・・・・力を使いすぎたようだ。下手に動くより・・・・・・合流を考えたほうがいい」
「そう・・・・・・ね」と、弥生も屋根の上に座り込んだ。
「結構、力をつけたつもりだったが・・・・・・俺たちだけでいくには・・・・・・全然、足りなかったようだ・・・・・・」
「そう・・・・・・ね」と、弥生は同じ言葉で溜め息をついて、屋根の上に座った。
―※*※―
時間は、睦月とヘイルが激突していた頃まで戻る。
「俺の『風林火山』が効かないとは・・・・・・大きく出たな」
「大きく出たのではない。純然たる・・・・・・」
そこで言葉を切ると、リバ・ゲルグの目が大きくなる。人の頭の四分の一は占めるかと思うほど大きな目に、信玄は不覚にも身の毛もよだつ感覚を覚えた。
「―――事実だ」
「へえ・・・・・・そいつは怖いな・・・・・・」
作り笑いをして腰を落とし、刀を構える。
「疾きこと―――」
床を蹴った信玄にリバ・ゲルグが身構えるが、その瞬間その姿が消える。直後に震源が現れたのは、リバ・ゲルグの懐だった。
「―――風の如し!!」
風をまとった刀を振り上げるが、リバ・ゲルグは体を仰け反らせて刀をかわす。
「なっ!?」
「・・・・・・どうした?もしや、必殺技をかわされて動揺しては・・・・・・」
言い終らない内に、リバ・ゲルグが爪の生えた足で蹴りつける。すばやい動きでそれがかわされたが、リバ・ゲルグは左腕の爪を伸ばして後ろに切りつける。そこにいた信玄は目を見張り、腕から鮮血を散らす。
「ほう、そんなとこにいたか・・・・・・」
白々しく言うリバ・ゲルグから離れ、信玄は切りつけられた左腕を押さえる。服が血に染まっていくが、傷は浅い。
「偶然・・・・・・じゃ、ないな」
「偶然か。理解できないものは偶然かまぐれ。人間は愚かだな・・・・・・」
嘲るリバ・ゲルグの挑発に乗らず、痛みに苛まれながらも信玄は己を落ち着かせる。
「そちらが来ないなら、こちらから行く・・・・・・」
言い切らない内から高速移動をした信玄が真っ向から攻める。その動きはまさに突風の如し。初撃を防がれながらも、それから高速の太刀で連続攻撃を仕掛ける。が、ことごとく防がれる。
「(威力が足りないのか?なら!)」
刀振る速度をわずかに上げ、リバ・ゲルグの爪とぶつかる。反動で上に上がった刀を両手で持ち、信玄は両足に力を込める。
「侵略すること、火の如し!」
炎を纏い、『風』に劣らぬほど高速で振り下ろされる刀を防御する。が、激突した瞬間、その防御の姿勢が崩れた。
「(なんだと!?)」
そしてそこから連続で振り、受け止めた側から防御を崩される。相手のガードを崩す炎の太刀は、まさに『侵略する炎』のごとき攻め。
「だが、それがどうした!防げないなら・・・・・・」
上向きに斜めに振られた刀を、リバ・ゲルグがいなす。目を見張った信玄が二の太刀を放つが、これもいなされる。攻勢から一転、攻撃をいなされ始めた。
「私は貴様の動きが見える!なら、攻撃を防ぐもいなすも造作もないこと―――だ!!」
刀を下にいなすと、信玄の腹に蹴りを打ち込む。爪を突き立てたが服の下に付けていた鎧のおかげで致命傷は受けなかった。しかし、吹き飛ばされた信玄が腹に手をやると、その装甲が砕けたのがわかった。
「・・・・・・・・・見える限り、攻撃は当たらないか。なら・・・・・・」
刀を構えた信玄に、「まだ何か?」と嘲笑う。
「―――静かなること、林の如し・・・・・・」
落ち着いた声がすると辺りを霧が包み込み、信玄の姿が消えると代わりに木のようなものがいくつも生える。
「どこだ?」
大きくした目で周りを見渡すが、霧が邪魔で信玄の姿を捉えられない。右往左往するリバ・ゲルグに、刀を逆手に持った信玄が飛びかかる。
「―――そこか!!」
「―――!?」
切っ先が当たる直前、リバ・ゲルグが振り返り信玄の胸倉を掴む。
「音を立てずに相手に忍び寄り、死角から攻撃する。この林のようなフィールドは幻影か?」
「バカな・・・・・・捉えただと!?」
驚く信玄を投げ飛ばし、追撃をかけるべく後を追う。宙返りして着地した信玄は防御技である『山』の構えを取ろうとした。だが、これも通じなかったら。その不安が判断を鈍らせたが、それでもリバ・ゲルグが突き出した爪を刀で捌く。
「疾きこと、風の如し!」
