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幻想戦記  作者: 竜影
第2章
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第83話 無謀な任務

後半は、投稿のために書き加えたオリジナル展開となります。





「まったく、ふざけるにも程がある!!」

そこに、怒りに満ちた声が聞こえてきた。三人がそちらのほうを向くと、怒りに満ちた顔のクウァルとディステリア、それをなだめているセルス、そして、頭を押さえて溜め息をついているセリュードの四人が入ってきていた。

「皆さん、どうかした・・・・・・」

その瞬間、ディステリアとクウァルが睨んだので、ローハは驚いて言葉を切った。

「ちょっと、二人とも。ローハさんを睨むことはないでしょう・・・・・・」

「そうだな。すまない・・・・・・」

セルスがなだめると、あっさりとクウァルが謝る。

「だが、セルス。パラケルの奴、信じられるか!?あの野郎、俺たちにとんでもないこと頼みやがったんだぞ!!」

「何を頼まれたんだ?」

ユーリが聞くと、ディステリアは彼のほうを向いた。

「戻ってきたばかりで暇がある奴には関係ない」

「ちょっと!仲間に対してそういう言い方はないんじゃない!?」

怒るミリアに「なんだと!?」と、ディステリアが怒る。

「今、俺は無茶苦茶気が立ってるんだ。勝負なら受けて立つぞ!!」

怒りで気が立ってるディステリアを、「まあまあ、冷静になって」とセルスがなだめる。

「今の俺たちには、あまり時間がないんだ。苛立つのはわかるが、そんなことで時間を無駄にはできない」

クウァルの言葉に、ユーリが首を傾げる。

「・・・・・・かなり急いでいるようだな。いったい、何を頼まれたんだ・・・・・・?」

「これから俺たちは、世界を周るんだよ」

再び聞くユーリに苦笑いしたセリュードが話すと、ユーリたち三人は固まった。



                      ―※*※―



フルスピードで行われた整備が終わり、四人はイェーガーに乗り込んだ。

「固まってたな・・・・・・あいつら・・・・・・」

腕を組んで席に座っているクウァルが、溜め息をつく。

「そりゃ、そうでしょう。今からこの戦闘機で、世界を巡ろうとしてるんですから・・・・・・」

そう苦笑いするセルスを見て、ディステリアのイライラは引いてきた。

「さて・・・・・・と。まずは、どこに行くんだい?」

セリュードが操縦席の前方にあるナビゲーターにスイッチを入れると、目的地のリストが移された。

「えっと・・・・・・まずはシャニアクに行って・・・・・・それからエイジア大陸を放浪中であろう孫悟空一行を探す。順不同でその辺で活動している睦月らに物資の手渡し。さらに現状報告だそうだ。次に天界・・・・・・魔界・・・・・・」

それを聞いた途端、ディステリアの顔が厳しいものになった。

「・・・・・・?どうしたの、ディス?」

心配そうに覗き込むセルスに、「なんでもない」とディステリアが答える。

「あ・・・・・・アホか!?天界や魔界なんて、どうやって行けばいいんだ!?」

声を上げるクウァルに、「うーん」とセリュードが考える。

「〈転移の門〉と呼ばれるものをくぐれば、行けると出ているが・・・・・・そんなのはどこに・・・・・・?」

ナビゲーターについているスイッチを何度か押すと、地図の中に丸印がある画面が移った。

「これ・・・・・・この丸印じゃない?」

セルスが指差すと、「・・・・・・そのようだ」とセリュードが言った。

「エイジア大陸とエウロッパ大陸の境・・・・・・か・・・・・・ん?この座標は・・・・・・?」

丸印があったのは、ミディターレン海というラグシェ国とジェプト国を挟んだ海周辺の地図の中だった。それを覗き込んだディステリアの表情が、だんだん厳しいものになってきた。

