第11話 黒沢さん!体操服を脱ぐのをやめてください!
今日の体育はバレーボールだった。
飛び跳ねた銀条院さんのおっぱいが大変なことになっていた。
男が1人しかいないとはいえ、なぜか俺も女子と合同でやるものだから、目のやりどころに色々と困った。
銀条院さんが大きく跳ねた。
その場の全員が、スローモーションでたぷんたぷんと揺れまくる双球を、口を開けて見ていた。
言うまでもないが、それはバレーボールではなく、しかし大きさとしてはバレーボールと遜色ないくらいの、ダイナミックおっぱいだった。
迫力が違かった。
そもそも、彼女のいやらしく躍動する胸の暴れ方を抑えるには、伸縮性の高い体操服1枚とブラジャーだけでは足りなさすぎるのだ。
彼女の体操服の胸元は、内側にこさえた2つのバレーボールらしきものによって、強烈に引き伸ばされている。
その双球は、出してくれ出してくれと体操服を揺らし、外の世界を渇望するようにビッタリと服の生地に貼り付くものだから、どうしようもなく窮屈そうに見えた。
そんなことを考えていたため、俺は顔面に本物の方のバレーボールが飛んできていることに、気づくのが遅れたのだった。
――――――
地獄のような、天国のような……
そんな体育の時間が終わり、俺は黒沢さんと2人でバレーボールの片付けをしていた。
当番だったからだ。
黒沢さんは辛そうにしていた。
落ちたバレーボール1つを拾い上げるにしても、一度しんどそうに腰を落とし、少し時間をおいてからゆっくりと慎重に立ち上がる。
ひどく疲れているように見えた。
無理もない。彼女は早急にお金が必要なのだ。
アルバイトで無理をしているだろうことは、聞かなくともわかった。
俺がバレーボールの籠を押して、2人で体育館倉庫に入った。
「今……頑張ってお金用意してるんだけど」
彼女の方から切り出してきた。
「……ねえ、ごめん。やっぱりテストで勝った時の10万はいいよ。
だから……もし本当に私が追い出されたら……
本当に泊めてもらえないかな……?」
彼女は疲れ切った表情で俺に頼み込んできた。
俺はいいよと言っておいた。
オオカミ子さんもOKしてくれたので問題ない。
彼女は少し安心した表情で、ありがとうとお礼を言った。
じゃあ行こうか、と黒沢さんは体育館倉庫の扉に手を掛け、それを開けようとした。
しかし、扉は開かなかった。
疲れている黒沢さんのことだ。力が入らず、重い扉が動かなかったのだろう。
「俺が開けるよ」
そう言って彼女と位置を入れ替わった。たまには男らしく、力のある所を見せてあげようじゃないか。
……が、俺がいくら体重をかけても、扉はそれを嘲笑うかのようにびくともしなかった。
――――――
真夏の体育館倉庫に、俺と黒沢さんは閉じ込められた。
太陽が昇り切るお昼時だ。しかも今日は猛暑日。
午後になれば別のクラスがやってきて俺達を見つけてくれる可能性はあるが、他のクラスの体育館の利用スケジュールまで把握しているわけではない。
少し心許ない希望的観測ではあった。
俺は扉を叩いて、助けを呼び続けていた。
10分くらい経過した頃か……
後ろで座り込んでいる黒沢さんの様態が明らかに悪化していることに気づいた。
顔が青ざめていた。
呼びかけても返事が返って来ない。
「……大丈夫?」
少し肩を揺らしてみたが、それが最後のトリガーになってしまった。
連日の無理が祟ったのか、黒沢さんはマットの上に倒れ込んだ。
「黒沢さん……?
黒沢さん……!?」
体を揺らしてもびくともない。
俺は、黒沢さんが倒れた時に転がった冷水のペットボトルを、彼女の首元に付けた。
自分を冷やすために使っていたペットボトルも同様に、彼女を冷やすために使った。
「誰か……!!
誰かっ……!!」
俺は必死に助けを求めて外界へ叫んだ。
俺の方も限界が近い……。
その時、ふと思った。
……スマホで助けを呼べないだろうか?
