第30話「策士と魔王」
体育館の熱気の中。
種目開始前のざわめき。
魔王は静かにステージを降りる。
黒オーラ、控えめ。
向かう先は――
二階観覧席。
梓の元へ。
三バカ実況。
「魔王様、動いた!」
「黒幕へ直行!」
「ラスボス対裏ボス!」
梓、柵にもたれて微笑む。
「どうしたの? 魔王くん」
魔王、低く。
「貴様だな」
梓「何が?」
魔王、目を細める。
「この舞台を整えたのは」
数秒の沈黙。
梓、あっさり。
「うん、私」
三バカ「認めたァァ!?」
魔王、こめかみピク。
「なぜだ」
梓、軽く肩をすくめる。
「だって面白いじゃん」
「それに」
視線を真っ直ぐ向ける。
「魔王くん、ずっとモジモジしてたし」
魔王、固まる。
(モジモジ……だと……?)
「我は魔王だ」
「うん、でも恋愛初心者でしょ?」
グサッ。
心に直撃。
三バカ、ヒソヒソ。
「的確」
「致命傷」
「ノーダメ装ってる」
魔王、静かに言い返す。
「余計な干渉だ」
「これは我と勇者の問題」
梓、にこり。
「違うよ」
「麗奈の問題」
一瞬、魔王黙る。
梓、続ける。
「だからちゃんと本気でやらないとダメ」
「中途半端なまま終わらせないための舞台」
魔王、わずかに目を見開く。
梓、少しだけ優しく。
「私ね」
「実は魔王くん推しなんだよ?」
体育館の音が遠のく。
魔王「……は?」
三バカ「えぇぇ!?」
梓、笑う。
「勇者は強いし真っ直ぐだし放っておいても進む」
「でも魔王くんは」
じっと見る。
「自分から踏み出せないでしょ?」
魔王、沈黙。
内心。
(否定……できぬ)
梓、背中を軽く叩く。
「だから舞台、用意してあげた」
「勝ち取りなよ」
魔王、視線を落とす。
(我は魔王)
(だが……)
小さく息を吐く。
「……策士め」
梓、ウインク。
「褒め言葉?」
その時。
実況マイクが響く。
「第一種目準備完了!」
勇者がステージ中央で手を振る。
「魔王! 早く来い!」
魔王、振り向く。
梓、最後に一言。
「ちなみに」
「来月、体育祭あるよね?」
魔王、止まる。
梓、楽しそうに。
「騎馬戦、対抗リレー、二人三脚」
「勇者VS魔王」
「第二章、開催予定かな?」
三バカ、目が輝く。
「やる!」
「絶対やる!」
「体育祭編確定!」
魔王、内心。
(まだ終わらぬのか)
だが。
口元が、ほんの少しだけ上がる。
「……望むところだ」
ステージへ戻る魔王。
黒オーラ、以前より静かで強い。
梓、独り言。
「本気出した魔王くん、見たいからね」
体育館、歓声。
勇者、ニヤリ。
魔王、真正面に立つ。
麗奈、ため息。
「もう……」
でも少しだけ、笑っている。




