第115話 突入
三年。その間に世界は混迷を極めた。疑心暗鬼に包まれた世界は、国家間の連携がうまく機能していなかった。それこそが、人知れず世界を脅威にさらしている謎の敵、デモス・ゼルガンクの狙いであり、今の世界の状況はまさに彼らの望みどおりだった。
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ムルグラント国、ビフレストの近くに張られたキャンプ。そこに張られたムルグラント軍の動きが慌ただしくなってきた。
「本部から指令が来た!全軍、出撃!!」
司令官の合図と共に、ヘリコプターが動きは続々とビフレストを渡り、再びアースガルドに進軍する。自分たちが大きな悪意に動かされているとも知らずに。
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その頃。ノーサリカ大陸、ハルミア近郊にある荒野。崖の上に、黒いマントに身を包んだ一人の男が立っていた。
「いよいよ・・・・・・始まる・・・・・・」
めくったフードの下から現れた顔。それは、かつてこの地で大勢の部下を失ったバズザ・サラマンジェ。あの戦いの後行方をくらませ、この三年間音信不通だった。
「今の俺の望みは、ここで命を失った部下の仇を討つこと。それが、ただの私怨だということも、自己満足だということはわかっている。・・・・・・だが、俺は・・・・・・」
そう呟くと、バズザの目の前に半透明な体の霊体が現れた。
「・・・・・・わかっている・・・・・・契約を果たしたら、その時は・・・・・・」
そう呟きながら、バズザは崖を飛び降りた。その遥か向こうに展開している、ハルミア軍の陣営に向かって。
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最大速度で空を駆けるイェーガーは、ある場所に差し掛かっていた。
「あの島か・・・・・・」
操縦桿を握っているのは、凛々しい顔に鋭い目つきを持った男性・・・・・・・・・三年の修行を経てさらにたくましくなったセリュードだった。そして、彼の近くにある席には、クウァル、セルス、ディステリアが座っていた。
「あの島に・・・・・・デモス・ゼルガンクが・・・・・・」
髪を長く伸ばしたセルスが、厳しい面持ちで前方に近づいている島を見つめている。その後ろの席に座っているディステリアとクウァルも三年前と比べて凛々しいものに変わっており、近づく決戦の空気を感じ取っていた。
「ついに・・・・・・乗り込むんだな・・・・・・。奴らのアジトに・・・・・・」
右手を握り締めるクウァルに対して、「ああ」とディステリアは抑揚のない声で答える。
「どうした?突入前だから、緊張しているのか・・・・・・?」
冗談混じりに聞くクウァルに、「ああ」と答えたので、三人は「「「ええっ!?」」」と驚いた。
「・・・・・・冗談だ。それより、お前らこそ緊張はほぐれたか?」
「何?」
「肩に無駄な力が入っている」
腕組みをして笑うディステリアに聞き返したクウァルに、それとなく指摘する。息をついたクウァルはシートに深く沈む。
「余計なお世話だ・・・・・・・・・」
「・・・・・・機動部隊、全員参加の上に、誰か一チームでも足を引っ張ればそれだけ勝率も下がる。プレッシャーを感じているのは、俺たちだけじゃない」
セリュードの言葉に、クウァルとセルスも頷く。
「・・・・・・という訳で、今の会話を通信で流させてもらった」
それを聞いて、「「「おい!!」」」と三人が叫ぶ。
「お前らの気を引き締めるための冗談だ。肩の力を抜くのもいいが、気の抜きすぎで負けた、なんてことになるなよ・・・・・・」
笑顔のセリュードの言葉は明るいが、その裏に込められた意味を知って覚悟を固めた。
「・・・・・・大丈夫。覚悟は・・・・・・できている・・・・・・!」
ディステリアの言葉に、「うん」とクウァルとセルスが頷く。
「では―――」
