第8話 「知力ゼロの勇者と魔王」
中間テスト返却日。
教室はざわついていた。
「今回むずくね?」
「数学終わったわー」
神崎凌は、答案用紙を見つめて固まっていた。
――28点。
(……なぜだ)
前世では戦略、兵站、魔術理論、古代語読解まで完璧だった。
軍師顔負けの頭脳。
それが。
(この世界の“二次関数”とは何だ!?)
山田次郎もまた、静かに答案を見つめている。
――32点。
(ふざけるな)
魔界統治500年。
契約魔術の複雑な式も瞬時に理解していた魔王が。
(“xを求めよ”だと?我が求めるのは世界だぞ)
前の席の梓が振り向く。
「凌、何点?」
凌、無言で伏せる。
梓、答案をひったくる。
「28!?は!?あんた前回学年5位でしょ!?」
クラスざわつく。
「え?神崎って頭いいんじゃなかった?」
「どうした?」
凌、焦る。
(しまった……!勇者としての知識が通用せん!)
「ちょ、ちょっと体調悪くてさ!」
梓、ジト目。
「へぇ?」
一方。
横田がニヤニヤ近づく。
「山田ぁ、何点?」
次郎、無言。
坂田が覗く。
「32!?微妙すぎ!」
横田爆笑。
「お前見た目通りじゃん!」
次郎のこめかみがピクッ。
(黙れ小物)
堺匠海は静かに言う。
「神崎も落ちたな」
凌と次郎。
視線が交差。
(貴様もか)
(お前もか)
同時に理解。
――こいつもバカだ。
いや違う。
(この世界の知識体系が異常なのだ)
(文字の意味はわかるのに、理屈が噛み合わん!)
凌、小声で。
「お前……二次関数わかるか?」
次郎、小声で。
「二次……?あの放物線とかいうやつか」
凌「そうそれ」
次郎「……魔法陣の方が簡単だ」
凌、吹き出す。
「わかる」
次郎、思わず言う。
「勇者なら理解できるだろうが――」
凌「は?」
次郎「は?」
沈黙。
梓が腕を組む。
「何?あんたたち急に仲良くなってない?」
凌「別に!」
次郎「断じてない!」
同時。
クラス笑う。
だがその時。
藤沢麗奈が答案を持ってくる。
「神崎くん、教えよっか?」
凌、固まる。
(やばい)
麗奈は成績上位。
次郎を見る。
「山田くんも一緒にやる?」
次郎、プライドが暴れる。
(魔王たる我が補習だと!?)
だが現実。
32点。
「……頼む」
凌と次郎、机を並べる。
問題を見る。
麗奈が説明を始める。
「ここはね、グラフの頂点を――」
二人、同時に思う。
(この女……頭も強い)
梓が後ろから覗く。
「なにこの最強コンビ、勉強だけポンコツ」
凌、心の声。
(戦なら勝てるのに……!)
次郎、心の声。
(知の戦場で敗北するとは……!)
二人は静かに誓う。
(次は負けん)
だがその誓いは、なぜか“テスト対決”へと向かっていく。
勇者と魔王。
次なる戦場は――数学。
――続く。




