少年サッカーのコーチだって?
少年サッカーの合宿に顔を出したユースケのパパ。お父さんコーチたちに勧誘されて、コーチとして参加するか悩むパパ。お父さんコーチの奮闘と奇跡のプレーを魅せる子供たちの熱い戦い。第一話、少年サッカーのコーチだって?
「石川さん、サッカーの経験ありますか?」
「いや、自分は高校時代ラグビー部でしたので経験はないです」
「そうですか、お父さんコーチ一緒にやってみませんか?もう一人コーチ捜しているんですよ」
練習試合で遠征すると親が子供を引率することになっていたので、今回はユースケを引率して、試合を見ていたときだ。横浜SCはボランティアのお父さんコーチで運営されており、ユースケの小学四年の代は二人のお父さんコーチが選手を指導していた。誘ってくれた村上コーチともう一人は浜田コーチだ。
ユースケが言うには二人ともサッカー経験がないけど子供たちが小学校一年のころからコーチを引き受けて続けているらしい。どうして未経験者のお父さんがコーチなんて出来るかというと、他学年のサッカー経験あるコーチが練習に参加して、練習方法を教わって、子供たちを指導しているようだった。さらに、大会の時、持ち回りでやらなければいけないレフリーの免許も二人は取得したようだった。この二人には頭が上がらない。
他の子供たちの親はお母さんたちが引率している。うちもいつもは妻が引率するのだが、今日はたまたま自分が暇であったので引率してきた。サッカー観るのも好きなことも手伝って。
「自分も野球部だったので、サッカー経験ないですけど、子供達と一緒にやると楽しいですよ」
「石川さん、是非一緒にやりませんか?技術的なところは山下コーチが教えに来てくれますし、この先、四、五、六年となるとお父さんコーチもう一人いると助かるんですよね」と浜田コーチも言ってきた。
平日は仕事して、土日は少年サッカーのコーチだって?しかもサッカー経験がない。あり得ないなぁと思った。きっと、お父さんが応援に来るとこんな感じでコーチへの勧誘をしているのだろうなと思った。その夜、家に帰って、晩ご飯を食べながら、妻とユースケにこのことを話した。ユースケはやめて、恥ずかしいからコーチにならないでないでと言い、妻はお父さんがコーチになると私が毎回引率しなくてよくて助かるわと言う。二人とも好き勝手なことを言うので、とりあえずやらないよと流しておいた。
ひと月ほど過ぎたある日、妻が、
「八月にサッカー合宿が計画されていて、一緒に行くお手伝い出来るお父さんかお母さん探してるみたい。そうそう、車出せる人を探してるみたいだつたわ、お父さん参加してみれば?」と言い出した。八月の土日の一泊二日、車の運転とグランドの白線引きや玉拾い、そして、スイカ割りなどのお手伝いらしい。コーチは出来ないが、二人のコーチのお手伝いならできるかもしれないと思い参加することにした。
次の週末、練習に顔を出し、村上コーチ、浜田コーチに合宿の参加、お手伝いすることを申し出た。二人とも喜んでくれて、その場で子供達の配車や大雑把な荷物運びの分担などを決めた。他にもう一人のお手伝いお父さんと二人のお手伝いお母さんが来ることになった。
合宿当日は朝から子供達をピックアップし、山中湖の合宿所に移動した。お昼のカレーライスを食べて、練習が始まった。子供達のはしゃぎようは半端なく、きっとサッカーでもなんでもよく友達同士でお泊まりに行くことが楽しくてしょうが無い様子だ。
自分は久々にサッカーボールに触れ、リフティングをしてみた。三回くらいしかできない。ボールを持って、ラグビーでやった、パントを軽く上げてみる。丸いボールなので、まっすぐ蹴りやすい。ゴール裏で球拾いしている最中は、ゴールの裏からインサイドキックでシュートしてみる。高校の時、サッカー部とラグビー部でサッカーやラグビーの対抗試合をしたことを思い出した。
グランドで子供達が練習しているのだが、全員おしゃべりしてふわふわした浮ついた雰囲気で、練習に集中出来ていないのは明らかだ。シュート外してもヘラヘラして、緊張感も無い様子だ。
「ちょっと集合」と村上コーチが子供たちを集めた。十秒くらいの沈黙の後(この間が大事だ)、「今は練習の時間、おしゃべりは練習の後、夜とかできるから。集中して練習しようよ。九月からは区大会始まるし、試合勝ちたいでしょ。ちゃんと練習すれば必ず一勝できるようにしてあげるから」子供達は静かに聞いている。村上コーチの声は決して怒った様子は無く、また、強制している様子も感じはない。分かるよね、みたいな共感を引き出すような言い方だ。
「次は、シュート練習ね、浜田コーチ、球出しお願いします。お父さん、お母さん、ゴール裏で球拾いお願いします」子供達は静かに指示に従い、順番にシュートを打った。二周目に入った頃には、ナイスシュートなど、コーチ、子供、親から自然に声が出て、いい雰囲気になった。
「じゃあ、今日の最後は、子供チームと親チームの対抗試合をします。十三人の子供達とコーチ二人、お父さん二人、お母さん二人の親は計六人。十三対六でやります」
村上コーチは親チームのゴールキーパ兼レフリーだ。小学四年生だから、倍の人数いても戦えるかなと思ったけど、親たちは走れないは、ボール蹴っても空振りするはでなんとも情けないプレーが連発した。