セリュードが操縦桿を倒してイェーガーを加速させると、同じ空域に格イェーガーも加速する。
「―――このまま一気に突っ込むぞ!!」
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島のほぼ中央、高い山の上に建った中世風の城にある塔の一つで、男性の声が聞こえてきた。
「何・・・・・・侵入者だと・・・・・・?」
部屋の中では、先程の声の主であるソウセツが伝令の報告を受けていた。あごに指を当てて歩き出したソウセツに、伝令もついて歩く。
「・・・・・・ブレイティア・・・・・・なのか。・・・・・・だが、なぜ・・・・・・奴らはこの島の存在を知っているのだ・・・・・・。まさか、裏切り者・・・・・・内通者がいるのか。・・・・・・いや、それよりも、迎撃の体勢はどうなっている!?」
「島の至る場所に設置した砲塔システムが起動していますが、撃ち落せない内に別の部隊が現れました。おそらく、一体が単機で突っ込み砲塔の迎撃・かく乱をしている間に、その別動隊を突入させるつもりかと・・・・・・」
そこまで聞いた時、ソウセツは一度、立ち止まった。
「・・・・・・それは、君の分析かい?」
「いえ、カーモルさまの読みです。カーモルさまは敵の出方を見ておられまして、クーリアさまも全力でそれをお手伝いしております。ソウセツさまは、どうなされますか・・・・・・?」
「そうだな・・・・・・・・・」
ソウセツは呟きながら、再び歩き出す。そのまま司令室に入ったソウセツに、カーモルが振り向いた。
「状況はどうだ。カーモル・・・・・・」
黙り込むカーモルに「どうした?」とソウセツが聞く。
「・・・・・・私がとしたことが、思わぬ苦戦をしいられている・・・・・・」
「何?どういうことだ」
そこに、「先頭部の前線基地より、映像が届きました」と、オペレーターの一人が報告した。
「メインモニターに映します」
中央の巨大モニターを見たソウセツとカーモルは、「なっ」と絶句した。そこに映っていたのは、小型の装甲車ほどの大きさをした機械の獣に乗っている、橙色の長髪の女性の姿だった。
「・・・・・・バカな・・・・・・本当にたった一人だと・・・・・・」
どんな強固な装備をしていても、このような攻撃の激しい所に単独で乗り込むのはただの無謀でしかなくて、それは戦略として非常に非効率的。そのような戦術を取らせる参謀はただの無能でしかない。
「(それなのに、なぜ・・・・・・いくら人間が愚かでも、このようなリスキーな手は・・・・・・)」
唖然としているカーモルをよそに、ソウセツは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「(ば・・・・・・バカな・・・・・・あれは、我が同志が審判の実行を確実なものとするために作ったもののはず・・・・・・いや、それ以前に・・・・・・)」
ソウセツの目は、画面に映っている女性に向いていた。
「(・・・・・・あの女は・・・・・・誰だ・・・・・・!!)」
拡大した映像に映されている、凛とした表情の女性は、ソウセツの知らない人物だった。いや、『人物』といっても人間ではない。なぜならその女性の背中には、天使が持つ純白の鳥の翼と悪魔が持つ漆黒のコウモリの翼を合わせ持っていた。
「(・・・・・・天使と悪魔の翼を持っているだと?あの女もディステリアと同じ、天使と悪魔の力を合わせ持つ《ハイブリッド・ハーフ》なのか・・・・・・!?)」
ソウセツが目を見開いたその時、画面が激しく揺れた直後にノイズが入って映像が途切れた。
「前線からの映像、途絶えました」
「とりあえず、回線を繋げ。すぐに応援部隊を向かわせる。到着まで応戦させろ」
「ハッ」とオペレーターが回線を開き、たった今ソウセツが言ったことをそのまま伝える。その側で、ソウセツは何かを考えていた。
「(あれは我が同志が『切り札』と称していたもので、我も切り札に相応しいと思うほど。だが、その力が敵に渡ったということは、可能性は二つ。同志が裏切ったか、奴らにやられたか・・・・・・)」