刀に風をまとわせ、剣を振る速度を上げ押し切る。攻守は逆転したが、信玄の攻撃は全ていなされる。
「なんだ、その程度か?我に攻撃を当ててみろ」
「言われなくとも!!」
挑発するリバ・ゲルグの前から消え、視界の隅から切りかかる。それを鼻で笑い爪を振るが、信玄はそれをいなし、懐に踏み込む。
「―――!?」
狙いは胸。そう思ったリバ・ゲルグは防ぐため右腕を引こうとしたが、信玄の刀は迷いなくその腕を弾く。防御に引き寄せようとしたため、あまり力は入っていない。左腕は伸びきり、右腕は弾かれた。リバ・ゲルグの懐はがら空き。これこそが、信玄の狙い。
「(もらった!!)」
いつもならここで風の刃を形成して切りかかるが、時間的にも精神的にもそんな余裕はない。入ったとしても、入れられる傷は浅い。それでも、ここで退くよりかはましだと考えた。刀が振り下ろされ、リバ・ゲルグの胴体に傷が刻まれる。
「(浅い!!)」
とっさに後ろに飛ばれた上に、予想以上に体が硬くて思ったよりも浅い。信玄は臆することなく踏み込み、切り返しで刀を振り下ろす。それとリバ・ゲルグの右膝が正面から激突し、両者は吹き飛ばされた。
「つうっ―――!!」
「ちぃっ!浅いとは言え我に傷を・・・・・・!!」
怒りを露わにするリバ・ゲルグは両腕にカギ爪を生やし突撃する。着地したばかりの震源はすぐ回避に映れない。よけられないなら、防御するのみ。
「動かざること・・・・・・」
重心を下に置いて膝を突け、刀を斜めに構えてリバ・ゲルグの攻撃に備える。
「―――山の如し!」
信玄の周りを、半透明な岩のような者が包み込む。刀で敵の攻撃を流し、半透明な岩の壁で受け止め、そこから反撃に転じる。それがこの『山』の構え。だが、
「―――っ!!」
鋭さを増したリバ・ゲルグの爪が岩の壁を壊し、逆にこちらの守りが崩されてしまった。
「ば・・・・・・かな・・・・・・」
「言っただろう。貴様の剣技『風林火山』は・・・・・・」
動揺して動けない信玄にリバ・ゲルグが蹴りを放つ。我に返った時には、すでにかわせない位置まで迫っていた。
「―――通じないと!!」
「しまっ―――!!」
鋭い爪の生えた足を腹にくらい、血が噴き出す。口からもちを吐き出し、信玄は大きく飛ばされた。
「があああああああっ!!」
後ろにあった、崩れた壁の一部にぶつかる。衝撃で埃が舞い上がり信玄の姿を隠し、リバ・ゲルグは仕留めたことを確信した。
「まず一人。残りもさっさと始末しなければ・・・・・・」
呟き振り返ると、辺りの視界が包まれる。最初は砕けた壁の埃かと思ったが、すぐハッと後ろを振り返る。そこに、倒れているはずの信玄の姿はない。
「性懲りもなく!!」
身構えるリバ・ゲルグの死角から信玄が切りかかる。瓦礫にぶつかった直後、『林』の型を発動させていた。
「侵略すること、火の如し!!」
さらに信玄は刀を炎で包み込み、振り下ろす。腕で受け止められるが、そんなことは承知の上。構わず踏み込み、振り切り、リバ・ゲルグとぶつかった。無論、敵の攻撃をくらうわけもいかない。とっさに回避の判断ができるよう少しの余裕を持っていたが、動きを読まれているためかことごとく当てられる。それでも掠めたのは遊びのつもりか。
「くっ・・・・・・静かなること、林の如し・・・・・・」
再び林のフィールドを作り出したが、もはやリバ・ゲルグの大きな目はその中での動きさえ捉えられるようになっていた。動きを先読みされ、爪の攻撃をくらい、信玄は追い詰められていった。
「ハア・・・・・・ハア・・・・・・ハア・・・・・・」
信玄は、刀を持つ右手で、血が滴る左肩を押さえている。
「・・・・・・まさか、ここまで差があるとは・・・・・・」
目の前に立つリバ・ゲルグはほとんど無傷で、信玄に余裕の表情を向けていた。
「・・・・・・ご自慢の『風林火山』を封じられたとはいえ、情けないものだな」
「ッ・・・・・・侵略すること、火のごとし」
駆け出した信玄は高速で刀を振り、刀が炎で包まれる。しかし、リバ・ゲルグは後ろに下がり、その後も連続で振られた刀を全てかわした。
「無駄だと言っている!」
血塗られた左足の爪の一撃が、信玄の右脇腹を切り裂く。
「がっ・・・・・・」
口から血を吐き、さらに殴り飛ばされて壁にぶつかった信玄は、切られた脇腹を左手で押さえる。
