第12話 影の国へ
展開が強引でしょうか。ギャグも入れたつもりですが、つまらなかったらすいません。
って、謝ってばっかだな!
城の地下通路に入り、その突き当りまで来ると「!?」とセリュードは後ろに振り向いた。
「どうしたの?」
「何者だ!?出て来い!!」
アリアンフロッドが聞くのとほぼ同時にセリュードが叫んだ。すると通路の中に、一つ、二つと人影が現れた。全身黒いタイツに包まれ、手には鉤爪が付いている。
「何!?あれっ?」
アリアンフロッドが指差すと、セリュードは槍を構え、ディステリアは天魔剣を構える。
「差し詰め、暗殺者と言ったところだろう。急げ!そのロウソクを横に倒せ!!」
向かって来る暗殺者に、セリュードとディステリアが立ち向かう。二人は言われた通りロウソクを横に倒そうとした。しかし、その一角にロウソクは左右に五本もあった。
「「なっ・・・・・・ど、どれなのよ~~~!!」」
「それは・・・・・・極秘事項だ」
「こんな時に何言ってんだ。教えてろ!!」
叫ぶディステリアに、「・・・・・・ダメだ・・・・・・」と答えた。
「「ケチ~~~!!」」
「この城の防衛に係わることなのだ。わかってくれ!!」
暗殺者二人の攻撃を防ぎながらセリュードが叫んだ。暗殺者の攻撃は目に見えないほどの早さだったが、セリュードはその全てを捌いていた。ディステリアも、遅れて現れた暗殺者二人を迎え撃つが、こちらは敵の速さについていけない。
「こう暗いと、相手の動きが見えない」
「そうか。闇夜で戦ったことはあまりなかったな。しまった・・・・・・」
「あんたも少し戦え!!」
天魔剣で暗殺者の爪を受け止めながら、ディステリアは後ろで観戦しているクトゥリアに文句を言う。
「こう狭い場所で大勢が戦うと、帰って足を引っ張り合う。・・・・・・そうだ、ディステリア。古城での戦いを思い出せ!」
「古城?ああ・・・・・・」
レッドキャップに襲われたあの場所は、月明かりがあってここよりは暗かくなかった。
「だが、あそこで戦ったレッドキャップに比べれば―――お前らの攻撃は軽いんだよ!!」
暗殺者の攻撃を止め、すかさず天魔剣を振る。確かな手応えを感じると、足元に暗殺者の体が落ちた。
「―――っ!!」
天魔剣から伝わった感覚に、一瞬だけ身震いする。襲ってきたとは言え、人を切った。その恐怖が一瞬だが、連続してよぎる。
「(何震えてるんだ。今までだって、クルキドを何体も倒して来ただろ!)」
その隙に仕掛けてきた暗殺者を、セリュードの槍が貫いて止める。
「・・・・・・ディステリア、とかいったな。お前、人を切るのは初めてか?」
「あまり経験がない、ってだけだ」
「そうか」と意味ありげに呟くと、暗殺者から槍を引き抜く。地面に落ちた暗殺者の体は、砂のように崩れて消えた。
「どうやら・・・・・・姿こそ似ているが、こいつらは人間じゃないようだな」
「ですけど、動きや感触は・・・・・・」
話していると、闇の中から同じ姿の暗殺者が迫ってくる。
「ッ!また来た!」
「二人とも、まだか!?」
武器を構えてセリュードが急かすと、暗殺者たちは二人に襲いかかる。その間、エーディンとアリアンフロッドはロウソクを片っ端から倒していった。すると、エーディンが壁のほうから五番目のロウソクを倒した時、
ゴゴゴゴゴゴッ!!