ソウセツは後者と結論付けた。それは、決して信頼から辿り着いた答えではなく、相手を監察して得た数式のような答えだった。
「・・・・・・問題は・・・・・・」
「・・・・・・・・・敵がなぜこのようなやりかたで来たか、か・・・・・・」
カーモルの問いにソウセツは、「む?・・・・・・うむ・・・・・・」と答えた。
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島の一角に着地したセリュードたちは、大勢のディゼア兵に囲まれていた。クウァルとセルス、セリュードとディステリアはそれぞれ背中を合わせ、周りを取り囲んでいるディゼアソルジャーに武器を向ける。
「終わらせる!裁きの炎、ジャッジメント・ブレイズ!!」
三年前、ウリエルが放ったものと同じ技を放つ。
「ルーチェ・シュナイダー!!」
セリュードは自分の剣にためた炎を、ディステリアが剣を振ると同時に一斉解放する。解き放たれた闇と炎がディゼアソルジャーを焼き尽くしたが、逃れた数体が二人に襲い掛かった。しかし、攻撃は水晶の壁に阻まれた。
「ナイスだ、セルス!レイジング・フィスト!」
熱で赤く発光した拳を、右ストレートの後に左腕のラッシュをかけた。残りのディゼアが全て倒れ、崩れ去った後、四人は溜め息をついた。
「他の突入部隊もこうだろうか」
「おそらくそうだろう。いずれにしろ、急いだほうがよさそうだ」
クウァルとセリュードが言うと、「そうね」とセルスも歩き出した。その中でディステリアだけが、浮かない顔をしている。
「(・・・・・・もうすぐ、この戦いは終わる。嬉しいはずだ・・・・・・こんな・・・・・・奪うだけの戦いが終わることは・・・・・・)」
だが、彼の心は晴れず、気持ちの悪いモヤモヤが支配していて、それが彼のイライラの元となっていた。
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島の別の一角。白い髪の少年と暗い紫色の髪の少年。その後ろを夜のように黒い髪の少女と、水のように青白い髪の少女が歩いていた。
「・・・・・・でも、まさか・・・・・・本当にやらせるなんて・・・・・・」
「信じられないか、ルルカ?」
振り返った少年に、「だって・・・・・・」と不安そうな顔を向ける。
「・・・・・・あれは彼女が言い出したことなんだし、それにもし無理があったりしたら、アウグスたちも許したりはしないはずだ。なあ、クルス」
先頭を歩いていた白い髪の少年は、「ああ・・・・・・そうだな」と振り返った。
「・・・・・・なんだよ。たった三年会わなかっただけで、そんなスーパークールになって・・・・・・」
「は・・・・・・?クドラ、俺はそんなに変わったか?」
「うん」
「変わった、変わった」
「本当に変わったよ」
ルルカ、クドラ、リリナの答えに、クルスは少し照れた。特にリリナからは、いつもとは違う雰囲気がただよっていたためか、少し顔が赤くなった。
「・・・・・・でも、こうお喋りもしていられない。早く配置につかないと」
リリナに向かって「そうだな」とクルスが言う。
「『深入りしない』『自分の命を無駄にするような真似はしない』『離脱時間の厳守』。これが、クトゥリアが彼女に提示した条件だ。だが・・・・・・」
「守りそうにないよね、彼女・・・・・・」
ルルカの言葉に、「・・・・・・急ごう・・・・・・」とクドラが呟くと、四人は目的の場所へと進んで行った。
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一方、また別の一角では。
「・・・・・・さっきの戦闘音、誰か見つかったのか・・・・・・?」
「セリュードたちか・・・・・・クルスたちか・・・・・・どちらしても、いい状況じゃなさそうだ・・・・・・」
