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幻想戦記  作者: 竜影
第2章
124/170

第104話 動いた将軍!ロウガの攻防

それほどでないと感じる方もいるかも痴れませんが、しばらく鬱展開が続きます。お覚悟を。





洞窟の入り口にたたずむカイネは、厳しい表情で景色を眺めていた。




「契約対象者に情が移ったのかと思ったぞ」

「私が?ありえません」

「だといいがな」

「あまり入れ込むな。どうせ、捨て駒だ」




「・・・・・・ありえない。僕が契約対象に情を抱くなど」

「カイネ・・・・・・」

名を呼ばれて振り返り、岩壁にもたれるヘスペリアを見て安堵の表情を浮かべる。

「ヘスペリア、もういいのか・・・・・・」




「あまり入れ込むな。どうせ、捨て駒だ」




「―――っ!!」

言いかけてまたヴォルグラードの言葉が頭をよぎり、カイネは顔をしかめる。

「だ、大丈夫?どこか怪我でも・・・・・・」

「黙れ―――!」

駆け寄ろうとするヘスペリアを睨み、彼女が身を震わせるとカイネはハッと我に変える。

「・・・・・・すまない。ちょっと気が立っていたようだ・・・・・・」

「そ、そう。だったら、いいんだけど・・・・・・

」憂鬱な表情で視線を逸らすと、ヘスペリアは目眩がして、よろめいた彼女をカイネが受け止める。

「ご、ごめん・・・・・・」

「さっき怒鳴ったんだ。お相子だ」

「う、うん・・・・・・」

目眩が収まってヘスペリアがカイネから離れる。

「さあ、もう少し休んでいるんだ。これから、ブレイティアの部隊に仕掛ける」

「うん・・・・・・」

頷いて洞窟に入るヘスペリアを見送り、カイネは厳しい表情をしていた。

「・・・・・・ありえない。ありえて・・・・・・たまるか・・・・・・」

契約を交わした者との契約が満了した時、その命を奪い自らの力を強める。それが彼という存在。それを否定しかねない感情を抱くことに、多少の苛立ちを覚えていた。



                      ―※*※―



テスト走行中の装甲車―――基地にもなる巨大なトレーラー―――でブレイティアのある小隊が移動している。だが、謎の襲撃を受けその試作一号車が破壊される。すぐに異常事態を察知してブレイティアのメンバーが降りてくるが、続いて試作三号車、試作四号車が破壊され、時間差で試作二号車が破壊された。翻弄する奇襲攻撃でペースを乱され、浮き足立つブレイティアメンバーたちの前に、重厚な鎧をまとった男が現れた。

「我が名はヴォルグラード。デモス・ゼルガンクを率いる、将の一人だ」

「デモス・ゼルガンク!?」

聞いた隊員の一人が武器を構えると、男は満足そうに笑みを浮かべた。

「さあ、抗って見せろ!!」

男が地面に降り立つと、地面から泥人形が現れる。最初は浮き足立ったブレイティア隊員たちも今度は臆せず、各々武器を構え向かって行った。



                      ―※*※―



「はぁああああっ!!!!」

白い体毛に包まれた屈強な体の人狼が、泥が集まったような体をした敵の顔を殴りつける。赤い目をした人に似た形の泥人形は、草の上に倒れると同時に溶けて消えた。

「こいつら・・・・・・まだいるのか・・・・・・」

その人狼―――ロウガは握り締めた拳を開いて、指に生えた鋭い爪で切りかかる。泥人形は愚鈍らしく、目にも止まらぬ速さで現れるロウガの攻撃を、目の前から仕掛けられても防ごうともしない。そのような敵がいくら群がってもロウガの敵ではなかった。

「これで―――」

何体目かの泥人形が地面に倒れると、ロウガの周りは静けさを取り戻した。

「最後か・・・・・・」

手首の毛で頬の汗を拭う。と言っても、その頬を含めた顔と胴体は毛に覆われているので、汗など拭わなくてもいいのだが、人間としての習性か本能か、時々、こういう動作をとる。