隠し通路内に響く音と共に壁がドアのように開いた。
「駆け込め!!」
二人が隠し通路に飛び込み、クトゥリアが向かってきた暗殺者を蹴り飛ばすと、壁が閉まりだす。
「まずい。急げ!!」
「セリュードさん!!」
「わかっている!!」
暗殺者を相手取るディステリアとセリュードが閉まりだした壁に向かって走り出し、壁が閉まる直前に壁の隙間に飛び込んだ。暗殺者たちが壁の前に来た時には完全に閉まっていた。
「ふぅ~。なんとかしのげたな」
安堵の溜め息をついた時、エーディンが「え・・・・・・ええ」と頷く。
「・・・・・・さあ、行きましょう」
二人を連れてセリュードは、通路を進んで行った。四十分ほど歩くと行き止まりに行き当たった。
「冗談だろ。こんなところで行き止まりなんて・・・・・・」
「そんな訳ないだろ」
ディステリアに言い返したセリュードは壁に近づき、上から下がっているランタンを下に引っ張ると、壁が下に下がりその向こうに階段が現れた。
「行くぞ」
―※*※―
隠し通路の果てにある階段を上がると、三人は洞窟の中に出た。
「洞窟だ・・・・・・」
「こんな所に出るなんて・・・・・・」
「俺も知らなかった・・・・・・」
驚く二人の後、セリュードが呟いたので、二人は「えっ・・・・・・?」と思わず彼のほうを見た。
「・・・・・・いや。時々、仕掛けが正常に動くか確かめに来るが、ここまで来たのは初めてだ」
洞窟を歩きながらセリュードが言った。洞窟は大して深くなく、すぐに外に出られた。
「では、影の国に行くか。ええと、王に渡された地図によると・・・・・・・」
何やら本のような物を広げ、やがて「あっちだな。東の方角だ」と向こうを向いた。
「それ、なんですか?」
アリアンフロッドの質問に「ん?ああ、これか?」と、本を見せる。
「これはな、『地図帳』と言って世界各地の地図がまとめてあるんだ」
「へえ~、便利なんですね」とアリアンフロッドが感心する。
「ところが、あまり普及してないんだよ」
「えっ、どうして?」と聞くが、「さあね」とセリュードは肩をすくめた。
「とりあえず、隣のマン島に渡るために港に行こう。ええと、一番近い港は・・・・・・」
港町を探すセリュードを、ディステリアが怪訝そうな表情で見ている。とその時、遠くから聞こえてきた馬の蹄の音に、エーディンが気付いた。
「なんの音?馬の蹄?」
「だんだん、近づいて来る」
「敵の追っ手か?」
三人が警戒していると、やがてその蹄の音の主が五人の頭上を越えた。
「な、何ぃ~~~~~~~!?!?!?」
着地した馬は、向きを変えこちらにやって来た。それは輝く太陽のような、オレンジがかかった白い毛に包まれた美しい白馬だった。
「はっ、この馬は・・・・・・まさか・・・・・・」
目を見張るセリュードをよそに、エーディンとアリアンフロッドは警戒もせずにその馬に近づき、毛を撫でたりもしていた。
「わあ、綺麗。これ、なんて馬かな?」
「うーん、見たことはあるような気はするんだけど・・・・・・・」
「あっ、フロッドもそう思う?」
「ええ。って、略するなって・・・・・・」
その時、突然その馬がアリアンフロッドの服をくわえて背中に乗せた。その次はエーディン。そして考えことをしているセリュードに近づくと、そのまま彼を一番前に乗せた。
「なんだろ?乗せて貰えちゃった」
「このまま、影の国につれて行ってくれないかな。なんちゃって」
そうアリアンフロッドが言うと、セリュードが引きつった顔をして呟いた。
「でしたらお二人とも、心していて下さい」
その焦ったような声に、二人はどういうことかわからず「??」と首を傾げた。すると突然、馬が前脚を上げ一声鳴いたかと思うと、いきなり駆け出した。
「ぬぅあぁ・・・・・・」
「やっぱり、しっかり掴まっていて下さい!!」
「「わあぁ・・・・・・・」」
それからは、声として聞き取ることは不可能となった。いきなり最大速度まで加速した白馬に、残されたディステリアは呆然としていた。
「・・・・・・って、おい!俺たちは置いてきぼりかよ!!」
「明らかに定員オーバーだ。さて、俺たちは地道に行くか?」
さほど慌てた様子もなくクトゥリアが考えていると、近くに何かの駆動音が聞こえる。
