第35話「勇者の選択」
秋晴れ。
校庭。
100m走、スタート地点。
勇者と魔王。
隣同士。
空気が張り詰める。
三バカ実況。
「きたぁぁ!!」
「初手からラスボス戦!」
「視線だけで火花!」
麗奈、手を握りしめる。
梓、静かに見守る。
◆スタート
「位置について」
しゃがむ二人。
「よーい」
静寂。
パンッ!!
号砲。
同時に飛び出す。
速い。
圧倒的。
他の生徒を一気に抜き去る。
並走。
一歩も譲らない。
勇者、歯を食いしばる。
魔王、静かに加速。
観客席。
「速っ!」
「レベル違う!」
50m。
まだ並走。
その時。
後方で――
「うわっ!」
ドサッ!!
一人の生徒が派手に転倒。
膝を打つ。
土煙。
一瞬、ざわめき。
勇者の耳に入る。
(転んだ?)
一瞬だけ、視線が揺れる。
魔王は前だけを見る。
ゴールまで残り30m。
勝負はここから。
勇者の足が、わずかに止まる。
心の中で声。
(勝つか)
(戻るか)
ほんの一瞬。
魔王が前に出る。
だが――
勇者、急停止。
「っ!」
観客がどよめく。
くるりと反転。
全力で後方へ。
魔王、気づく。
「……何?」
勇者は転んだ生徒の元へ。
「大丈夫か!?」
涙目の生徒。
「す、すみません……」
勇者、即座に肩を貸す。
「立てるか?」
「は、はい……」
ゴールは遠い。
勝負は終わった。
だが勇者は迷わない。
「行くぞ」
肩を抱え、走り出す。
ゆっくり。
でも確実に。
校庭、静まり返る。
魔王はゴール目前で止まる。
振り向く。
勇者が、他の生徒を支えている。
その姿。
魔王の目が揺れる。
(……そうか)
小さく息を吐く。
そして。
魔王も速度を落とし、歩く。
勇者の横に並ぶ。
勇者、驚く。
「なんで止まった!」
魔王、静かに。
「勝負は後だ」
そして生徒の反対側の肩を持つ。
「支えよ」
三人でゴールへ向かう。
観客席。
最初は静寂。
次の瞬間。
ドォォォォッ!!
大歓声。
拍手。
三バカ号泣。
「勇者ぁぁ!!」
「魔王もぉぉ!!」
「神回!!」
麗奈、目が潤む。
梓、静かに笑う。
「やっぱりね」
ゴール。
三人同時。
先生が駆け寄る。
転んだ生徒、涙声。
「すみません……」
勇者、笑う。
「気にすんな」
魔王、静かに。
「次は転ぶな」
だが声は優しい。
観客席、スタンディング。
誰かが叫ぶ。
「かっこいいぞー!!」
勇者、照れる。
魔王、目を逸らす。
麗奈。
目を潤ませたまま。
小さく呟く。
「……ずるい」
二人を見る。
胸がいっぱい。
勝敗なんてどうでもいい。
ただ――
本気だった。
それが伝わった。
校庭の空気が変わる。
勇者と魔王。
視線が合う。
勇者、笑う。
「次は本気で勝負な」
魔王、わずかに口角を上げる。
「当然だ」
体育祭はまだ続く。
だが。
この瞬間、確かに。
二人は“勝った”。




