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幻想戦記  作者: 竜影
第2章
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第99話 世界最大の諸島






南北に渡り大地が広がる大陸、サウリカ。北に広がるノーサリカ大陸と南に広がるサウサリカ大陸に代表され、いくつもの島々が存在する。人々はそこを、『世界最大の諸島』と呼んでいた。その一つ・・・・・・ノーサリカ大陸の上空を一機の戦闘機が飛んでおり、そのコクピットには本来ありえないはずなのだが、四人の人影が乗っていた。現在、任務で世界を回っている第三小隊―――セリュード、クウァル、セルス、ディステリアの四人だった。

「ノーサリカは土地が広い分、町の数が多くて大変だな・・・・・・」

溜め息をつくディステリアに、「いや、そうでもない」とセリュードが答える。

「国の重要な機関は、三つぐらいの町に集約されている。俺たちはそこに行けばいい」

「どうして、重要な役目をするものを一まとめに?」

「国のことを早く決められる反面、そこを攻め落とされると国の機能が麻痺してしまう・・・・・・」

「なるほどな」とディステリアが頷く。

「一長一短だな。俺たちは三つある重要都市のうち二つを周ったから・・・・・・」

クウァルに「いや」とセリュードが言う。

「そこは、この大陸の担当部隊がやってくれている。だが、何しろ・・・・・・大量の兵器を管理している大国だから、な。いや、管理といえば聞こえはいいが・・・・・・大量破壊兵器を隠し持っていると考えている家臣もいるんだ・・・・・・」

「実際はどうなんだ?」と聞くと、「うーん・・・・・・」と考え込む。

「俺個人としては、微妙だな。例え兵器を持っていたとしても、それは祖国防衛のためと言うかもしれない・・・・・・」

「それは・・・・・・信用するに値するのか・・・・・・?」

クウァルの言葉に、全員が押し黙る。かつてハルミアは、無数の他国に対して攻撃を仕掛けた。『大量破壊兵器を隠し持ち、大量虐殺を企んでいる組織および加担している国に対しての攻撃』と発表されたが、それを信じる者は少なく『支配領土を広げるための侵略ではないか』と疑う者もいた。ハルミアの政府はそれを否定しつつ自国の迂闊さを認めたが、世界では未だハルミアという国に対して多少の不信感を持っており、それは今ここにいるセリュードたちも同じだった。

「・・・・・・ここで考えていても、俺たちの任務は変わらない。次は先住民族ネイティアンの居住地域・・・・・・まずはヴァナハだ」

セリュードは操縦桿を操り、ヴァナハ族の集落へ進路を向けた。



                      ―※*※―



ノーサリカ大陸の半分を占める大国、ハルミア。しかし、ノーサリカ大陸全土を治めているにも等しいためその名はあまり知られておらず、ノーサリカ大陸と言えばそのまま〈ハルミア〉という国を指した。それは、ノーサリカ大陸にある国々をハルミアが引っ張っているからと言われているが、一方では他の国を武力で脅して押さえつけているとも言われていた。この国のそう取られがちな体制は当然のごとく先住民や他国から嫌われており、それがいつしか争いの火種となって点在していた。




その火種を持つ集落の一つ。土色の壁を持つ建物がひしめくフォルプ族の集落では、筋肉が付いた体の上に、直接チョッキを着た若者たちが集まっていた。

「時は迫っている。俺たちを苦しめて私服を肥やす大国に、俺たちが鉄槌を下す時が・・・・・・」

「ああ。だが、そういう時だからこそ、俺たちはもっと気を引き締めなくてはならない」

「ああ、そうだ」と他の若者も頷く。

「よし。じゃあ、みんな・・・・・・」

リーダーらしい少年が言いかけた時、集落の上空を一機の戦闘機が通り過ぎた。一斉に空を見る若者たち。それは、現在ノーサリカ大陸を周っている、セリュードたち第三小隊の乗ったイェーガーだった。しかし、若者たちがそれを知っているわけもなく、慌てふためいた。

「な・・・・・・なんだ!?」

「ハルミアの軍隊か!?」

浮き足立つ若者たちに、「落ち着け」とリーダーらしき少年が一括する。

「あの戦闘機はハルミア軍の物ではない。だが・・・・・・」

着陸態勢に入ったイェーガーを横目に、リーダーらしき少年が近くの若者二人に目配せをする。二人は黙ってうなずくと、建物の物陰に隠れた。ちょうどその時、集落の外れの広間に着陸したイェーガーから、セリュードたち四人が降りてきた。