「セイクリトさん・・・・・・睦月・・・・・・冷静すぎ」と言った少年のほうを睦月が向いた。
「こういう時こそ、冷静な判断力が必要なものだ。それより・・・・・・いつまで着いて来る気だ?」
後ろを振り向いたセイクリトに、後ろの二人は首を傾げる。
「・・・・・・いつまでって、私たち同じ組なんですけど・・・・・・」
少女の答えに、「いや、お前じゃない。ミリア」と言う。
「・・・・・・ユーリとミリアはごまかせても、俺や睦月はそうは行かない。出て来い」
すると、セイクリトが視線を送る草むらから、一人の少女が出て来た。
「ユウ!?」
三人は驚いたが、一番驚いたのは睦月だった。
「なんだ、睦月・・・・・・気配には気付いていたくせに、誰のものかは気付いてなかったのか」
呆れ顔のセイクリトに、睦月は言葉も出なかった。
「・・・・・・ユウ・・・・・・なんで来たんだ・・・・・・?」
溜め息をつく睦月に、「ごめんなさい」と謝る。
「・・・・・・でも私、ムーの側にいたい」
「側にいたいって・・・・・・わかっているのか?・・・・・・これは・・・・・・」
「わかってる。この戦いに、私たちの未来がかかっていくことぐらい。だから、私もムーと一緒に戦いたい・・・・・・」
「覚悟は・・・・・・あるのか・・・・・・?」と、セイクリトが聞く。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・何かを守るためには・・・・・・」
「・・・・・・相手を傷つける覚悟を、背負わなければいけない・・・・・・でしょ?」
ユウはゆっくりと目を閉じる。
「・・・・・・自分の命を投げ出すことでも、辛い戦いに耐えることでもない・・・・・・誰かのために、重荷を背負う・・・・・・」
「まあ・・・・・・結局のところ、人それぞれなんだが、それが君の覚悟なんだな・・・・・・」
コクン、とユウと頷くと、「かっこつけじゃないことを祈るぜ」とセイクリトは踵を返した。
「・・・・・・さあ、思ったより時間をくった。急ぐぞ」
セイクリト、ユーリ、ミリア、睦月、そしてユウのチームは、森の中を進んで行った。
「ユウ・・・・・・」
「わかってる・・・・・・大丈夫だよ、ムー」と、ユウは弱々しく笑いかける。
「・・・・・・終わらせよう・・・・・・メリスやロウガのためにも・・・・・・」
睦月の側に来たユウは、瞳に強い決意を秘めていた。それを見ていたユーリとミリアは、互いに顔を見合わせる。
「・・・・・・どうしたんだろう?ユウちゃんって、こんな無茶するような子だったっけ?」
「・・・・・・さあ。だが、今までと違って、ただ睦月にくっついているという訳ではないようだな・・・・・・」
「・・・・・・確か、気分転換に里帰りしたんだっけ・・・・・・?と言っても、ユウちゃんにとっては辛い場所でしかないんだっけ・・・・・・」
「それにしては・・・・・・」と、ユーリはユウの顔を見る。
「・・・・・・しっかりとした顔になってないか・・・・・・?」
「そういえば・・・・・・」とミリアが言うと、「・・・・・・おい」とセイクリトが話しかけてきた。
「・・・・・・いつ敵が襲ってくるかわからないというのに・・・・・・」
ぶつくさと文句を言うセイクリトの後を、「ハハ・・・・・・」と失笑しながら着いて行った。
―※*※―
「・・・・・・で、俺は一人と」
その頃。さらに別の場所では、クトーレが一人で立ち往生していた。
「自由なメンツで残っているのは、信玄とアオイ。だが、あいつらは拠点防衛中だし・・・・・・」
ブツブツ呟きながら、頭をかく。
「・・・・・・まあ、そのほうが俺にとって都合がいいし・・・・・・」
周りの草むらには、暗い緑色の皮膚を持ったディゼアの軍団がひしめいていた。
「・・・・・・スヴェロニアでは、あまり暴れられなかったからな。ここらで大暴れでもするか」
そう言って取り出した小剣から、〔よく言うぜ〕と声がした。
〔シャニアクって国で、あいつらと共に戦ったくせに・・・・・・〕
