第11話 再会?
最初に断っておきます。ちょっと強引な展開、というか茶番と感じられる方がいると思います。
セリュードと名乗る騎士に連れられて森を抜けたディステリアら四人は、そのまま城にやって来た。四人はそのまま、堀に渡された橋を渡り庭に入った。
「ここまで来れば、大丈夫でしょう」
セリュードが振り返ると、「は、はあ。あ、ありがとうございました」とエーディンが言った。
「で、では、私たちはこれで・・・・・・・」
アリアンフロッドがそう言って城を立ち去ろうとするが、「おいおい、ちょっと待った」と呼び止められる。
「お二人は、どこか行く当てでもあるのか?」
その途端、二人はギクッ、と固まった。行く場所など無かったのである。
「やはり当てなどないのでしょう。どうぞお通りください。王がお待ちです」
ちょうど堀に渡された橋が上がり、入り口が閉まってしまった。
「門も閉まりましたし、今日はひとまずここにお泊まりください」
「・・・・・・・」
仕方なく、二人は城の中に入り謁見の間に通された。
―※*※―
「エオホズ王。エーディンさまとアリアンフロッドさまをお連れしました」
「うむ、ご苦労だった」と答えた玉座に座っている男を見て、エーディンは目を見張った。その男は、エーディンの夫のエオホズ・アレイヴそのものだった。
「そっ、そんな。うそ・・・・・・でしょ」
「久しぶりだな、エーディン。もう数百年になるかな」
「数百年!?」とアリアンフロッドが驚く。
「うそ・・・・・・だって・・・・・・ほんとに・・・・・・エオホズなの・・・・・・?」
エオホズが「ああ」と言った途端、エーディンの目に涙が溢れてきた。はるか昔のエオホズ王との幸せな日々が蘇ってきたのだ。
「エ・・・・・・エオホズ・・!」
感激に涙でいっぱいになったエーディンが駆け寄ろうとした時、
「はい、スト~ップ!!」
突然、割り込んできたセリュードに、「え?」とエーディンは戸惑った。
「王・・・・・・少し悪戯が過ぎたようです」
「そのようだな・・・・・・すみませんでした・・・・・・ご先祖さま」
そう言ってエオホズとセリュードは頭を下げたが、エーディンにはわからなかった。
「え?」
「いえ、ですから・・・・・・・このような悪戯をして、申し訳ありませんでした・・・・・・ご先祖さま!!」
エオホズの言葉に、「えええええ~~~~~!?!?!?」とエーディンが声を上げた。
―※*※―
数分後。
「つまり、このエオホズ王はエーディンの子孫に当たる人ってこと?」
怒り気味のアリアンフロッドに、「そういうことになります」とセリュードが答える。
「まことに、申し訳ありませんでした」
頭を下げるエオホズに、「いえ、いいのよ」とエーディンが言った。
「見抜けなかったこっちも悪いんだから・・・・・・」
そう落ち込むエーディンだが、今目の前にいるエオホズ王はエーディンの夫だったエオホズ王と瓜二つで、見間違えるのも無理はなかった。
「そうよね。あれから数百年も経ってるんだから・・・・・・私って・・・・・・バカですよね・・・・・・」
「いえ、人を愛しいと思う気持ちはとてもすばらしいものです。そのようなことも考えず、王にこのような悪戯を持ちかけた私に落ち度があります。責めるなら、私を責めてください」
「何を言う。私こそ、少しでもご先祖さまをからかうと言う気持ちが出てしまった。一国を担う王としては情けなきこと。罰を与えるのなら、私を・・・・・・・」
「何を言うのですか王」とセリュードが止める。
「セリュード。私は王として、そなたがこのような悪戯を持ちかけた時、きっぱりと断るべきだった。それなのに・・・・・・・私に王としての自覚が足りないからだ・・・・・・」
「そんなことは・・・・・・」
言い合う二人に「あのう・・・・・・」とエーディンが話しかけると、二人そろって「何か?」と聞いてきた。
「別に気にしてはないですよ。それに、あなたたちのおかげであの時の幸せな日々を思い出すことができました。ありがとう」
「ご先祖さま。もったいないお言葉です」
笑顔でそう言ったエーディンに、エオホズは王座を下り、片膝を折って頭を下げた。
「頭を上げてください。あなたは仮にも、一国の王なのでしょう」
エーディンに言われて、頭を上げたエオホズは申し訳なさそうな顔をした。
「はは・・・・・・そうですな・・・・・・」
と呟くと、再び王座に座った。
「これからどうしましょう。ここに居続けるといずれここに人たちに迷惑がかかります」
さっきとは一転、不安げな表情でアリアンフロッドが聞く。