「・・・・・・かはっ・・・・・・」
肩で荒く息を切らせながら、リバ・ゲルグを睨む。今度は今までのものより少し深い。敵が本腰を入れてきたと察した。
「・・・・・・まさか、『風林火山』全てをかわされてしまうとは・・・・・・」
言葉の通り、信玄はここまで『風林火山』の全ての技を放っていながら、その全てをかわされたばかりか、カウンターで大きなダメージを受けていた。まさに絶体絶命。
「―――・・・・・・仕方ない」
目を閉じ、両手で刀を握る信玄。リバ・ゲルグは観念したかと思い止めを刺そうと飛びかかったが、足元から放出され上昇する魔力と放電に目を見張る。
「―――駆け抜けること、雷光の如し!!」
一瞬、信玄の姿が消え、次の瞬間には飛び込んだ懐から刀を振り上げた。
「なんだとぉ!?」
動きを読めなかったばかりか、体に致命傷とも言える一撃を食らい、リバ・ゲルグは驚きを隠せなかった。
「がはっ・・・・・・」
床に叩きつけられ、リバ・ゲルグは上体を起こそうとする。
「な・・・・・・なんだ・・・・・・その技は・・・・・・」
信玄の刀と両足の具足は、バチバチッと放電していた。その刀を突き出して、信玄が叫ぶ。
「『風林火山陰雷』!これが我が剣技『風林火山』の進化体だ!!」
「進化・・・・・・だと・・・・・・」
そこまで言った時、リバ・ゲルグはハッとした。
「―――協力者の部隊を全滅させた技か・・・・・・!!」
目を見張ったリバ・ゲルグに、信玄は追い討ちをかけるべきと考えた。しかし、その矢先に右腕と両足に激痛が走った。
「(くっ・・・・・・技の反動か・・・・・・)」
わずかによろめくが、痛みは顔に出さなかった。
「(・・・・・・感電対策しているとはいえ、体への負荷が大きいか・・・・・・)」
平静を保とうとすればするほど、痛みが大きくなる。
「(磁力同士の反発で移動速度を無理矢理上げているからな・・・・・・)」
戦闘開始直後から、信玄は技の合間に魔力の流れを止める術式が書かれた札をいくつか床に貼っていた。そこに少しずつ雷属性のマナを合わせた魔力を流し、いつでもこの『風林火山陰雷』の『雷』を使えるようにしていた。ただし、これは信玄の不利とは関係がなく、『風林火山』がかわされていたのはリバ・ゲルグの能力によるもの。つまり、不利と仕込みは関係なかったが、信玄は『備えていた』ために不利をひっくり返せた。
「(だが、今の状況は有利ともいえない・・・・・・)」
「ぬうぅううううううっ!!」
苦い顔で信玄がそう思っていると、リバ・ゲルグは体に力を入れ、盛り上がった筋肉が体の傷が塞がった。
「・・・・・・貴様に魔導変化を使うとは、思わなかった」
「・・・・・・やれやれ、やっと本気か」
「ほざいている。貴様のその技、言霊によるものだな?」
その指摘に眉を動かすと、「やはりな」とリバ・ゲルグは笑った。
「言葉に発した事柄を現実に顕現する。魔術詠唱は言霊より分岐したものだという説がある・・・・・・」
ただし言霊は魔術詠唱と違い、発したことを必ず実行しなければならない。魔術詠唱は集めたマナを維持する『スペルキープ』や、詠唱で集めたマナを別の魔術に転用する『スペルチェイン』などの高等技術が存在するが、言霊にそれは存在せず、もし詠唱どおりの技を放たなければ己に跳ね返る。それは呪いか、はてまた誓約に近い。
「ほう、詳しいな。今の世界のことを嫌ってるかと思ったが・・・・・・」
「嫌ってはいるさ。だが、それは現在の世界。先人たちが残した偉大な知識は後世に伝えるべきだ。滅すべきは、穢れた過ちの記憶」
「ああ。それじゃあ、ダメだ・・・・・・」
呆れたように呟いた信玄に、「なんだと?」とリバ・ゲルグは眉を寄せる。
「先人の功績も、過去の過ちも、まとめて未来に伝えるべきだ。そうすることで、二度と過ちを繰り返さないようにできる」
「ハッ、笑わせる!!過ちを繰り返さないために伝えるだと!?なら、なぜ今人間どもはその過ちを繰り返している!!」
耳が痛い言葉だ。信玄は答えることができない。そんな彼を嘲笑い、リバ・ゲルグは襲いかかる。
「駆け抜けること、雷光の如し!!」
一瞬ですれ違い、現れた信玄のほうに振り返ると、彼が通った道に発生した電流がリバ・ゲルグを襲った。
「があっ!?」