「ディス・・・・・・どうかしたの?」

セルスが呼びかけても、ディステリアは地図を睨み続けていた。

「ちょっと・・・・・・ディス!!」

耳元で大声を出され、肩まで掴まれて、やっとディステリアは我に返った。

「どうしたの、そんな怖い顔して?知ってる場所だったの?」

だが、「いや、そんなはずはない」とセリュードが否定した。

「ここに映し出されているのは〈APE〉だ。王族傘下の組織ですら入れない場所だぜ」

『Absolute Prohibition Area=絶対禁止区域』。通称〈APE〉。国家公務員は愚か、国家直属の組織でさえ立ち入りを禁止され、さらに旅行などでも通行することは禁止されている、厳重隔離区域である。

「まあ・・・・・・さすがに神様やその使いとかは、立ち入りを許可されてるけど・・・・・・」

苦笑いするセリュードの後、「えっと・・・・・・」とクウァルが呟く。

「・・・・・・丸印のある場所が、〈転移の門〉のある場所だろ?ここは・・・・・・」

「エルセム」と呟いたディステリアに、全員が注目した。

「・・・・・・確かに、『エルセム』・・・・・・と出てはいるが・・・・・・ディステリア、知っていたのか?」

セリュードに聞かれたディステリアは、「いや、わからない」と頭を押さえた。

「なぜかはわからないが・・・・・・その地図を見た時から、名前がよぎった・・・・・・」

「お前の席の距離じゃあ、文字までは見えないだろ」

クウァルの言葉に、「というより」とセリュードが考える。

「地図に文字が出るのは、ナビゲーターのタッチパネルに指か専用デバイスを当てた時だけのようだ」

そう言って、セリュードは画面に指を当てたり、離したりしていた。それに合わせて、画面に文字が現れたり消えたりしている。

「なら、どうして・・・・・・?」

セルスが首を傾げる。

「とにかく、ここであれこれ考えていても埒があかない。セリュード、発進してくれ」

「了解」

クウァルに言われて答えると、セリュードはイェーガーのエンジンを起動させた。格納庫内に発進を知らせる警報が鳴り、中央部が沈み始めた。その後、イェーガーが乗っている床が丸ごと中央に移動し、機体をゆっくり回転させながらスライド移動を始めた。

「こういう移動の仕組みは、いつの間に作られたんだ?」

回転が止まったイェーガーの窓から、外を眺めたクウァルが呟いた。

「俺たちが行っている間に、ドヴェルガーやメカニックががんばったらしいぜ」

セリュードの答えに、「そうか」と呟いた。やがて、イェーガーは格納庫から、外に運ばれた。緑の野原が左右にわかれ、その下から滑走路が上がってきた。

「いつもは野原になっているのか・・・・・・」

ディステリアの呟きに、セルスは微妙な表情をしていた。

「ん?どうした?」

「え?ううん。なんでもない・・・・・・」

ディステリアに笑顔を向けるセルスだが、彼女が作り笑いしている事は、丸わかりだった。ブースターに添加され、コクピットにGを発生させてイェーガーが発進した。

「一気に行くぜ!!」

セリュードは目的地に向けて、エンジンを全開にさせた。



                      ―※*※―



〈名も無き島〉を出発したディステリアたちを乗せたイェーガーは、まずシャニアクに向かっていた。

「エスペランザで来た時は、締め出されたんだっけ・・・・・・」

「そうなのか?」

「ディステリアはすんなり入れたから、わからないよね」

眼下の海を覗いて呟くクウァルにディステリアが聞き、セルスも呆れたように呟く。

「今度も大丈夫なんだろうな?」

「前は平安京都に入国許可をもらったからな。今、江戸東慶のほうに入国許可を・・・・・・」

ちょうどその時、コクピットの通信機器に着信音がして、ナビゲーターの画面に文字が映る。それを横目で一瞥したセリュードは、深く溜め息をついた。

「・・・・・・申請していたんだが、見事に断わられた」

「じゃあ、どうすんだよ?」

「平安京都のほうに行くしかない。あっちには無期限で許可をもらってるから」

平安京都を治める徳仁の配慮に感謝しながら、セリュードは操縦桿を左に切った。イェーガーは江戸東慶のほうに向かっていたので、まっすぐ行けばたちまち領空侵攻で迎撃されてしまうため、トラブルを避けるためにも遠回りを選択した。