「ご先祖さまを守るためなら戦うこともいとわない。と、言いたいのは山々なのだが・・・・・・・あの国にはクーフーリン殿がいるからな。我が国に多大な被害が出るのは明確。・・・・・・かと、言ってご先祖さまたちをやすやすと受け渡す訳にも行かぬ。どうしたものか・・・・・・」
「すみません。私たちが来たばかりに・・・・・・」と暗い顔をするエーディンに、エオホズは優しく言う。
「そうご自分を疫病神のように言うのは止めてください。セリュード、彼女たち二人を影の国に連れて行ってくれぬか」
「影の国に・・・・・・ですか?」と、セリュードが聞く。
「スカアハ殿が相手なら、簡単に手出しができないはず。たとえ、クーフーリン殿でもな」
「なるほど、スカアハ殿はクーフーリン殿の師。うまくすれば彼を説得できるかもしれない」
「頼めるか?」と聞くエオホズに、「はい。引き受けましょう」とセリュードは答えた。話をつけたエオホズとセリュードを見て、アリアンフロッドとエーディンは話した。
「私たち、無視で話が進んでない?」
「そうね。でも良いんじゃない?」
「そうそう。俺たちなんて空気だぜ・・・・・・」
「「あっ・・・・・・」」
明らかにいじけている口調のディステリアに、エーディンとアリアンフロッドが振り返る。そこでやっと、エオホズ王も視線を向けた。
「そういえば、貴行らは何者だ?」
「お主・・・・・・クトゥリアか?」
「お知り合いですか?」と怪訝そうに眉を寄せてセリュードが聞く。
「ああ。邪竜退治の一件で少し、な。では、その少年は?」
「弟子です。と言っても、師事させようとする者は別におりますが・・・・・・」
「そうか。で、その者を探してこの国に来た・・・・・・ということかな?」
「いえ。乗る船を間違えてやってきた。しかも、気付いたのは森で迷ってしまった後という、なんとも呆れた事情でございます」
隠しもせずサラッと自分たちの失敗を話すクトゥリアに、ディステリアは目を伏せ、エーディンとアリアンフロッドとセリュードは唖然とし、エオホズは何と言っていいかわからず苦笑した。
「それにしても・・・・・・騎士団が妖精を狙う?少しおかしいな」
すぐ釈然としない表情をして呟いたクトゥリアに、エオホズとセリュードは困ったような表情をする。
「実は・・・・・・今この国では、トゥアハ・デ・ダナーンの神々と妖精を排除しようという動きがあります」
「だから、私たちが襲われたんだ」
暗い表情でエーディンが呟くが、「ちょっと待って」とアリアンフロッドが口を挟む。
「それはどうして?」
「我々も、何度も問い合わせていますが・・・・・・納得できるような答えは返っていません」
「ひどい時は門前払いだった、とも聞いている」
「そんな。理由もなしに排除しようとするなんて・・・・・・」
再びエーディンが呟くと、あごに手を当てていたクトゥリアが口を出す。
「・・・・・・妖精と言えば、どっかの領主が妖精を洗脳していたな・・・・・・」
「ああ。そういえば、そんな事件があったな~・・・・・・せっかく忘れられそうだったのに、思い出させるな。あんな胸くそ悪い事件」
毒づくディステリアに、「それはともかく」とクトゥリアは手を叩いた。
「おい!!!」
文句を言うディステリアを遮り、「その事件なら、」とアリアンフロッドが口を挟む。
「ディナ・シーの方たちが、あの領主に縛られていた妖精を連れてきたんです。今、ディアン・ケヒトが洗脳を解く方法を探していると聞いています」
「そうか。それだけが心残りだったんだ」
穏やかな表情でアリアンフロッドに向き直るクトゥリアに、「ウソつけ」とディステリアが小さく呟いた。
「エオホズ王。よければ、彼女たちを送るのに、我らも同行させてくれませんか?」
「何!?」
「影の国といえば、女武芸者のスカアハがいます。彼の修行もつけてくれるかもしれません」
「そんな暇があれば、だがな」
精一杯の皮肉を込めたディステリアに、クトゥリアは意味深な笑みを返す。本心が見えない態度に、ディステリアは警戒を抱く。
「しかし、いいのか?影の国での修行は、下手をすれば命を落とすと聞く」
「ふむ。それは少し困るな~~・・・・・・」
あごに手を当ててわざとらしく唸るクトゥリアを見て、ディステリアは嫌な予感を覚える。
「(まさか、俺を影の国とやらに放り出す気じゃ・・・・・・)」
最初は、胡散臭いけど頼りになる男と思っていたが、最近になってますます訳がわからなくなってきている。そんな不安を抱かれていることなど露知らず、クトゥリアは姿勢を正してエオホズ王に目を向ける。
