忍び寄る影
依頼を無事に終えた三人は、町の冒険者ギルドに戻ってきた。
石造りの建物の扉を押し開けると、中は賑やかだった。木製の机に冒険者たちが集い、酒や肉を楽しんでいる。
「お、帰ってきたか。初仕事はどうだった?」
受付にいたギルド職員の女性が、にこやかに迎えた。
ガルドが大剣を机にドンと立てかけ、胸を張る。
「ゴブリン共は片付けた。畑も安全だろう」
「すごいわ! じゃあ、依頼達成ね」
カウンターに報告書を出すと、袋に入った銀貨が手渡された。
「やったぁ!」セリアが目を輝かせる。
「これでちゃんと冒険者として一歩踏み出せたね」
「坊主もよくやったじゃねえか」ガルドがリオンの肩をがっしり叩く。
「い、痛い……! でも、俺……守れたんだ。二人を」
リオンは手のひらを見つめる。まだ微かに残る温もりが、あの光の壁を思い出させた。
「ふふ、これからもっと強くなるわよ。三人でね」
セリアの笑顔に、リオンの胸が熱くなる。
その横顔が、いつもより少し近く感じられて――思わず目を逸らした。
(……なんでこんなにドキドキするんだ)
――楽しい時間は、あっという間に過ぎていった。
酒場の隅で簡単に祝杯を上げた後、三人はそれぞれ宿へ戻ることになった。
◇
夜の路地。石畳の上をリオンは一人歩く。
頭の中では今日の出来事が何度も繰り返され、眠気よりも高揚感が勝っていた。
(俺にも……戦える力があるんだ。仲間と一緒なら、きっと――)
そのとき、不意に背筋が冷たくなる。
誰かに見られている。
振り返ると、闇の中に人影が立っていた。
フードを深くかぶり、顔は見えない。だが、ぞっとするような気配だけは伝わってくる。
「……誰だ?」
リオンが声をかけたが、答えはない。
人影はただ静かに、彼を見つめていた。
心臓が跳ねる。声を出そうとした瞬間、影はスッと路地の奥へと消えた。
「ま、待って!」
リオンは駆け出した。だが角を曲がったときには、すでに姿は消えていた。
――その場に残されたのは、一枚の黒い羽だった。
拾い上げると、冷たい感触が手に残る。
「……なんだ、これ」
胸の奥で不安が芽生える。だがそれ以上に、誰かに見張られていたという現実が、リオンの心を締めつけた。
「リオン、どうしたの?」
突然、背後からセリアの声がした。
驚いて振り向くと、宿に帰る途中の彼女が立っていた。
「顔が真っ青よ。まさか怪我でも?」
「い、いや……なんでもない」
リオンは慌てて羽を懐にしまった。
(仲間に余計な心配はさせられない……)
セリアはじっと彼を見つめたが、やがてふっと笑った。
「ふふ。リオンって、隠しごとが下手そう」
「う……」
図星を突かれて言葉に詰まる。
「でも、無理はしないでね。仲間なんだから」
その言葉に、胸の奥で何かが温かく揺れた。
――しかし、リオンの懐に眠る黒い羽が、これから訪れる運命を予兆していた。