                      ―※*※―



平安京都守護部隊の敷地内にイェーガーを着陸させる。ヘリポートだったのだが、底面にホバーが仕込んであるイェーガーにとって着地することは簡単だった。

「・・・・・・で、ここでの任務は?」

ディステリアが聞くと、タッチパネルを登載してある小型機器に写った任務内容を見て、セリュードは読み上げる。

「えっと・・・・・・・・・『長期間任務における拠点』?」

「どうしろと?」

「要するに、住む場所を確保しろってことか?・・・・・・・・・どうして?」

首を傾げるディステリアに、「さあ?」とセルスも不思議そうに首を傾げる。

「ええっと・・・・・・保護した少年少女が学校に通えるように、って聞いたんだが・・・・・・」

「ブレイティアで保護したってことは、その子供は訳ありか?」

眉を動かして聞いたクウァルに、「ああ」と答える。

「恐らく、特殊能力者だ。しかも、奴らに付け狙われている」

「おいおいおい!それじゃあ、狙ってくれっていうようなもんじゃないか!」

「だから拠点を探そうってんだろ?住み込みで警備できるように」

「それで済んだらいいんだけどよ・・・・・・」

ディステリアが声を上げ、セリュードが答えるとクウァルが溜め息をつく。

「まあ、土地だけでもいいらしい。とにかく探そう」

「戦いがないんだったら、それだけ簡単だな」

「いや、言い切れないぞ」

楽勝ムードを漂わせるディステリアをセリュードが諌める。

「奴らはどこにでも潜むらしい。例え、外国と交流を絶っているシャニアクでも・・・・・・」

「そういえば・・・・・・睦月の奴も、デモス・ゼルガンクと思える奴らと遭遇したんだろう?ユウとサツキも」

「あっ・・・・・・」とセルスが表情を強張らせる。

「・・・・・・そう思ったら、気を抜けなくなったな。手分けして探そうと思ったが・・・・・・」

「構わないだろ」

表情を険しくするクウァルにディステリアが口を挟む。

「睦月の話じゃ、山神のふりをしていたらしいから派手に動けないんじゃないか?」

「どうかな・・・・・・あの時は連中も身を潜めてたし・・・・・・」

ディステリアとセリュードが意見を言うと、全員考え込む。

「・・・・・・とにかく、まずは行動だ。二人一組で手分けして探そう」

「だな。組み分けは?」

「俺とセリュード。ディステリアとセルス」

「「ちょっと待て!!」」

クウァルの案にディステリアとセルスが待ったをかける。

「なんだ、不満か?スヴェロシニアじゃあ、俺と組んでたろ」

「あ、ああ・・・・・・」

「ちなみに、クウァルとお前は組ませられない。ケンカばかりで任務どころじゃないだろうからな」

「「うっ・・・・・・」」

的を射たセリュードの指摘にディステリアとクウァルは黙ると、苦笑したセルスが振り返る。

「集合場所と合流時間はどうする?」

「小一時間程度で見つかる保障などないからな・・・・・・3時間、いや2時間後にここに集合」

「「了解」」

セルスとディステリアが答え、解散となった。



                      ―※*※―



ディステリアとセルスは、人通りの少ない場所を歩く。

「襲われる可能性があるってことは、人気の少ない場所のほうがいいんだよな?」

「逆に少なすぎると、返って目立つんじゃない?」

「ああ、だよな・・・・・・」

住宅密集地から離れた場所や所々に人が住む場所を探すが、ちょうどよさそうな空き物件は見つからない。

「・・・・・・弱ったぜ」

頭をかきむしるディステリアがふと足を止める。彼の目の前には、有刺鉄線がはられた柵に『空き地』と書かれた気の札がかけてあった。

「ん?どうしたの、ディス?」

「なあ。ないんだったら作ればどうだ?」

「えっ?」

首を傾げたセルスはディステリアが指差した空き地に目をやると、すぐ彼の言葉の意味を察した。

「えっ、工事しろ、ってこと?いやいやいやいや、無理でしょう。ていうか、無茶」

「・・・・・・そこまで難しいことなのか?」

目をまばたかせるディステリアに、逆にセルスが激しく頭を振る。

「いや、何真面目な顔で言ってんの?工事して家を建てるには、まず土地の所有者に報せて許可を取らないといけないのよ」