一方、子供達の中にはドリブルがうまい子、足が速い子、左足でも蹴れる子など、対戦して初めて分ったのであるが小学四年生とは思えないようなプレーをする子がいるのだ。自分はフェイントされて、まんまと股を抜かれてしまった。試合は終始楽しい雰囲気であった。これがクラブチームにはない親のボランティアで運営されている少年サッカーのいいところなのかもしれない。結局試合は三対一で子供達の勝利だった。
その夜、夕飯、風呂が終わり、子供達は子供達部屋に集まり、親たちは村上コーチ、浜田コーチ、ヨッシーの父と母、カネゴンの母、そして、自分の六名でお疲れ様のビールで乾杯となった。案の定、村上コーチからお父さんコーチのお誘いがきた。当然アキ父も誘われた。
「サッカーを教える以外にもたくさん教えなければいけないことがあるんです。礼儀や挨拶、チームメンバを大事にすることとか、強いチームと試合する時の試合の望み方とかですね。小学生チームって、メンタルだけでも試合に勝てることがあるんですよ」
「昨年の市大会予選なんて、格上のYMCAに前半0対0で折り返したときもあったんですよ、後半もしかして一点いれれば歴史的勝利なんて期待できたときもあって、行ってこい!最後まで諦めるなって、言ったんですが、なぜか後半に四点も入れられて惨敗したんですけどね。でも、前半を0対0で折り返した時は褒めまくりました。平日お仕事でお疲れでしょうけど、どうです、これから二年ちょっと彼らが卒業するまで一緒にコーチしてみませんか?」
聞いているうちに目頭が熱くなってきた。村上さん、話、プレゼンうまいなーと思った。明日の練習のお手伝いさせてもらって考えさせてくださいとお願いし、その日は就寝したのだ。
次の日、朝から山下コーチが駆けつけてきた。山下コーチのお子さんは既に卒業したが、コーチとしてそのまま在籍し、都合が良いときにはいろいろな学年の練習に参加し、指導していた。さらに山下コーチはこの合宿から参加したいという選手を連れてきた。子供たちはすでに知っていたようだ。小学四年なのに身長がでかい。他選手と比べても頭一つ抜き出ている。
「おー、リュージだ?」と子供たちからもうれしそうな声。村上コーチと浜田コーチは、「これで空中戦が出来る」と喜んでいた。リュージも張り切って練習に参加した。
山下コーチはサッカー経験者で、指導がうまく、子供たちに人気があった。ボールの蹴り方、トラップの仕方を教わり、褒められるとうれしいそうに喜んでいた。自分もあれくらい指導できればなーと思った。合宿終了時に山下さんが、
「石川さん、職場が新横浜と聞きました。自分は駅近くの喫茶店で仕事しているので来てくださいよ」と言われた。店の名前を聞くといつも行く蕎麦屋の隣なので、機会あれは顔出しますよと答えた。
午前の練習を終え、昼食の後のスイカ割りが始まった。目隠しして、おもちゃの野球バットの先を地面ににつけ、バットの根元にオデコをつけ、バットを軸に十周回る。周りの人の声だけで、スイカを割るのだが、子供たちは面白いように真っ直ぐ歩けない。嘘だと思って、自分もやってみたが真っ直ぐ歩くどころか、立つことさえ出来なかった。サッカーもそうだけど、こんな遊びも昔のように体が動かないのだと痛感した。そして、子供たちと一緒に遊ぶことがこんな楽しいとは思ってもみなかった。
次の週、ランチでいつもの蕎麦屋でなく、隣の山下さんの喫茶店に行ってみた。昭和感のあるレトロな感じのお店だ。お店の名前はエンリコ。お店に入るとバイトの子が席に案内してくれた。奥の厨房を覗くと山下さんがフライパンを振っていた。すぐ目が合った。ちょっとして、山下さんが、
「石川さん、来て頂いてありがとうございます。毎週金曜の夜、コーチたちが集まって、ここで会議してるんですよ。石川さんも是非来てください」と言った。
一緒に来た同僚が、
「石川さん、何のコーチですか?」と聞くので、
「少年サッカー、でも、やるとはまだ決めてないけど」
「好きそうですよね、石川さん」
すると、山下さんが、
「是非、お願いしますよ」と言って、厨房に戻って行った。
「だめだよ、余計なこと言っちゃ」
「うちの会社でも、何人かやってますよ。少年サッカーや少年野球のコーチや監督。週末は練習だとか遠征だとか言ってる人いますよ」
「あー、知ってる、知ってる、でも俺、サッカー経験ないしさ」
喫茶店のランチはうまかった。その後、かなりのペースでエンリコで同僚とランチすることとなった。夏合宿に参加したり、会社の近くに山下さんのお店があったりと不思議とコーチしてもいいかなという気持ちになっていた。ユースケもサッカー好きだし、自分は団体競技が好きだ。さらに弱いチームが強いチームにどうやって勝つかを考えることが好きだ。昔、ラグビーも私立の強豪と試合をした時、いろいろ作戦をチームでたてるのが好きだった。最後は負けてしまったものだけど。
読んでいただき、ありがとうございます。毎週火曜日に続編を投稿する予定です。
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