「(・・・・・・時々、思う。こんな姿をしていても、俺は『人間』ということか・・・・・・)」

ブレイティアがあらゆる種族の混成部隊と言っても、人狼であるロウガに接しようとする者は少なかった。ロウガは、噛み付いたものを人狼にする能力はない、ワーウルフとしては稀有な存在。それはブレイティアの中では周知の事実で、さらにディアン・ケヒトを始めとした医療班の検査により判明した事実だったが、それでも、彼に心を許しているのは十数人。最初に自己紹介した者たちばかりだった。

「(・・・・・・何、落ち込んでいるんだろう。そんなことより・・・・・・)」

小さく頭を振ると、溶け残っている泥人形のほうを見た。

「・・・・・・今までの先住民の抗議行動とは、明らかに違う。こいつらは・・・・・・」

その時、ロウガの耳に悲鳴と金属音と爆音が響いてきた。

「(・・・・・・なんだ、まだいるのか・・・・・・!?)」

爆音のほうを向いた瞬間、ロウガは全身の毛が逆立つのを感じた。

「(・・・・・・なんだ・・・・・・この感じ・・・・・・胸を・・・・・・いや、体全体を押し潰されるような・・・・・・そんな・・・・・・感じ・・・・・・)」

己の歯を食い縛り、殺気に包まれた辺りを睨みつけた。足を動かそうとしても、背筋が凍るほどの恐怖に縛られて動けない。その間にも、肉が切り裂かれる鈍い音が響く。

「(・・・・・・助けなくては・・・・・・仲間が・・・・・・危ない・・・・・・)」

しかし、同時に別の感情が湧き上がる。

「(助けるのか?他の人間たちと同じように、俺を恐れているあいつらを・・・・・・?)」

本拠地である〈名も無き島〉に渡って数日。クトゥリア、パラケル、アウグスの三人と共に自己紹介した面々。セリュード、クウァル、セルス。ユーリ、睦月、弥生、サツキ。信玄とアオイに、飛天とメリス。自分と同じ獣人のユウ。そして、ディステリア。

「(俺と似たような目をしていた・・・・・・)」

ディステリアの周りにたくさんの仲間が集まり、ロウガは一人。しかし、彼のほうを向いたディステリアは手を差し伸べ、周りの仲間の中から何人か出てくる。そして、ロウガの側には飛天とメリスが現れ、ある時の言葉を思いかえさせる。



~―回想―~


「あなたは一人じゃない。私たちがいるよ」

「俺たちが出会ったのは、何かのえにしかもしれないな」

笑顔で言う飛天とメリス。


~―回想終わり―~



「(そうだ・・・・・・俺には、もう・・・・・・大切な仲間がいるんだ・・・・・・)」

右手を握り締め、キッと睨むと、轟音と共に爆炎が上がった草原に向かって駆け出した。



                      ―※*※―



炎が上がっている駐留地点では、移動基地の装甲車とコンテナはほとんどが破壊されており、傷だらけの兵士が地面に倒れていた。いずれも世界中から集められた、心も体も強い猛者たちだったが、そこには立ち上がっている者は一人もいない。

「(何人だ・・・・・・?二人・・・・・・三人・・・・・・四人か・・・・・・)」

殺気で動けなかったとはいえ、爆発が起きてからそれほど時間は発っていない。実力にもよるが、一人でここまでの被害を出すことは不可能。ロウガはいつでも武器を取り出せるように、左手にタリスマンを握りながら走り続けていた。

「いったい、何者が・・・・・・」

やがて、駆け抜けるロウガの所に金属音が響いてくる。

「近いぞ!!」

加速した直後、全身を鎧で包まれた一人の謎の男を見つける。男は右手に持つ大剣で、左腕で持ち上げている兵士を斬りつけていた。

「なっ、一人だと・・・・・・!?」

男がロウガのほうを向くと同時に、手から離されて地面に落ちた兵士は胴体を斬られており、どう見ても即死だった。その兵士だけでなく、周りには謎の男にやられたであろう、たくさんの兵士が横たわっている。全員、胴体を切り裂かれており、どう考えても手遅れの状態。

