第31話「見えない戦い」
――夜。
◆勇者の家
「くそ……負けねぇ」
自室。
机の上には体育祭種目一覧。
・対抗リレー
・騎馬戦
・二人三脚
・障害物競走
勇者、腕立て伏せ中。
「98……99……100!!」
ドサッと倒れる。
汗だく。
(魔王のやつ、体力はある)
(でも瞬発力なら俺だ)
立ち上がる。
ダッシュ練習。
部屋が狭い。
母の声。
「家の中で走るな!」
「すまん!」
外へ飛び出す。
夜の公園。
全力疾走。
(麗奈は景品じゃねぇ)
(でも――)
立ち止まる。
夜空を見上げる。
「ちゃんと俺を見てほしい」
真っ直ぐな目。
「だから勝つ」
再び走り出す。
――同時刻。
◆魔王の家
静かな部屋。
窓を開ける。
夜風。
机には同じ種目表。
魔王、腕組み。
(体育祭……)
(なぜ我が本気で挑まねばならぬのだ)
間。
小さく呟く。
「……当然だ」
黒ジャージ姿。
スクワット開始。
「1……2……」
無駄にフォームが綺麗。
(勇者は単純だ)
(必ず正面から来る)
止まる。
鏡を見る。
(我は魔王)
(恐怖で圧倒すべき存在)
だが。
少し目を逸らす。
(……麗奈が見ているなら)
スクワット加速。
「50……60……」
さらに腹筋。
さらにダッシュ。
自宅廊下を静かに駆ける。
家族の声。
「静かにしなさい」
「……失礼」
小声。
庭へ出る。
月明かりの下。
一人、走る。
(渡す気はない)
(だが奪うのではない)
(勝ち取る)
立ち止まる。
息を整える。
ふと空を見る。
(勇者も……鍛えているだろうな)
なぜか分かる。
小さく笑う。
「……望むところだ」
――翌日。
学校。
廊下で鉢合わせ。
勇者と魔王。
一瞬の沈黙。
勇者「……寝不足か?」
魔王「貴様こそ」
互いに目の下うっすらクマ。
三バカヒソヒソ。
「絶対鍛えてる」
「目が違う」
「ガチ勢だ」
麗奈、気づく。
「……なんか二人とも」
「雰囲気違くない?」
勇者と魔王、同時に目を逸らす。
「別に」
「何でもない」
だが。
視線が交差。
火花。
小さく頷き合う。
言葉はない。
だが分かる。
(本気だな)
(ああ)
体育祭まで、あと一週間。
静かな戦いは、もう始まっている。




