第36話「揺れる心」
100m走の後。
校庭はまだざわついている。
「やばかったよな…」
「勇者戻った瞬間鳥肌立った」
「魔王も止まったの熱すぎ」
三バカ、号泣継続中。
「尊い」
「尊いってこういうこと」
「語彙力消滅」
梓、腕組み。
「やっぱりね」
視線の先。
麗奈。
まだスタンド席に立ったまま。
動けない。
胸の奥が、ざわざわする。
(なんなのよ……)
勇者が笑っていた顔。
魔王が黙って肩を貸した姿。
思い出す。
心臓がうるさい。
(勝つチャンスだったのに)
(なのに戻るとか)
ぎゅっと胸を押さえる。
(ずるい)
目が少し潤む。
梓が隣に座る。
「どうだった?」
麗奈、即答できない。
しばらくして。
「……かっこよかった」
ぽつり。
梓、にやり。
「どっちが?」
麗奈「うるさい」
顔真っ赤。
でも否定しない。
梓、優しく。
「ちゃんと見てた?」
麗奈、小さく頷く。
「うん」
「二人とも、本気だった」
目が少し真剣になる。
(あんな顔、初めて見た)
勇者は真っ直ぐで。
魔王は静かで。
でも同じくらい真剣。
胸が締め付けられる。
(どうしたいの、私)
その時。
放送。
『次は騎馬戦の選手は集合してください』
ざわめき再燃。
三バカ。
「きた」
「本命」
「直接対決」
勇者、タオルで汗を拭きながら立ち上がる。
魔王も静かに移動。
すれ違う瞬間。
勇者「さっきは悪かったな」
魔王「何がだ」
「勝負止めちまった」
魔王、少しだけ笑う。
「誇れ」
勇者、目を細める。
「次は止まらねぇぞ」
「望むところだ」
バチッ。
空気が再び張り詰める。
麗奈、その様子を見る。
胸が高鳴る。
(今度は本気でぶつかるんだ)
怖い。
でも見たい。
梓、隣で呟く。
「ここからだよ」
騎馬戦エリア。
赤組と白組が陣形を組み始める。
勇者は前線。
魔王も前線。
完全にエースポジション。
三バカ実況準備。
「王対王」
「天下分け目」
「校庭が戦場」
麗奈、息を吸う。
(……ちゃんと見る)
拳を握る。
騎馬戦、開始まであと数分。
二人の視線が、遠くから交差する。
言葉はない。
だが伝わる。
――次は、本気。