「ここが先住民族の一つ・・・・・・・・・ええ~と・・・・・・」

「フォルプ族だ」

名前が出せないセルスにクウァルが答えた。そこに、先程から集まっていた若者たちが、セリュードたちの前にやって来た。

「あんたら・・・・・・外国人だな・・・・・・」

リーダーらしき少年に、「ああ」とセリュードが答える。

「俺たちは何もしない。ただ、ここの族長と話に来ただけだ。だから、物陰から隙をうかがう仲間にそう伝えてくれ」

ディステリアの言葉に、そこにいた若者たちは驚く。ディステリアが物陰に目を向けると、隠れていた若者二人が出てきた。

「なぜ・・・・・・わかった・・・・・・」

リーダーらしい少年が、ディステリアを睨んでいる。

「あれだけ殺気を出していれば、どんな鈍感な奴だって気付くさ。よっぽど鈍い奴でなければ、な」

すると、「悪かったわね、よっぽど鈍くて」とセルスが言い返す。どうやら、少年に言いながら、彼女のほうに視線を移していたようだ。

「・・・・・・狙われるような理由はないはずだが・・・・・・?」

「あんたらになくても、こっちには山ほどある!」

落ち着いた様子のクウァルに殺気立つ少年が叫ぶ。

「―――あんたらは軍の回し者か・・・・・・それとも・・・・・・」

それを境に若者たちが殺気立つと、セリュードたちも身構える。その時、「―――やめぬか!」と厳しい老人の声がすると、先程までしていた殺気が少年のものを除き、全て消えうせた。

「・・・・・・あなたが・・・・・・?」

セリュードが振り向く。その老人の側には、屈強な若者二人が従っていた。

「ワシがこの辺りのフォルプ族の集落をまとめる、イルグレイじゃ。おぬしらか?外国から参った客人というのは」

「はい。しかし、なぜそれを?」

「ぬしらのことは、カチナたちに聞いた」

「(ここより先に訪れた集落からの使者、もしくは先祖伝来の精霊か)」とセリュードは納得した。

「あっ、申し送れました。〈ブレイティア〉第三小隊所属、セリュード・クルセイドと申します。こちらは同小隊所属の、クウァル・ハークルス、セルス・セオフィルス、ディステリア・・・・・・」

「軍の者でない私に自己紹介・・・・・・そちらの誠意と受け取ってもかまわないかね・・・・・・?」

「一向に構いません」と、セリュードが答える。

「いいだろう。私は族長のイルグレイだ。この辺りで立ち話もなんだ。わしの家に来なさい」

「―――族長!?」

老人の言葉を聞いて、最初にディステリアたちに突っかかってきた若者が叫ぶ。

「なぁに、心配はいらんさ。この者たちの主であるクトゥリア殿には、わしらも世話になったからな」

イルグレイの言葉に、ディステリアたちが驚く。天界や後から聞いた魔界のこともあり、クトゥリアへの疑問が膨れ上がった。

「「「「(俺(私)たちに会う前、クトゥリアは何をしていたんだろう・・・・・・)」」」」

そう思わずにはいられない四人はイルグレイに案内されて行き、それを殺気立った少年が睨み続けていた。



                      ―※*※―



族長イルグレイの家に入ると、椅子に座るなり早速用件を聞いてきた。

「それで、わしらにどのような用件かな?もしや・・・・・・わしらに武器を取れとでも・・・・・・?」

「いえ。無理やり仲間を増やすような、無粋な真似はいたしません。我々が求めているのは、あくまで協力ですから」

セリュードの答えに、「では、なんのために・・・・・・?」と目を細くしたイルグレイが訊ねる。

「実は・・・・・・この大陸にある国家のハルミアについてなのですが・・・・・・」

セルスが話しに加わろうとすると、族長の側にいた二人の男にセルスが睨まれた。

「ひゃ・・・・・・」

気圧されたセルスが震えると、クウァルが睨み返す。

「二人とも、やめぬか」

「クウァルも、だ。俺たちは、争いの火種をうむために来たんじゃない」

イルグレイとセリュードに言われて、三人は互いに睨むのをやめた。気を取り直してイルグレイがと聞く。

「それで・・・・・・?」

「あの国は、先住民族と外国の人々を嫌っている節がある。もしかしたら、奴らに利用されてあなた方を全滅させようとするかもしれないのです・・・・・・」

「なるほど。注意をしておけ、ということか?」

「はい」と頷くセリュードに、「フム」と言って考えるイルグレイ。

「わかった。ただ、こちらにも問題があっての。若い衆がこれから先、ハルミアの国家に攻め入ろうとしているらしいのじゃ」

「ええ!?どうして!?」と、セルスが声を上げる。

「・・・・・・何年も前から、ハルミアの政府は我々を根絶やしにするために、何度も攻め入ってきた。その中で、家族を失った者は数え切れないほどおる。もちろん、ハルミアの政府がどうしてそのようなことをするか理由はわからぬ・・・・・・」