膝は突かなかったが、ダメージは大きい。後ろの信玄を睨み、地面を蹴ったリバ・ゲルグが、残像が見えるほどのスピードで迫り、ほぼ同時に両腕を突き出す。
「動かざること、山の如し!!」
刀の先を足元につけ、左膝を着けて防御の体勢をとると、信玄とリバ・ゲルグの間に半透明の岩山が現れた。また砕くべく爪を突き出すが、信玄は刀を振り上げて岩を飛ばす。
「何!?」
目を見張りつつ、目にも止まらない早さでリバ・ゲルグは後ろに下がった。
「ただの防御技ではなかったのか!?」
岩が落ちると、「静かなること、林の如し・・・・・・」と信玄が呟き、姿が消える。
「バカが!どこにいるかはまるわかり・・・・・・」
嘲笑うリバ・ゲルグだが、大きな目で探そうと、大きくした耳で聞こうと、信玄の居場所をつかめなかった。
「何!?これは・・・・・・」
「知りがたきこと、陰の如し」
「バカな・・・・・・まさか・・・・・・」
実を言うと、リバ・ゲルグの目は生物の動きは秒単位で捉えられるが、マナでできた物質は視認できない。おまけに、透明マントなど魔力を持ったもので隠れられても同様。今の信玄は、まさにそのマナで作った透明マントを使っているも同然の状態。ただし、信玄がそれを知ってるはずがなく、これは偶然に等しい。
「迸ること、流水の如し!!」
突然、横でした声に気付くと同時にそこから離れると、水の刃が床を削った。
「高圧水流だと!?」
偶然とはいえ、ギリギリで交わしたリバ・ゲルグは目を見張った。
「バカな・・・・・・仮にも風林火山の名を冠する剣に、水の型だと!?」
「畳みかける!!」
チャンスとばかりに信玄は振り下ろした刀を左に構え、意識を集中させる。刀を冷気が包み込み、刀身についていた水滴が凍り、さらに広がり氷の刃となる。
「凍てつくこと、氷河の如し!!」
「人間ごときが!!」
さらに回避しようとするリバ・ゲルグだったが、崩れた壁とマナで作り出された岩が逃げ場を少なくしていた。
「ちっ、ついてねえ!」
一瞬で逃げるため時間がないと悟り、爪を剣のように変化させて迎え撃つ構えを取る。
「研がれしこと、鉄の如し!!」
氷の刀身の周りを風のようなものか渦巻き、刃を鋭く削る。次の瞬間、信玄の刀とリバ・ゲルグの爪が正面から激突した。鋭い金属音が響き、欠けた氷の刃が宙を舞った。信玄の右肩から血が吹き出し、床に左膝を突く。
「ぐっ・・・・・・」
だがリバ・ゲルグのほうも、右腕を両断されていた。
「ぐぉっ・・・・・・」
よろめくリバ・ゲルグ。マナで作られた岩が消えると、信玄は追い込みをかけるべく立ち上がった。
「疾きこと、風の如し!!」
氷の外装を廃した刀を右下に構え、突風をまとって突撃する。
「侵略すること、火の如し!!」
刀から燃え上がった炎が、周りの風に煽られてさらに大きくなる。
「駆け抜けること、雷光の如し!!」
電流をまとった両足の具足を地面と反発させ、突撃のスピードを上げる。
「おぉおおおおおおおぉぉぉっ!」
「はああああああああああああああっ!!」
逃げる間も与えず、突き出した信玄の刀がリバ・ゲルグを捕らえ、一刀両断した。
「・・・・・・ッ・・・・・・ッ・・・・・・ッ・・・・・・」
仰向けに倒れるリバ・ゲルグの後に、信玄が着地した。
「・・・・・・ハア・・・・・・ハア・・・・・・ハア・・・・・・」
激しく息を切らせる信玄は、二・三歩歩くと両膝を突いて前に倒れた。それを途中で受け止められ、信玄は少し顔を上げた。
「・・・・・・!?」
側には、睦月とユウの所に言ったはずのアオイがいた。
「ア・・・・・・オイ・・・・・・どうして・・・・・・ここに・・・・・・」
地面に寝かした信玄に、アオイが治癒術をかける。
「・・・・・・睦月くんたちのほうはすでに終わっていたわ。傷はひどかったけど、あなたほどじゃないわ・・・・・・」
右脇腹とふくらはぎを癒した後、右側に移って右肩の治療を始めた。
「・・・・・・あなたのほうがよほど重傷よ。いったい・・・・・・どうしたらこんなに傷を負うのよ・・・・・・」
冷静な発言だったが、アオイの声は少々、震えていた。
「アオイ・・・・・・」
言葉の裏に、彼女の心配が見え隠れする。
「・・・・・・どうした。心配なんて、らしくないじゃないか」
殴られること覚悟で言ったが、アオイは顔を背けて「バカ」とだけ呟いた。