第14話 「優しさは拷問」
放課後。
昇降口。
山田次郎は一人で靴を履き替えていた。
(今日は接触を避ける)
(麗奈とは距離を置く)
(あの鼓動は身体の誤作動だ)
自己暗示、三回目。
「山田くん」
終わった。
振り向く。
藤沢麗奈。
笑顔。
(来るな……いや来い……いや来るな)
脳内大混乱。
「今日さ、ノートありがと」
「……当然だ」
(当然とは何だ!?もっと自然に言え!)
麗奈は少し覗き込む。
「なんか元気ない?」
距離が近い。
近い。
(近い!!)
「問題ない」
即答。
だが耳が赤い。
麗奈、くすっと笑う。
「山田くんってさ」
嫌な予感。
「最初怖かったけど、今は全然だよ」
胸に直撃。
(またそれを言うか……!)
「むしろ優しいよね」
完全に止め。
魔王の思考が真っ白になる。
(優しい……?)
(我が……?)
(魔界滅亡候補筆頭が……?)
その時。
「おー山田ぁ」
最悪のタイミング。
堺匠海+坂田+横田。
横田がニヤニヤ。
「なにイチャついてんの?」
麗奈、即座に睨む。
「別に?」
堺が静かに言う。
「山田、お前さ」
肩を掴む。
「最近調子乗ってない?」
空気が変わる。
次郎の瞳が一瞬だけ冷える。
(触れるな)
横田が笑う。
「麗奈、こいつやめとけって。陰キャだぞ?」
次の瞬間。
麗奈が一歩前に出る。
「やめなさいよ」
真っ直ぐ。
一切ブレない。
「三人で一人に絡むの好きだね」
坂田「うるせぇな」
横田「関係ねーだろ」
麗奈、さらに前へ。
「関係ある」
その目に、一瞬だけ強い光。
魔王が気付く。
(……まただ)
あの微かな共鳴。
堺が舌打ち。
「行くぞ」
三人は去る。
だが去り際、横田が言う。
「山田、今度体育館裏な」
沈黙。
麗奈は次郎を見る。
「大丈夫?」
(守られている)
この感覚。
気に入らない。
だが。
悪くない。
「……問題ない」
麗奈は少し困った顔。
「無理しないでね」
そう言って、ふわっと笑う。
その笑顔。
破壊力が高すぎる。
魔王、内心。
(これは拷問だ)
(精神攻撃だ)
(恋ではない)
(断じて恋ではない)
だが拳は無意識に握られている。
(あの三人)
(麗奈に二度と近づかせぬ)
それは支配欲か。
保護欲か。
もはや分からない。
遠くから、それを見ている影。
御手洗梓。
「へぇ……」
小さく笑う。
「魔王、完全に落ちてるじゃん」
そして呟く。
「でもあんた、麗奈守る側に回ったら終わりだよ」
夕焼け。
三人の背中。
知らないのは、麗奈だけ。
魔王の内戦は、ますます激しくなる。
――続く。




