第16話 「勇者様へ報告する梓」
翌日・昼休み。
屋上。
風が気持ちいい。
凌はフェンスにもたれている。
(山田の魔力は、確実に揺れている)
(だが昨日の気配は微弱だった……)
そこへ。
「ねぇ勇者様」
凌、固まる。
振り向く。
御手洗梓。
ニヤニヤしている。
「その呼び方やめろ」
梓、スマホを振る。
「昨日さ、魔王がね」
嫌な予感。
「体育館裏で詠唱した」
凌「……は?」
梓、腹を押さえる。
「“闇よ、我が名のもとに顕現せよ”」
凌、沈黙。
梓、続ける。
「“深淵より来たりし黒炎――”」
凌、吹き出す。
「っ……!」
耐える。
勇者としての威厳。
守らねばならない。
梓、追撃。
「何も起きなかった」
凌、完全崩壊。
「くっ……!」
フェンスに顔を押し付ける。
「黒炎って……!」
梓「しかも真顔」
凌「やめろ……!」
梓「三バカに“厨二病かよ”って言われてた」
凌、腹筋限界。
「魔王……!」
屋上に笑い声が響く。
数秒後。
凌、ようやく呼吸を整える。
「で?」
「本気だったのか?」
梓、真顔になる。
「一瞬だけ目が変わった」
凌の表情が戻る。
「やっぱり」
梓、頷く。
「麗奈のこと言われた瞬間」
沈黙。
風が強く吹く。
凌、小さく言う。
「……あいつ」
「完全に落ちてる」
梓「だよね」
そしてニヤリ。
「どうする勇者様?」
凌「その呼び方やめろ」
梓「魔王が恋するとどうなるの?」
凌、空を見る。
「普通なら暴走する」
梓「でも?」
凌、少し笑う。
「今のあいつは」
「守る側に回ってる」
梓「つまり?」
凌「弱体化」
二人、同時に笑う。
梓が言う。
「いじり倒せるね」
凌「やめろ」
梓「黒炎って何?」
凌「やめろ」
梓、さらに追撃。
「今度“漆黒の雷”とか言いそう」
凌「本当にやめろ」
その時。
屋上の扉が開く。
山田次郎。
三人、目が合う。
沈黙。
梓、ニヤァ。
凌、真顔を装う。
次郎、怪訝。
「何を笑っている」
梓「別に?」
凌「風がな」
次郎、目を細める。
(何かあったな)
梓、わざとらしく言う。
「深淵ってさ」
次郎、ピタッと止まる。
「……何だ」
梓「いや別に?」
凌、横を向いて震えている。
次郎、察する。
「……貴様」
梓「黒炎、出た?」
凌、耐えきれず噴く。
次郎の顔、真っ赤。
「忘れろ!!」
梓「魔王様、MP足りなかった?」
凌「っ……!」
屋上、再び大爆笑。
魔王、拳を握る。
(次こそ)
(必ず発動させる)
だがその決意は、どこか弱い。
遠くでチャイムが鳴る。
梓、小声で言う。
「でもさ」
「ちょっと可愛かったよ?」
次郎「何?」
梓「必死だったじゃん」
一瞬。
魔王の動きが止まる。
凌はそれを見逃さない。
(本当に、終わってるなこいつ)
恋は、魔王を最弱にする。
――続く。




