第7章:権力の奈落
賈詡の献策を受け入れた李傕と郭汜の軍は、破竹の勢いで長安へと進軍した 。道中で兵を吸収し、その数はおよそ十万にまで膨れ上がった 。董卓の仇討ちという大義名分は、行き場を失っていた涼州兵たちを一つにまとめ、恐るべき熱狂を生み出していた。
王允が率いる朝廷軍はなすすべもなく打ち破られ、呂布は都から追放された 。長安の城門が内から開かれた時、民衆の歓声は悲鳴へと変わった。李傕と郭汜の軍は、解放軍ではなく、飢えた狼の群れだった。略奪、暴行、殺戮。かつて漢王朝の栄華を誇った都は、わずか数日で地獄へと変貌した 。
賈詡は、その惨状を城壁の上から、ただ無表情に見下ろしていた。自らの言葉が解き放った災厄が、眼下で牙を剥いている。胸を焼く罪悪感を、彼は冷たい理性の氷で無理やり凍らせていた。
李傕と郭汜は、幼い献帝をその手に掌握し、後漢の朝廷を完全に支配下に置いた 。彼らは賈詡の功績を認め、彼を要職に就かせた 。しかし、そこは権力の頂点などではなく、欲望と暴力が渦巻く奈落の底だった。
李傕と郭汜は、董卓以上に統治者としての器量を持ち合わせていなかった 。彼らは日夜酒宴に明け暮れ、些細なことで部下を斬り捨て、互いの功績を妬み、足を引っ張り合った。賈詡は、この二人の暴君の間を綱渡りのように立ち回りながら、ただ息を潜めていた。権力者の猜疑心がいかに恐ろしく、その愚かさの側で生きることがいかに困難であるかを、彼は董卓のもとで嫌というほど学んでいた。目立たず、逆らわず、ただ嵐が過ぎ去るのを待つ。それが、彼がたどり着いた生存戦略だった。
だが、彼が作り出した嵐は、彼の想像をはるかに超えて、激しさを増していった。
本作を楽しんでいただけましたら、ぜひ評価で応援をお願いいたします。
よい評価をいただけると執筆のモチベーションがあがります!