俺のチャットアプリに登録されている数少ない友達の中に、クラスメイトが1人だけいた。
……オオカミ子さんだ。
俺は頭がクラクラする中、最後の力を振り絞って彼女にSOSを送信し……
そのまま力尽きた。
冷えたことで様態が多少改善したのか、俺が倒れる音で黒沢さんがかろうじて目を覚ましたようだ。
「オタク君……ねえオタク君……」
弱々しく俺の身体をさすっているのがわかったが、俺は脳が焼けるように意識が遠のいていった。
――――――
目が覚めたら、保健室のベッドで横になっていた。
スマホを見るとオオカミ子さんから
「銀条院さんに連絡する」
との連絡があった。
保健の先生もカーテンの隙間から
「銀条院さんがあなたたちを見つけてくれたのよ」
と教えてくれた。
「じゃあ、邪魔しちゃ悪いしごゆっくり」
と保健の先生はカーテンを閉めて去っていった。
何を邪魔しちゃ悪いんだと思い、ふと左を向くと、黒沢さんが同じベッドで仰向けになって眠っていた。
「え!?」
黒沢さんは冷えピタを貼って寝息を立てていた。
汗びっしょりの体操服は、水分を含んだことでしっとりと彼女に貼り付き、下着を見えないように隠すという役割が失われつつあった。
ほんのりと水色のランジェリーが透けていた。
汗と香水の混ざった匂いが周囲を支配する。
俺はつい、傍にあった氷水の袋を、黒沢さんの体操服にピタッとあててみてしまった。
「んあぁ……オタク君……」
寝ぼけた黒沢さんが、聞いたことのない女の子の声を出し、しかも名前を呼んだことで俺はパニックになった。
「んん……つめたいよ……」
黒沢さんが無造作に氷袋を払った。
「あ……!」
やってしまった。
俺はうっかり袋を持っていた手を離してしまい、氷水を思いっきり黒沢さんの胸にぶちまけてしまった。
「ひゃっ!!」
黒沢さんは目を閉じたまま胸を上へ突き上げた。
身体のラインと下着を隠す役割を完全に失った体操服が、じんわりと黒沢さんの上半身の形になじんでいった。
水色のランジェリーが完全に透けて見えるようになった。
ぴたっと貼り付いた胸元とお腹の肌は滑らかだった。
黒沢さんは冷たさを我慢するように上半身をよじり、胸を上下に動かして呼吸している。
その後、黒沢さんは半目を開け、体操服をさすった。
「いやぁ……濡れちゃった……」
まだ意識が朦朧としているらしい。
状況を整理できていないようだった。
黒沢さんはゆっくりと上半身を起こした。
俺はとっさに防御体勢を取ったが、黒沢さんは半目のまま、俺のいない方向を見ていた。
隣に俺がいることに気づいていないらしい。
「着替えないと……」
そう一言言って、黒沢さんは上半身の体操服をめくり上げるようにして脱ぎ始めた。
「えええ……!!
ちょいちょいちょい……!!」
俺が急いで静止するも、遅かった。
黒沢さんの水色の下着と、しっとりと潤ったおっぱいの上半分が丸見えになっていた。
さらに悪いことに、布地が首元でめくられて顔が隠れる位置まで持っていかれた状態で、俺は体操服の中で悶える黒沢さんを止めてしまったのだ。
考えうる限り最悪のタイミングだった。
もし仮に、第3者がこの状況を見ていたとしたら、俺は確実に罪に問われることになる。
一方の黒沢さんは前が見えていない状態で突然着替えを静止され、状況がのみ込めず困惑していた。
モゴモゴ言いながら身体を揺らす度、おっぱいが左右に揺れ、汗か冷水かわからない水滴が飛び散った。俺の視線は強制的にそこへロックされた。
俺はやむを得ず、彼女の上半身の体操服を完全に脱がした。
黒沢さんはスッキリした表情で、
「気持ちいぃ……」
と呟いた。俺はつい見惚れてしまい、恥ずかしさのあまりベッドの外側へ顔を振った。
するとそこには、想像を絶する恐ろしい光景が広がっていた。
丸椅子に座った銀条院さんが、死んだような目で我々の一部始終を見ていたのだ。
この猛暑日に、俺は一瞬で全身が凍りついた。
――――――
無理もない。銀条院さんは一応、俺を存在しないものとして扱っているのだから、おそらく止めようにも止められなかったのだろう。
俺は教室に戻った。
しばらくして、元気になった黒沢さんも戻ってきた。
彼女は、俺の方を一切見ずに隣の席に着席した。
……沈黙が流れた。気まずかった。
それを破ったのは向こうだった。
「あの」
「は、はい……!何でしょうか……?」
俺はぎゅっと目を閉じて死を覚悟した。
「体育館では……助けてくれてありがとう」
「あとさ……
わ、私の思い違いかもだけど……
ほ、保健室で一緒に寝てたりしてたっけ……?」
俺は首を大きく振って全力で否定した。
銀条院さんがその横を真顔で通り過ぎて行った。




