第6話 「0.01秒の戦争」
春の青空の下。
体育の授業。
種目――100メートル走。
神崎凌はスタートラインに立ちながら、静かに拳を握った。
(……本来なら、3秒)
魔王軍との決戦前、魔力強化状態なら1秒台も可能だった。
だが今は。
(この身体、重い……!)
隣のレーン。
山田次郎が静かに構える。
(勇者の様な気配……やはり貴様も出るか)
ちら、と視線が交差する。
一瞬。
火花。
(……いるな)
(間違いない)
互いに正体を知らぬまま、魂が反応していた。
「位置についてー」
先生の声。
次郎は内心で呟く。
(本来なら、我の後塵を拝すら許されぬ存在)
凌も思う。
(負けねぇ)
パンッ!
スタート。
地面を蹴る。
――遅い。
(遅い!!)
神崎凌、心の叫び。
(何だこの筋力!?魔力が通らねぇ!!)
山田次郎、心の絶叫。
(この脚、紙か!?)
だが外から見れば十分速い。
クラスがざわつく。
「え、神崎速くね?」
「山田もやば!」
二人は並走。
魂だけが本気。
だが身体が追いつかない。
(くそ……あと0.01秒速ければ!)
(このままでは勇者もどきに並ばれる……!)
ゴール。
ほぼ同時。
僅差で――
「一位、御手洗!」
風のように駆け抜けた女子がいた。
御手洗梓。
ポニーテールを揺らし、涼しい顔でゴールしている。
タイムはクラストップ。
凌と次郎より明確に速い。
二人の時間が止まる。
(……何?)
(……女だと?)
御手洗は軽くストレッチしながら言う。
「今日ちょっと遅かったなー」
周囲が笑う。
神崎凌、内心。
(この女……出来る)
戦士の勘。
無駄のないフォーム。
地面の蹴り方。
体幹の安定。
(訓練を受けてる動きだ)
一方、山田次郎。
(……この世界の人間、侮れぬ)
御手洗から微かに感じる“異質”。
魔力ではない。
だが、ただ者ではない。
御手洗が二人を見る。
「凌も山田くんも速いね」
笑顔。
屈託のない笑顔。
だが目は観察している。
(……測られている?)
勇者、気付く。
(……気付いている?)
魔王、警戒する。
御手洗梓は、くるっと背を向けながら小さく呟いた。
「ふーん……面白い」
二人には聞こえない。
勇者と魔王は同時に思う。
(この女も、強い)
三つ巴。
だがまだ、正体は誰も知らない。
――続く。