セリュードはしばらく考えていたが、やがて「まさか」と呟いた。

「そうだ・・・・・・ハルミアの政府も、私たちが警戒している組織とやらに利用されているのかもしれん。・・・・・・わしの想像の域を出ないが、な・・・・・・」

「できれば、こちらにも護衛として部隊を送るか、したいのですが・・・・・・」

「それはできぬだろうな。キミたちも感じたとおり、この大陸に古くから住む者は、他の大陸から来た者に対して過敏に反応する。ハルミアの大都会に住む者からいわれのない差別を受けてきたからのう・・・・・・」

「この集落に住む者の中にも、都会へ行ってひどい目にあって戻って来た者もいる。もっとも、笑い者になってるがな」

「えっ、どうして?仲間なのに・・・・・・」

またセルスが口を出すと、今度は睨まれずお付きの男性に説明される。

「都会に住む者は強欲で、自己中心的、平気で人を騙し、殺す。我々はそういうものだと考え、教えているからだ」

「そんな・・・・・・そうとは言いきれないのに・・・・・・」

「そのとおりだ。だが、そうとでも言わなければ、何も知らない若者たちがまた毒牙にかかる。少しの間でも都会で暮らした者は、精霊の加護を失ってしまうからの」

神妙なイルグレイの言葉に、セリュードたちは暗い表情をする。

「政府からいちゃもんをつけられないため、武器を送ることもできない。警告と現状維持がベストなんですね・・・・・・」

頭をかくクウァルに、「すまんの、そちらも悩ませて」とイルグレイが謝る。

「いえ、気にしないでください」

家の中を重苦しい沈黙が包み込む。しかし、セリュードたちは当面の役目を終えたので、とりあえず帰ることにした。

「では、今日の所はこれで・・・・・・」

椅子から立ち上がったに、「今日のところ?」とイルグレイの眉が動く。

「上層部の命令で、また来るかも知れません・・・・・・」

その時のセリュードの顔に、イルグレイは違和感を覚えた。

「・・・・・・?・・・・・・大丈夫か?ひどく疲れているようだが・・・・・・」

「・・・・・・俺たち、ここまで来るまでの一週間、休みなしですから・・・・・・」

その途端、セリュード以外の三人が暗くなる。そのあまりの暗さに、イルグレイたちは驚かずにはいられなかった。

「・・・・・・お主らも、苦労してるようだな・・・・・・」

同情の目をするイルグレイに、「え、ええ・・・・・・」とセリュードが肩を落とした。



                      ―※*※―



族長イルグレイの家から出て来たディステリアたちの前に、またさっきの若者が現れた。顔をあわせた途端、ディステリアとその若者の間に険悪感が漂う。

「あんたらの用事は、終わったんだろうな」

「心配なく。きっちりとはいえなくても、終わらせた」

若者とディステリアは互いに嫌味を込めて言い合い、互いに気に触り相手を睨み続けた。

「まだ何かあるのか?貴様」

「貴様じゃない。俺の名前はイルグレイ。おまえらが会った老イルグレイ族長の孫だ」

「へぇ~。同じ名前とは、豪勢なことだ」

「なんだと!?」

「なんだ!?」

そのまま睨みあうイルグレイとディステリアを、クウァルとセリュードが引き離す。

「やめんか、ディステリア。今は言い争っている場合ではない」

「そうだぜ。俺たちは今から、サウサリカ大陸のほうに渡らなきゃいけないんだ」

クウァルにそう言われて、ディステリアは「ちっ」と舌打ちをした。

「・・・・・・本当にお前らは、話をしに来たんだろうな」

「ああ。休みなしでな」

ディステリアが皮肉めいて言うと、若者は信用してないとでも言うように、「フン」と鼻で笑った。



                      ―※*※―



その頃、南に広がるサウサリカ大陸では。開けた道路に近い森の中に、伐採道具を持った男が何人もいた。

「いいんですか?木の伐採は、政府に制限されているんじゃ・・・・・・」

不安そうな男性の言葉に、「いいんだよ」と地主が答える。

