古代の記録
翌朝。まだ朝靄の残るギルドの掲示板には、新たな依頼がいくつも張り出されていた。
セリアが目を走らせる。
「……これなんてどう? 古代遺跡の調査依頼。報酬も悪くないし」
「遺跡か。いいな」ガルドが腕を組み、頷く。
「危険度は低いが、内部に魔物が出る可能性あり……か。初心者にはちょうどいいな」
リオンは文字を追ううちに、胸の奥で妙なざわめきを覚えた。
(古代……。俺が使ったあの魔法と、何か関係があるのか?)
三人は依頼を受け、町外れの遺跡へ向かった。
◇
遺跡は半ば森に飲まれ、崩れた石柱と苔むした階段が口を開けていた。
セリアが杖を握り直す。
「うわぁ……思ったより大きい。ちょっと怖いけど、わくわくするね」
「おう。冒険らしくなってきたじゃねえか」
ガルドが前を歩き、剣を抜く。
リオンは入り口に刻まれた模様に目を留めた。
幾何学的な文様と古い文字――その一部が、昨夜の黒い羽を思い出させる。
(やっぱり……何か繋がってるのか?)
内部はひんやりとした空気が漂い、苔と石の匂いが満ちていた。
進むたび、足音が反響し、三人の緊張を増幅させる。
「魔物が出てもおかしくないね……」セリアが声を潜める。
「坊主、気を抜くなよ」
「わかってる」リオンは剣を構えた。
しばらく探索を続けたあと、奥の部屋で彼らは古びた石棺を見つけた。
開けると、中には朽ちた巻物が納められていた。
セリアが慎重に手に取り、魔力で保護する。
「古代語で書かれてる……。えっと、『継承者』……?」
その言葉にリオンの心臓が跳ねた。
「な、なんて書いてあるんだ?」
「まだ全部は読めないけど……“選ばれし者は、古代の力を受け継ぐ”って」
――選ばれし者。
リオンの頭に、あの日の光の壁がよぎる。
胸が苦しくなるほど早鐘を打ち、息が詰まった。
そのとき。
「気をつけろッ!」
ガルドの怒声と同時に、石棺の影から魔物が飛び出した。
灰色の体に赤い眼を持つ、牙だらけの獣――遺跡に棲みついたガルグ。
「来るわよ!」セリアが詠唱を始める。
リオンは即座に前へ出た。剣を握る手が震えるが、それでも足は止まらなかった。
「守るんだ……!」
獣の爪が振り下ろされる。
リオンは剣で受け止め――同時に胸の奥から光が迸った。
再び、金色の紋章が宙に浮かび、盾のように仲間を包み込む。
「こ、これは……!」セリアが目を見開く。
ガルドは唸りながらも、その隙を逃さず剣を振り下ろした。
獣は断末魔を上げ、崩れ落ちた。
荒い息を吐きながら、リオンは膝をついた。
「また……俺の中から……」
「リオン、やっぱりあなた……ただの新人じゃない」セリアの声は震えていた。
ガルドも真剣な眼差しを向ける。
「坊主。お前、何者なんだ」
リオン自身も答えを持たない。
ただ、胸の奥で――“古代魔法の継承者”という言葉が、重く響いていた。




