揺れる心
遺跡で魔物を退け、巻物を手にしたリオンたちは、急ぎ町へ戻った。
ギルドの資料室。埃の積もった書物と古文書が並ぶその一角で、セリアが巻物を机に広げていた。
「……やっぱりかなり古い文字だわ。私ひとりじゃ完全には解読できない」
「学者に頼むか?」ガルドが腕を組んで言う。
「でも、ギルドに持ち込めば噂が広まる。『継承者』って言葉、変に利用されたら危険よ」
セリアの真剣な表情に、リオンの胸がざわついた。
(俺のせいで……二人まで巻き込んでるんじゃないか?)
重苦しい空気を破ったのは、ガルドだった。
「心配すんな。坊主が何者だろうと、俺たちの仲間だ。だろ?」
セリアも頷く。
「ええ。……私は、リオンを信じたい」
その言葉に、リオンの頬が熱を帯びた。
「セリア……」
ふと視線が合い、互いに気まずく逸らす。
(な、なんだよ……こんなの、ただの仲間意識だろ……?)
リオンは心の中で言い訳しつつ、耳まで赤く染まっているのを自覚していた。
◇
その夜。ギルドを出て、寮へ戻ろうとしたときだった。
背後から、低く掠れた声がリオンを呼び止めた。
「――古代の継承者」
振り返ると、フードを被った男が立っていた。影に紛れたその姿は不気味で、瞳だけが闇の中で赤く光る。
「お前が現れるのを、ずっと待っていた」
リオンの心臓が跳ね上がる。
「な、何のことだ!」
「知らぬふりをするか。だが、その力は隠せまい。古代の光……あれは“我ら”が求めるものだ」
フードの男が手を掲げると、黒い靄が蠢き出した。
殺気が押し寄せ、リオンの呼吸が詰まる。
(やばい……!)
剣を抜こうとした瞬間――
「リオン!」
駆けつけたセリアとガルドが、彼を庇うように立った。
「誰よ、あんた!」
「くく……いずれわかる。継承者の命運がどちらに傾くか、楽しみだ」
闇の靄が霧散すると同時に、男の姿も消えた。
残された三人は、しばらく言葉を失ったまま立ち尽くす。
やがてセリアが、リオンの手をぎゅっと握った。
「リオン、もうひとりで抱え込まないで。私たちがいるから」
「……ああ」
その温もりに支えられながらも、リオンは自分が狙われている現実を強く実感していた。
――逃げられない。
古代魔法の継承者としての運命から。