「(車か・・・・・・?)」そう思ってディステリアが振り向き、クトゥリアも振り返ると、前にあった物に目を丸くした。
「・・・・・・船?」
「船、だな」
「お前ら・・・・・・」
船の中から出てきた鎧姿の男に、ディステリアは思わず後ろに下がる。殺気にも似た気配を感じたためだったが、クトゥリアは身構えもしてなかった。
「この船の持ち主か?」
「ん?お前・・・・・・どこかであったか?」
怪訝そうに眉をひそめる男に、「クトゥリアだ。覚えは?」と名乗った。
「クトゥリア・・・・・・はて、聞いたことがあるような・・・・・・」
「おい!エーディンたちがもうあんな所まで行ったぞ!」
ディステリアが指差した方向に目を向けると、セリュードら三人を乗せた白馬はもう豆粒より小さくなっていた。
「ああ、あいつ・・・・・・もう、あんな所まで」
「あの馬は、影の国を目指してるのか?」
「そうだが?」と男はクトゥリアに答える。
「なら、俺たちも乗せて行ってくれ。理由は彼女たちと同じだ」
「何?」
男は抵抗があるようだったが、白馬が駆けて行ったほうを一瞥して簡単に折れた。
「・・・・・・はあ。ここで問答してても、時間の無駄か。わかった、乗れ」
親指で船を指して身をかがめると、クトゥリアに促されてディステリアも船に乗る。
「なあ・・・・・・なんで陸地に船があるんだ?」
「この船はウェーブ・スウィーパー。水陸両用の小型高速艇だ。だよな?マナナン・マク・リール」
「なぜ、俺の名を知ってるかは問わない」
クトゥリアに返答した男―――マナナン・まく・リールは、白馬が駆けて行った方角を見据える。
「いくぞ。振り落とされたくなければ、しっかり捕まっていろ」
「何!?それってどういう―――」
そこでディステリアの言葉が切れる。先ほどエーディンとアリアンフロッドとセリュードを乗せた白馬。それと同じことを、ディステリアも体験することとなった。それほどのスピードでウェーブ・スウィーパーは駆け抜け続けた。
―※*※―
三人を乗せて高速で駆けていくその馬は、現在地アイルランド島から海を駆け、その隣のグレートブリテン島に向かって行き、やって来ましたは影の国。あっという間のことすぎてエーディンとアリアンフロッドはしばらく理解できなかった。
「~~~~~~~~~~~~~~~~!!」
「(これほどのスピード、美しい毛並み。間違いない)」
三人を乗せた謎の馬は、そのまま影の国の大きな橋の上を、まるで空を飛ぶかのように突破した。やがて、大きな建物が近づいてくると、馬は減速しその建物の前に止まった。
「なんだ、貴様ら。ここにどうやって来た」
そこには、茶色いスーツの上に、肩や胴体部分に青い線が入った白い鎧を着た、一人の男がいた。馬から降りた三人は顔を見合わせた。
「どうって、見てたでしょう?この馬に乗って来たのよ」
エーディンが馬の頭を撫でながら言ったが、これが向こうの気を損ねたようだ。
「ぬぁにぃ。ここに来る者の素質を試す〈弟子の橋〉をそのよう馬で乗り越えるとは、言語道断。このファーディアが成敗してくれる」
「そのようなってねえ。この馬は・・・・・・」
「問答無用!!」
エーディンが言い終らない内に、ファーディアと名乗った男は、腰に下げていた剣を抜くや否や切りかかってきた。
「!!」
思わず腕を盾にして目を瞑った。やがて金属音がして、エーディンが恐る恐る目を開けると、セリュードの槍がファーディアの剣を受け止めていた。
「貴様、邪魔をする気か?」
「この二人を守ることを、誓約にしたんで、ね。やらせる訳には行かないよ」
細かく言えば、未遂だが。
「そうか。なら、仕方あるまいな。しかし、それとこれとは別だ!!」
剣を振り上げると槍が上に飛ばされる。その隙に、ファーディアが剣を突き立てようとしたが、セリュードは槍を引き寄せて、それを盾にして剣を防いだ。そのまま槍を傾けて剣を受け流し、ファーディアに突き出したが、紙一重でかわされた。その後、セリュードが槍の柄を押し込むと槍の柄が短くなり刃が長くなる。
「ほお、剣にもなる槍か。面白い物を持っているな」
「どうも」
そう答えた直後、セリュードが突っ込む。今度は剣対剣でぶつかった二人は、あまりの速さに姿が消えたように見え、辺りに金属音が鳴り響く。空中でセリュードが斬りかかるとファーディアの姿は消え、後ろに現れる。振り下ろされる剣を防ぎ、今度は連続で剣を振り回したがことごとくかわされた。