「とりあえず、我々も影の国を目指します」
「ふむ。セリュード、どうだね?」
「構わないと思います。五人程度では目立たないでしょうし・・・・・・」
「決まりですね」とクトゥリアが笑みを浮かべた。
―※*※―
翌日。
「では、我ら一同。影の国へと向かいます」
「うむ。ご先祖さまたちを頼んだぞ」
「はい。王も、奴らが来るでしょうから十分気をつけてください」
衛兵の「開も~ん」と言う声が響くと、城の門が開いて堀に橋が架かった。しかしそこには、クーフーリン率いる赤枝の戦士団が待ち構えていた。エーディンたちは、唖然とした。
「エオホズ・アレイヴ!幻獣をかくまった罪により、貴様の身柄を確保する。覚悟せよ」
自ら軍を率いて、城から出てきたもう一人のアルスター王、コノール・マクネッサが声を上げた。
セリュードの号令で、ガガガガガガッ、と轟音を立てて橋が上がりだした。
「しまった。急いで中に進入しろ!!」
だが、マルカスが号令をかけた頃にはもう門は閉まり、更に城の周りには結界が張られた。
「結界だと!?こしゃくな、クーフーリン殿!!」
マルカスが叫ぶと、軍勢の中から筋骨隆々の大男が出てきた。体には鎧は着けていなかったが、体からは異様な気が放たれていた。
「ふぁっふぁっふぁっ。任せろ」
しゃがれた声で話した後、巨大な腕を振り上げて結界に打ち込もうとした。
「まずい。いくら結界を張ってても、クーフーリンの攻撃を受けたら・・・・・・」
場内のセリュードが言った時には、「ぬおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」と大男は攻撃態勢に入っていた。拳が結界に当たった瞬間、
ゴオォォォォォン!!!
耳を突かんばかりの轟音と共にクーフーリンは後ろに飛ばされた。
「ぐおおぉぉぉぉぉぉっっ!!」
「何!?」
「あっさりとやられたな・・・・・・」
マルカスが目を見張り、肩を落としたクァイルが呆れると、自称クーフーリンは兵の集団の中に倒れた。
―※*※―
一方、城の庭では衛兵たちが騒いでいる。
「どうするのだ?」
「どうすると言われても・・・・・・王」
「とりあえず、時間を稼ぐか・・・・・・セリュード、その隙に・・・・・・」
「わかっております。地下の通路で脱出し、影の国へと向かう。王、あなたも・・・・・・」
「いや、私はこの城の王。簡単に城を開ける訳にはいかん」
「しかし、ここにいては・・・・・・」
「そうですよ。彼らに勝てる見込みはないんでしょう?」
心配するエーディンに、「大丈夫ですよ」とエオホズは答えた。
「この城の結界は一級品。いくらクーフーリン殿でも、そう簡単には破れない」
「時間にして、どれくらい持つのですか?」
セリュードの問いに、しばらくあごに手を当てて考えていた。
「この結界を張った魔術師ではないからわからぬし、攻撃の度合いにもよるが・・・・・・攻撃を受け続ければおそらく、もって半日」
「半日・・・・・・」とエーディンが呟く。
「その間に影の国に行ってスカアハさんを連れて、戻らなければならないんですね?」
アリアンフロッドの後に、「もし間に合わない場合は・・・・・・」とセリュードが聞く。
「わかっている。我々も脱出し、影の国に向かおう。簡単には着けないだろうがな」
こうしている間にも、結界の壁への攻撃が続いている。エオホズが「急いでください」と叫んだ。
「あなたたちも、絶対に無理はしないで下さい。約束して下さい!」
エーディンの言葉に「わかりました」と答えた。
「では・・・・・・その約束を誓約にしましょう!」
「それはダメ~~~!!!」
エーディンが慌てて止めた後、アリアンフロッドとセリュードと共に城の中に走って行った。しかし、王様であるエオホズがしてもゲッシュは成り立つのか?
「では私も。ゲッシュ!影の国に着くまで、命に代えても―――」
「だから、やめてください!命に代えられると、かえって困るんですよ~~・・・・・・」
「し、しかし・・・・・・」
「グダグダ言ってないで、さっさと行くぞ!!」
渋るセリュードをディステリアが押し、五人は城の中を地下へと急いだ。
説明
誓約
本来は、戦士たちの契約のことで、これを破ることは死に勝る屈辱だと考えられている。
この物語では、言霊の発見により、現在のエリウ国内では簡易儀式の類に入っている。結べば超上的な力を得るが、破ればその力と共に、代償として自分が元から持っていた何かを失う。