第18話 「魔王、崩れ落ちる」
翌朝。
教室。
山田次郎、静かに着席。
だが様子がおかしい。
動きが。
カクカクしている。
椅子に座る瞬間。
「……ぐっ」
小さく呻く。
(なぜだ)
(我が肉体が反逆している)
昨日の腕立て、腹筋、スクワット。
全身が悲鳴。
隣の席の麗奈が覗き込む。
「山田くん?」
「……問題ない」
だがノートを取る手が震える。
チョークの音が響く。
先生「今日は小テストなー」
魔王の目が細くなる。
(来たか)
一方。
前の席。
神崎凌。
余裕の横顔。
(勇者……)
昨夜の梓のメッセージが蘇る。
“勇者、余裕らしいよ”
拳を握る。
しかし。
「……っ」
太ももが攣りそう。
(動けぬ……!)
テスト開始。
英語。
which。
that。
関係代名詞。
魔王、真剣。
だが身体が震える。
汗が滲む。
麗奈が小声で言う。
「大丈夫?」
「……」
返事をしようとして。
腹筋が攣る。
「くっ……!」
麗奈「え、ほんとに大丈夫!?」
テスト終了。
チャイム。
山田、立ち上がろうとして。
崩れる。
ドサッ。
クラスざわつく。
麗奈「山田くん!?」
次郎、床に片膝。
(屈辱……)
「筋肉が……」
麗奈「は?」
「……鍛錬の代償だ」
麗奈、困惑。
「昨日何したの?」
沈黙。
言えない。
黒炎のために筋トレしたとは。
麗奈、ため息。
「ちょっと来て」
放課後。
空き教室。
山田、椅子に座る。
麗奈が湿布を持ってくる。
「はい、足出して」
「……自分で出来る」
「いいから」
有無を言わせない。
魔王、硬直。
(なぜこうなる)
麗奈、太ももに湿布を貼る。
冷たい。
距離が近い。
近い。
「無理しすぎなんだよ」
優しい声。
胸がうるさい。
(これは恋ではない)
(断じてない)
麗奈、今度はノートを広げる。
「で、英語どこ分かんなかったの?」
「……which」
「そこ?」
麗奈、笑う。
「そこ昨日やったとこじゃん」
「……」
麗奈、椅子を近づける。
肩が触れそう。
「ここね、先行詞があって――」
丁寧に説明。
分かりやすい。
魔王、静かに聞く。
(……理解出来る)
「つまり」
「この文では“that”でも可だ」
麗奈、目を丸くする。
「理解早っ」
少し嬉しそう。
魔王の胸がざわつく。
「ありがとう」
自然に出た。
自分で驚く。
麗奈、少し照れる。
「どういたしまして」
沈黙。
夕日が差し込む。
その瞬間。
ガラッ。
ドアが開く。
御手洗梓。
後ろに神崎凌。
二人、固まる。
湿布。
距離。
机を挟んで二人。
梓、ニヤァ。
「……お取り込み中?」
魔王、フリーズ。
凌、静かに言う。
「魔王」
「……何だ」
「筋トレは計画的に」
沈黙。
麗奈「筋トレ?」
梓、即答。
「うん、黒炎出すためにね」
「梓」
殺気。
麗奈「黒炎?」
凌、顔を背けて震えている。
梓、追撃。
「深淵より来たりし――」
「やめろ!!」
教室に響く。
完全敗北。
麗奈、きょとん。
「何それ?」
魔王、天を仰ぐ。
(終わった……)
だが。
麗奈、くすっと笑う。
「山田くん、たまに面白いよね」
その一言。
心臓が跳ねる。
(面白い……?)
勇者と梓が目を合わせる。
梓、小声で。
「完全に落ちてる」
凌、小さく頷く。
魔王、気付いていない。
恋と筋肉痛のダブルダメージ。
黒炎はまだ出ない。
だが心は、少しずつ燃え始めている。
――続く。