「クッ、やるな」
唸るように呟くセリュード。お互い視覚で確認出来なくなるくらいの速さで動けると言っても、スピードもパワーもファーディアのほうが上だった。セリュードは作戦を変えた。石畳の上に着地すると、剣を構えた形で動かなくなった。
「何やってるの!?あのままじゃあ、やられちゃう」
「セリュードさん!!」
エーディンが叫ぶが、「観念したか!!」とファーディアは建物を足場にしてセリュードの死角に跳んだ。
「終わりだ!!」
剣を逆手に持ち、ファーディアはそこから急降下する。その剣が標的を貫こうとしたその時、セリュードは右に動いた。ファーディアの剣は石畳に刺さり、抜けなくなった。
「ぐっ、しまった・・・・・・」
そこに体を半回転させたセリュードの剣が炸裂しようとした。その時、
「―――そこまで!!!」
女性の声が響く。その声で、セリュードの剣はファーディアの喉まで数ミリという所で停止した。
「何者?」
後ろを向くと、長髪でスタイルが良く、黒い半そでシャツの上に、紫色でノースリーブのワンピースのような服を着た女性が立っていた。
「あなたは・・・・・・まさか・・・・・・」
「そう、私がスカアハだ」
セリュードが呟くと、女性が答えた。彼女からは、戦士の威厳とも言えるものが漂っており、別の見方をすると凛々しくも感じられた。
「まさか、ファーディアが敗れるとは、な。まぐれか?」
「さあ。俺、ちょっと幻獣の血が混ざってるんで・・・・・・・」
「そうか。多少、感覚は鋭い、ということか・・・・・・」
剣を下ろしたセリュードに呟き、フッ、と笑うとスカアハは踵を返した。
「合格だ。その特別な力を持つ馬を使って、弟子の橋を渡ったことは特別に見逃してやる。だが、修行の手を緩めるつもりはないし、優しく教えるつもりのない。私から盗むことだな」
建物に向かって進みだしたスカアハを、「ちっ、違うんです~~」とエーディンは引き止めた。
「私たち、スカアハさんに助けて貰いたくてここに来ました」
アリアンフロッドが慌てて説明しようとする。
「てっきりこと情は知ってると思ってたんだが・・・・・・参ったなぁ」
「何ぃ・・・・・・?」
セリュードはともかく、エーディンとアリアンフロッドの馴れ馴れしい口調で話しかけられたのが気に触ったのか、三人のほうを睨んできた。が、二人の姿を見ると驚いたような表情をした。
「お前ら・・・・・・どうしてここに!?」
「それは、わたくしがご説明します」
その声に全員が上を向くと、大きなワタリガラスが降りて来ていた。それを見てスカアハが眉を寄せる。
「お前は・・・・・・」
「「まさか・・・・・・モリガン!?」」
エーディンとアリアンフロッドが驚いていると、ワタリガラスが静かに下りて、赤い服を着た美女に姿を変えた。
「やっぱりモリガン!!」
「いいえ、わたくしは・・・・・・」
美女が言いかけた時、「なんだ、マハではないか」と先にスカアハが話しかけた。
「まあ入れ。この前うまい菓子を手に入れたんだ。お前にも分けてやるよ」
「ありがとうございます。その席で恐縮ですが、ルーグさまからのご伝言を、伝えさせていただきます」
建物に向かって歩き出したスカアハに一礼すると、今度はセリュードたちのほうを向く。
「あなた方もどうぞ。あなた方にも関係あることですから」
エーディンとアリアンフロッドは「えっ?」と首を傾げた。超加速した船が館の側を突き抜け、旋回しながら減速しだしたのはその後だった。
「今度はなんだ!?」
ファーディアが悲鳴を上げると、減速した船が館の入り口・・・・・・白馬の側に着地した。
「お・・・・・・おおお・・・・・・お・・・・・・」
「相変わらずとんでもない加速力だな。かかる負荷も半端ない」
「そうか?俺には何も感じられない」
その船―――ウェーブ・スウィーパーから涼しい顔のクトゥリアとマナナン・マク・リール、フラフラ状態のディステリアが降りてきた。
「ここが影の国か・・・・・・ほら、しゃきっとしろ。弟子入りできないぞ」
「俺は、ここへ弟子入りしに来たんじゃなぁぁぁぁぁぁい!!!!!」
どこか間抜けなディステリアの声が、影の国にある館の前から響いた。