「貴様・・・・・・何者だ!?」

両腕を構えて臨戦態勢をとるロウガのほうに、謎の男が顔を向ける。その瞬間に重圧感がのしかかるが、ロウガは耐えていた。

「ほう、少しは骨がありそうだな・・・・・・。奴らとやる前に、少し遊んでやろう・・・・・・」

不適な笑みを浮かべて構える謎の男に、ロウガは新たに戦慄を覚えた。その瞬間から、素手では勝てないと直感した。

「・・・・・・デモス・ゼルガンク八幹部が一人、ヴォルグラード。いざ、参らん!!」

向かって来ると同時にかかる圧力も強くなり、ロウガは咄嗟にタリスマンから武器を取り出した武器で防いだ。その武器は弧の部分に刃が付き、手で持つ部分に先端が尖った盾が付いた巨大な弓だった。

「判断力も少しはあるようだな・・・・・・。さらに、貴様の得意な近接戦闘と、弱点の遠距離攻撃に対応させた武器・・・・・・」

着地後、即座に自分の武器の特徴をヴォルグラードに、ロウガは目を見張った。

「(・・・・・・こいつ・・・・・・一目で俺の武器・・・・・・〈銃剣弓ヴォルファング〉の特徴を・・・・・・)」

「―――おっと、驚いている暇はもうないぞ・・・・・・」

一瞬で真横に現れたヴォルグラードの右手を、ヴォルファングで防いだ・・・・・・はずだった。

「なっ・・・・・・!?」

最初に突き出された右腕はヴォルファングに当たる直前で止まり、代わりにヴォルグラードの左腕がロウガの左胸に突き刺さっていた。

「(バカな・・・・・・あのスピードで、フェイントだと・・・・・・)」

「チッ・・・・・・浅いか」

残忍な笑みを浮かべたヴォルグラードが腕を引き抜くと、ロウガの体から鮮血が飛び散った。

「ぐっ・・・・・・くそっ!!」

至近距離で魔力の矢を放つが、高速移動でかわされる。その直後にも、ヴォルグラードが四方八方から高速の連続攻撃を加える。攻撃しては離れ、離れては攻撃する。高速のヒット・アンド・アウェイに相手を捕らえられないでいた。

「・・・・・・ッ・・・・・・!!」

ヴォルファングの矢を地面に放ち、土煙を煙幕代わりにしてその場からジャンプした。だが、抜けた瞬間、ヴォルグラードが真横に現れる。

「(―――しまった)」

「・・・・・・惜しいな・・・・・・」

空中で身動きが取れないロウガに、心底残念そうに呟いたヴォルグラードの一撃が襲いかかる。当たった瞬間に爆発が起き、ロウガは草原に叩き落とされた。

「・・・・・・ハッ・・・・・・ハッ・・・・・・ちっ・・・・・・さすが、幹部って言うだけは・・・・・・あるな・・・・・・」

地面に着地したヴォルグラードは、立ち上がったロウガのほうを向く。全身の毛はいたる所が血で染まり、息が上がっているボロボロの状態だった。

「判断力はあるようだが、高いと言うほどではないな・・・・・・」

ロウガは矢を連射するが、ヴォルグラードはその場からほとんど動かずに全ての矢をかわした。

「―――先程と比べて反応速度が落ちたか。脆いな・・・・・・」

目を閉じて笑みを浮かべた瞬間、目の前にロウガの姿が現れた。ヴォルグラードが目を見張った瞬間、ロウガは深く踏み込み、自分の体をねじって、右腕を大きく後ろに構えていた。

「うおぉおおおおおおおおおっ!!!」

体全体を大きく使った一撃が体に直撃して、ヴォルグラードが少し後ろによろめくと、ロウガは攻撃に手応えを感じた。

「(・・・・・・相手は幹部クラス・・・・・・直撃を入れても油断できない・・・・・・!!)」

油断ならない状況の中、ロウガが左腕でもう一発くらわせる。先に右腕を当てた所に寸分の狂いもなく当て、ヴォルグラードを離れた場所に殴り飛ばす。破壊された装甲車の壁がさらに砕け、轟音と共にその辺りに土煙が舞い上がる。さらに、間髪入れずにヴォルファングの矢を放つ。

