第10話 「巻き込まれ体質」
翌日、昼休み。
神崎凌と山田次郎は、昨日の古代語事件以来、妙に距離が近い。
いや、近いというより――
牽制。
「……昨日のあれ」
凌が小声で言う。
「何のことだ」
次郎、即否定。
空気がピリつく。
その間に――
「二人とも」
藤沢麗奈が割って入る。
「最近ほんと仲いいよね?」
同時に否定。
「違う!」
「断じて違う!」
麗奈、くすっと笑う。
「息ぴったりじゃん」
その瞬間。
次郎の中で違和感が走る。
(……妙だ)
昨日、古代語を発した瞬間。
教室の空気が一瞬“揺れた”。
魔力はほぼ無いはず。
なのに。
(何かが共鳴した)
視線が、無意識に麗奈へ向く。
凌も同じことを考えていた。
(昨日、空気変わったよな)
あの一瞬。
麗奈だけが、ほんの僅かに反応していた。
怖がるでもなく。
戸惑うでもなく。
“何かを感じ取った顔”。
麗奈が首を傾げる。
「なに?」
凌、探るように言う。
「昨日さ、俺変なこと言ったよな」
「うん。なんか呪文みたいなの」
「怖くなかった?」
麗奈、即答。
「別に?」
二人、同時にピクリ。
「なんで?」
麗奈は少し考える。
「なんかね、変な感じはしたけど」
「嫌な感じじゃなかった」
次郎の瞳が揺れる。
(嫌悪を抱かぬ……だと?)
魔王の魔導語は、普通の人間なら本能的に拒絶する。
だが彼女は。
「むしろ、懐かしい感じ?」
凌と次郎。
――沈黙。
(懐かしい?)
(共鳴……?)
次郎の中で仮説が生まれる。
(まさか……この女)
凌の中でも同じ考えが浮かぶ。
(勇者の祝福を受ける“巫女”タイプ……?)
だが証拠はない。
麗奈は無邪気に言う。
「ねぇ、今度三人で帰らない?」
次郎、固まる。
凌も固まる。
(宿敵と放課後デートだと!?)
(魔王と並んで下校……だと!?)
二人、同時に頷く。
「……ああ」
「……構わん」
麗奈、にっこり。
その瞬間。
ほんの一瞬だけ。
彼女の胸元で、小さな光が揺れた。
誰にも見えない。
だが。
魔王は感じた。
勇者も感じた。
(……力?)
(……封印の残滓?)
麗奈は、まだ何も知らない。
自分が“何か”の中心にいることを。
そして。
勇者と魔王は初めて、同じ結論に至る。
(この女を巻き込むわけにはいかない)
(この女は利用できぬ……守る側だ)
――目的は違う。
だが。
想いは一瞬、重なった。
三人の下校が始まる。
その背後。
校舎の屋上から、御手洗梓がそれを見ていた。
「へぇ……」
風が吹く。
物語が、少しだけ動き始める。
――続く。