「いや、お前のことだ」
〔何・・・・・・?〕と、声が聞く。
「・・・・・・暴れたりないだろ。だから・・・・・・」
構えた剣が、〔そうだな〕と声を発した。ディゼアは警戒を向けるだけで、襲ってくることはなかった。
「・・・・・・さて、どうなるかな」
―※*※―
一方、島の海岸沿い。デモス・ゼルガンクの迎撃を全て引き受けている少女のほうは、銃撃が止んでいた。その代わり、空中戦に特化したディゼアが一個大隊ほど出撃していた。
「そろそろいいかな・・・・・・」
彼女は口元に笑みを浮かべると、敵空戦部隊のほうを見る。次の瞬間、彼女に起こった変化に部隊のディゼアが揃って見開き、恐れおののいた。だが、遺伝子レベルで植えつけられた『服従命令』が、彼らを撤退させなかった。
「・・・・・・かわいそうに・・・・・・逃げることすら許されてないんだ・・・・・・」
天使のような慈愛と悪魔のような残虐さを胸に秘め、青い装甲で覆われた鳥の頭を模した銃を向けた。
「・・・・・・恨み、辛み・・・・・・誰かへの憎しみがあったら、全て私にぶつけなさい・・・・・・」
体を包む鎧の背中の隙間からは、右が天使、左が悪魔の翼が三枚ずつ出ている。
「その感情は私が背負う。だから、あなたたちは忘れて逝きなさい」
ディゼアの一体が、「ガアアアアアアッ!!」と吼える。
〔背負うだと!?口先だけで言うな、小娘!我らの恨みを晴らす方法はただ一つ!我らの国を脅かす敵の根絶やし、ただ一つ!〕
吼えた時からそのディゼアの体が所々、棘のように盛り上がり、他のディゼアにも同じような変化が現れた。
〔できぬだろう。小娘ごときに!敵の情けなど受けぬ!我らは我らの命を神に捧げ、国に勝利をもたらす!!〕
「残された人はどうなるの!?」
〔黙れぇええぇええ!!〕と吼えると同時に、無数のディゼアが一斉に襲いかかる。
「・・・・・・そう・・・・・・わかってたわ。でも、あなたたちが苦しむのはもう終わり・・・・・・」
両腕の銃と剣、両肩の鎧についている砲塔状のパーツや、そこに付いている獣型のパーツにエネルギーが溜まっていく。
「時代は変わった。だから、もう恨みは忘れなさい。ただ、忘れてはいけないのは、繰り返してはいけない過ちのみ・・・・・・」
全ての砲門を、ディゼアの群れに向ける。
「―――これは始まり・・・・・・であると同時に、連鎖を断ち切る合図!」
白光に包まれ、「行っけぇええ~~!!」と叫ぶと同時に放たれた光は、ディゼアの群れを飲み込み、島の一角に着弾した。
「・・・・・・!?」
着弾点から上がる炎がカモフラージュのための森を焼き、隠れされていた基地を露わにした。
「・・・・・・ディゼアと兵器を生み出す施設。・・・・・・ちょうどいい!!」
彼女の体を覆う鎧が外れると、再び獣の形になる。
「・・・・・・・・・ごめんね・・・・・・」
涙声でそっと頭を撫でた時、その別れを惜しむかのように、機械の獣は喉を鳴らすような音を出した。
「・・・・・・・・・今まで・・・・・・ありがとう・・・・・・」
流れ落ちた涙が、獣の頭に当たる。そのすぐ後、機械の獣は激しい銃撃を放つ基地施設に向けて突っ込んで行った。離れた少女は、光と闇の魔力を三つずつビームのように撃ち、機械の獣の突撃を援護した。
「グオオオオオッ!!!」
獣は一吼えすると、迷いもなく突っ込む。
「・・・・・・・・ッ・・・・・・・さよなら・・・・・・!!」
少女が顔を背けた時、
ドゴォッン!!
轟音が響き渡り、大きな煙が昇った。その大きさは、島の随所にいたブレイティアメンバー全員が見るには、申し分なかった。
「合図だ!!」
各地からその煙を見たブレイティアの面々は、目の前の建物に向けて一斉に突撃した。
「・・・・・・大丈夫か・・・・・・?」
ドラゴンの問いに、「ええ」と弱々しく答える。
「・・・・・・私の仕事は終わり。後は頼むわよ・・・・・・」
そう呟くと、彼女は後から来た巨大なドラゴンに乗って、その場を後にした。