「爆裂―――獣牙!!」

必殺技で追い討ちをかける。直撃はしただろうが、これだけの数で装備も充実している部隊を一人で全滅させた相手なので、油断は全くできない。

「ハア・・・・・・ハア・・・・・・ぐっ・・・・・・」

さらなる迎撃をかけたかったロウガだったが体の痛みがそれを許さず、魔力の矢の連射が途切れた。両肩を激しく上下させて息を切らせながら、不気味な沈黙の中で立ち昇る土煙を見ていた。

「(少し無理をしたか。・・・・・・だが、奴にどれだけの能力があろうとも、今のはかなり効いたはずだ)」

だが、「・・・・・・気に入った・・・・・・」と土煙の中からした声に、ロウガは戦慄した。

「―――貴様の体から繰り出される技の威力・・・・・・咄嗟に行動できる判断の早さ・・・・・・冷徹なまでの冷静さ・・・・・・」

土煙が晴れると、身にまとう鎧の所々にヒビが入ったヴォルグラードが姿を現した。

「―――この部隊の人間どもは、バカバカしくていかん。正々堂々を掲げるのはいいが、実力がともなっていない。まあ、人間なんてどこに住んでいても同じものだ・・・・・・」

「貴様・・・・・・!!」

ロウガが怒りを燃やすと、ヴォルグラードは割れた甲冑の下で意外そうに目を丸くした。

「・・・・・・仲間を侮辱されて怒ったか。しかし、貴様が怒るほどのことなのか?この部隊の人間どもも、今までに貴様が会った人間どもと、なんの変わりもないだろう」

「貴様・・・・・・なぜ、知って・・・・・・」

見下すような目のヴォルグラードに、ロウガは目を見張る。

「質問を質問で返すのは無礼極まりない行為だが、それくらいの失礼は大目に見てやろう・・・・・・」

一瞬、腕組みをして得意げな顔で笑うが、すぐに辺りをプレッシャーが包み込む。一瞬の隙に攻撃を仕掛けようとしていたロウガだったが、その一瞬すら突くことができなかった。

「ターゲットの身辺調査は、スカウトを成功させるためにも必要なことだ。そういう情報を集めるのは、情報戦を勝ち抜くためには必要・・・・・・というより、必須事項だ」

友人と話すように淡々と話すヴォルグラードは隙だらけのようだが、本人は周りへの警戒を強めていた。

「単刀直入に聞こう。我ら、デモス・ゼルガンクに移る気はないか?」

「なっ・・・・・・どういうつもりだ!?」

叫ぶロウガに、「別にどうも」とヴォルグラードが笑う。

「ただ・・・・・・君にも、この愚かな世界を変えたいと思ったことがあるはずだ。この『生きる価値』も『存在する価値』もない、腐った世界を・・・・・・」

「そんなのは貴様らの勝手な理論だ。罪のない人々を平気で巻き込む奴らなんか、信用できるはずがない!!」

叫ぶロウガに「アッハッハッハ」と、頭に片手を当てて大きく笑う。

「大層、立派な考えだ。だが・・・・・・貴様らが『罪がない』と思っているのは、貴様らの驕りでしかない・・・・・・」

「違う!」と叫ぶロウガに、「いや、何一つ違わない」と笑う。

「真理から見れば、この世に罪がない者などいない。ただ、全ての物が罪を自覚してないだけ・・・・・・。貴様らは罪にまみれた存在なのだよ!」

「そんなことはない」とロウガが声を漏らす。

「いや、君はその一端を知っているはずだ。種族の違い・・・・・・能力の違い・・・・・・それだけで全てを決めつける。ゆえになんの真理も理解できず、ただ腐って行くだけ・・・・・・」

「―――!?」と歯軋りをした瞬間、ロウガの脳裏に過去の記憶が蘇る。






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