「そこは・・・・・・徳仁さんに頼めば・・・・・・」

「あんた、あの人に職権乱用させるつもり!?」

確かにそれはまずい。そう理解して顔を引きつらせたディステリアに、離れたセルスは溜め息をついた。

「はあ、もう・・・・・・・・・でも、ちょうどいいのが見つからなかったら、新しく建てることも検討しなきゃダメなのかな」

「じゃあ、俺の意見採用か?」

「するわけないでしょ!」と言うと、セルスの携帯からアラームがなる。開いて表示された時刻を見ると、携帯を閉じてポケットにしまった。

「集合時間よ。セリュードたちに合流しなきゃ・・・・・・」

「おい、俺が言ったあのことは・・・・・・」

「言うかもね、あっちも見つからなかったら・・・・・・」

「・・・・・・マジかよ」

気分が重くなるディステリアだが、集合を無視するわけにもいかないので合流場所に向かった。



                      ―※*※―



黄龍殿の喫茶室。セリュードたちもちょうどいい物件が見つからなかったと聞き、ディステリアはいよいよ覚悟を決めた。思い詰めた様子の彼を見てどうしたのかとセリュードが聞くと、セルスはその理由を話した。聞き終わって食って掛かったのは、予想通りクウァルだった。

「簡単にできるわけないだろ、バ~~~~~~~~カ」

「そ、そんな伸ばすことはないだろ」

「伸ばすくらいバカな提案ってことだよ、バ~~~~~~~~カ」

「あっ、また言った・・・・・・」

「やめろ、二人とも。はたから見てると他人のふりをしたくなるぞ、バ~~~~~~~~カ」

「「あんたも言うんかい!!」」

悪乗りしたセリュードに二人そろって突っ込みを入れると、「それはさておき」と真面目な顔で気を取り直す。

「冗談抜きで考えなければいけないぞ、これは」

「そうなのか?俺たちには直接関係ないだろ?」

「ああ、関係ない。だが、俺たちが住家を探している奴らには、住む場所が手に入るか否かの瀬戸際なんだ」

「何気に責任重大かよ・・・・・・」

別に、その少年たちはここにすまなくてもいいだろう。だが、世界の方々で言われてるよう『愚者の国』に住んでいるからといって、全員が思慮の浅い愚か者ではない。信玄のように広い視野を持つ者もいれば、睦月のように持とうとする者もいる。ユウやサツキのように人間と人ならざる者の血を合わせ持つ者もいれば、弥生やディステリアは知らないが光輝のように普通に接しようとする者もいる。そうした者たちとの出会いを果たして欲しいから、クトゥリアはその子たちを危険に晒してまでも普通の暮らしをさせたいし、そのための家探しをディステリアたちに頼んだ。手が空いているのが彼らしかいないということもあるが、信頼してるということでもあった。

「徳仁さんに聞くしかないか」

「会えるのか?重役だろ?」

「一応アポは取ってある」

妥協論を口にするセリュードにクウァルが不安を口にするが、アポイントを取ってることを明かしてそれ以上何も言わなかった。



                      ―※*※―



徳仁の執務室。

「なるほど、話はわかった・・・・・・」

「何かいい知恵はありませんか?」

話を聞いた徳仁にセリュードが聞くと、彼は深く息をついた。

「・・・・・・広い空き地でもあれば、そこに空き家を移すことも可能だ。土地の持ち主に交渉しなくてはならないが、な」

「広い土地か・・・・・・一応、空き地は見つけたぜ」

「うん。近くに木が生えてて、有刺鉄線が張られた・・・・・・」

「あの土地か。持ち主が使ってくれる者を探していたな」

「そいつはラッキーだ」とクウァルが喜びの声を上げる。

「わかった。空き家の転移も、元の持ち主や管理者に相談する必要がある。君たちが見つけた空き家の住所や場所を教えて欲しい」

「交渉は俺たちが?」

「いや、我々が受け持とう。君たちに比べれば、暇があるからな」

自嘲気味に笑った徳仁に、ディステリアたちも複雑な表情をした。そして、見つけた物件の住所を教え、この任務は一応完了となった。






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