「この土地は私のものだ。私の土地の木を私が斬ろうが焼こうが、私の勝手だ。さあ、やってくれ」

地主に言われて森の伐採が始められ、木が倒されると、枝に止まっていた鳥たちが逃げるために飛び立った。それを見ていた一人の女性、森の女神カイポラが眉を寄せて呟いた。

「愚かな人間ども。あれほど警告してやったと言うのに・・・・・・」

苦々しげに呟いたその時、森の中から何人もの悲鳴が聞こえだした。

「まさか・・・・・・封印を解いたのか!?」

再び人間の悲鳴が上がると、確信したカイポラは歯軋りした。

「―――愚かな!!」

木の枝から飛び降りたカイポラは急いでイノシシを駆り立て、悲鳴がした現場に向かって駆け出した。人間を助けるためではない。封印を解かれた怪物を封印し、この国を守るためだ。彼女が現場に到着した時にはすでに、伐採に来た人間たちは全て怪物の餌食になっていた。長く鋭く、稲妻のような形に曲がった爪、血に塗られた鋭い牙が生えた細長い口。肩から生えた、禍々しい形のトゲ。一見すると狼男のような姿をした怪物は、新しく現れた獲物のほうを向いた。

「グルルルルル・・・・・・」

「・・・・・・ほう、我を食らおうと言うのか?」

怪物は「ギラアァッ!!」と吼えて、カイポラに襲いかかって来た。

「―――なめるな!!」

襲いかかった怪物の胴体を蹴り飛ばすと、すぐ後に腕を上に向けた。すると飛ばされた怪物を、四方八方から伸びたツタが縛り上げた。

「よし、これで・・・・・・」

「さすがだな。森林の女神よ・・・・・・」

突然した声のほうを向くと、死体の山の中に一人の男性が立っていた。

「何者・・・・・・」

「〈デモス・ゼルガンク〉、ガレゼーレ」

すぐに身構えるカイポラ。その名前にはエウロッパから来た伝令から聞き覚えがあった。

「まさか、人間たちにこの辺りの伐採をさせたのは・・・・・・」

「ああ、我だ。建設プランとやらを差し出したら、すぐに手はずを整えてくれたよ。まったく、愚かなものだな・・・・・・」

「ああ、愚かだ。だが、それでも人間もこの世界の一部だ」

手を上げると、四方八方から太いツタが伸びてきた。だが、ガレゼーレが目を見開くと彼の周りで突風が起き、すべてのツタが切り刻まれてしまった。

「―――甘い!!」

今度は右手の平を向けて少し握ると、地面から根っこが生え、ガレゼーレの体を縛り付けた。

「ちょこざ―――」

だが、根が絞まるスピードは速く、切り刻む間もなく完全に動きを封じてしまった。

「貴様もこの地に封印してやろうか・・・・・・」

ところが、ガレゼーレは「くっくっくっ」と笑い出した。

「何がおかしい?」

「さすがこの森の守り神。真っ向から勝負すれば、敗北は必至・・・・・・か」

そう言ったかと思うと溶けるようにガレゼーレの姿は消え、締め付ける物を失った根は絡まった。とっさに後ろを振り向いたカイポラは、ツタで縛った怪物が解放されていることを知った。

「―――しまった!!」

葉の擦れる音がしたほうを見上げると、木の上に怪物を抱えたガレゼーレの姿があった。

「勝てないとわかっている相手に向かって行くような、愚かな真似はしない。こちらは目的を達成できればいいのでね」

それだけ言うと、ガレゼーレは木の上から姿を消す。残されたカイポラは、悔しさのあまり近くの木に拳を叩きつけた。



                      ―※*※―



セリュードたち第三小隊が各部族の集落を周っている頃、ひそかに動きだす者たちがいた。その一つ、高き天から下界を見下ろす太陽神、タイオワ。

「ずいぶんと、人間たちの世界が騒がしいようだな」

彼が見ているのはノーサリカ大陸の辺りだったが、全世界の異変には気付いていた。

「・・・・・・久しぶりに、彼女と孫たちの顔を見に行くか。ついでに、このことについても」

タイオワはどこかうきうきしながら、その『彼女』の元へと急いだ。






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