第15話 魔王様、うっかり呪文を唱える
放課後。
体育館裏。
夕日が赤い。
山田次郎は一人で立っていた。
(くだらん)
(人間の小競り合いなど)
だが足は来ている。
数分後。
「ちゃんと来たじゃん」
堺匠海、坂田、横田。
三対一。
横田が笑う。
「彼女守りたいんだ?」
次郎の眉が僅かに動く。
「誤解だ」
坂田「じゃあなんで来た?」
沈黙。
(麗奈の名を出すな)
堺が一歩近づく。
「調子乗ってるよな、最近」
肩を掴まれる。
その瞬間。
空気が変わる。
魔王の意識が奥で目を覚ます。
(下等生物が、我に触れるな)
瞳が一瞬だけ赤く染まる――
次郎、小さく呟く。
「……闇よ」
自分でも止める間もなく。
「我が名のもとに顕現せよ」
三バカ、停止。
横田「……は?」
次郎、続けてしまう。
「深淵より来たりし黒炎――」
シン。
何も起きない。
風だけが吹く。
坂田「……」
堺「……」
横田、吹き出す。
「ブハッ!!」
「なに!?今の!?」
坂田腹抱えて笑う。
「深淵!?黒炎!?やべぇ!!」
堺も耐えきれず笑う。
「お前さぁ……」
次郎、硬直。
(発動しろ)
(なぜ発動せぬ)
(魔力は!?)
ゼロ。
完全にゼロ。
横田が腹を押さえながら言う。
「厨二病かよ!!」
坂田「黒炎て!!」
堺「それYouTubeで練習した?」
笑い声が体育館裏に響く。
魔王、内心。
(違う)
(これは真の詠唱だ)
(人間界の魔素濃度が低すぎるのだ)
だが現実はただの痛い高校生。
横田が肩を押す。
「なに?次なんて言うの?」
次郎、顔が真っ赤。
(撤退だ)
だが堺が真顔に戻る。
「まぁさ」
低い声。
「次やったら本気でいくからな」
空気が少し重くなる。
その時。
「何やってんの?」
全員振り向く。
御手洗梓。
腕を組んでいる。
冷たい目。
「三対一ってダサくない?」
横田「関係ねーだろ」
梓、スマホをちらつかせる。
「今録ってるけど?」
三人、顔が変わる。
堺が舌打ち。
「行くぞ」
去っていく三バカ。
静寂。
梓、ゆっくり次郎を見る。
「……黒炎?」
次郎、無言。
梓、肩震わせる。
「っ……」
耐えてる。
「ぷっ……!」
無理だった。
爆笑。
「深淵って何!?」
次郎「言うな」
「詠唱フルでいったよね!?」
「忘れろ」
梓、涙目で笑いながら言う。
「魔王様、人間界ではMPゼロだから」
次郎、空を見る。
(終わった)
(威厳が死んだ)
梓、少し真面目な顔に戻る。
「でもさ」
「……」
「あんた、本気で守る気なんだね」
次郎、目を逸らす。
「誤解だ」
梓、にやり。
「はいはい」
そして小さく呟く。
「でも、魔王が守る側って……面白すぎ」
夕日が沈む。
魔王の黒歴史が一つ増えた。
だが心の奥。
(次は)
(次は必ず発動させる)
壮大な勘違いは続く。
――続く。




