第12話 「幼なじみの勘」
帰宅後の夕方。
凌の部屋。
ベッドに寝転がる神崎凌の顔を、御手洗梓が無言で見下ろしている。
沈黙。
圧。
「……なんだ?」
凌が視線を逸らす。
梓は腕を組んだまま。
「最近さ」
「何」
「凌、変」
即答。
凌「は?」
「前はさ、もっとおとなしかったじゃん」
「そ、そうだっけ」
「今はなんか、戦ってる人の目してる」
ドクン。
心臓が鳴る。
凌、笑って誤魔化す。
「アニメの見すぎじゃね?」
梓、近づく。
「体育のとき」
「テストのとき」
「昨日の呪文」
指を一本ずつ折っていく。
「……エルなんとかって何?」
凌、固まる。
(やばい)
梓は目を細める。
「山田がさ、“勇者”とか何とか言ってたよね?」
凌の呼吸が止まる。
「で?」
梓、少しニヤッとする。
「山田、魔王だったりして(笑)」
軽い。
冗談っぽい。
でも目が笑っていない。
凌、沈黙。
ごまかす選択肢はある。
だが。
梓は昔から、嘘を見抜く性質のようだ
「……梓」
静かな声。
梓の表情が変わる。
「なに」
凌は天井を見る。
長い沈黙。
「もしさ」
「もし本当に、そうだったら?」
梓、即答。
「面白いじゃん」
凌、思わず吹き出す。
「は?」
「勇者と魔王が同じクラスってことでしょ?」
肩をすくめる。
「ラノベじゃん」
凌、真顔になる。
「……怖くないのかよ」
梓、少しだけ間を置く。
「怖いよ」
正直な声。
「でもさ」
目をまっすぐ見る。
「凌が勇者でも、あたしの幼なじみなのは変わんない」
その言葉が、胸に刺さる。
凌は小さく笑う。
「……参ったな」
梓はベッドに腰かける。
「で?」
「本当なの?」
凌、目を閉じる。
そして、ゆっくり。
「……多分」
「多分って何よ」
「俺も完全に思い出してるわけじゃない」
それは本音。
力も不完全。
記憶も断片。
梓は小さく頷く。
「じゃあ山田は?」
凌、苦笑。
「……あいつ、黒だ」
梓、吹き出す。
「やっぱり(笑)」
そして少し真面目な顔。
「ねぇ」
「なに」
「戦うの?」
静かな問い。
凌は少し考える。
「分からん」
「でも」
拳を握る。
「麗奈は巻き込みたくない」
梓、満足そうに笑う。
「うん、それでこそ」
立ち上がる。
「安心して」
「味方だから」
凌が驚く。
「え」
「情報整理、体力管理、状況判断。現代パートは任せなさい」
ニヤリ。
「勇者様」
凌、頭を抱える。
「やめろ」
梓はドアの前で振り返る。
「あとさ」
「山田、あんたより先に麗奈好きになってるっぽいよ」
沈黙。
「は?」
「顔に出てた」
ドアが閉まる。
凌、天井を見上げる。
(……マジかよ)
一方その頃。
山田次郎は自室で天井を見つめていた。
(断じて違う)
(あれは恋ではない)
だが鼓動は、嘘をつかない。
そして今。
勇者と魔王の秘密を知るのは、梓だけ。
――続く。




