剣士との邂逅
今回の題名の邂逅とは、予想していなかったところで出会うという意味です
翌朝。
アストレアの町は朝日を浴び、活気に包まれていた。市場では商人が声を張り上げ、パンの焼ける香ばしい匂いが漂ってくる。
「町って、こんなににぎやかなんだな」
リオンは目を輝かせながら周囲を見回す。
「珍しいものばかりで浮かれてると、すぐにスリに財布を抜かれるわよ」
セリアは呆れたように言った。
「だ、大丈夫だって!」と胸を張ったリオンだったが、その直後に露店の呼び込みに引き込まれそうになり、慌ててセリアに腕を引っ張られる羽目になった。
――そんな二人が足を運んだのは、町の中央にある酒場だった。
「ここなら情報が集まるはずよ。災厄について、何か耳にしている人がいるかもしれない」
昼間の酒場は、酔客よりも旅人や傭兵で賑わっていた。剣を腰に下げた者、鎧を着込んだ者、魔法書を広げている者までいる。
リオンはごくりと唾を飲み込んだ。
――俺、場違いじゃないか……?
そのとき、がらりと扉が開き、大柄な男が入ってきた。肩幅は広く、背中に大剣を背負っている。日に焼けた肌と鋭い眼光は、場の空気を一変させるほどだった。
「おい、席は空いてるか?」
野太い声に、周囲の客がざわめく。
「ま、またあいつか……」
「トラブルになる前に距離をとれ」
ひときわ警戒の視線を集めながら、男はカウンターに腰を下ろした。酒場の主人が困ったように視線を逸らす。
「……有名人みたいね」
セリアが小声で言った。
「悪い意味で、だろうな」
リオンもごくりと息を飲んだ。
ふと、その男と目が合った。鋭い灰色の瞳が、じっとリオンを射抜いてくる。心臓が跳ね上がった。
「坊主、お前……」
男が立ち上がり、ずかずかとリオンのほうへ歩いてくる。周囲が一斉に息を呑んだ。
「な、なに?」
リオンは思わず後ずさる。
次の瞬間、男はリオンの肩を掴み、ぐいと顔を近づけた。
「……匂いがする。魔力の匂いだ。只者じゃねえな」
「えっ……?」
「アンタ、何者?」とセリアが割って入る。
男は一瞬彼女を見やり、口角をつり上げた。
「俺の名はガルド。放浪の剣士だ。腕に覚えがある奴を探してる。坊主、お前……俺と一緒に戦わねえか?」
突拍子もない誘いに、リオンは目を瞬かせた。
「え、えっと……俺、まだ何もできないし……」
「はっ! そういう奴ほど伸びるもんだ。俺の勘は外れねえ」
自信満々に言い放つガルドに、酒場の客たちもざわついた。
セリアが冷たい視線を向ける。
「いきなり何なの? 信用できるわけないでしょ」
「信用なんざ、戦場で背中を預けりゃ嫌でもわかるさ」
ガルドは豪快に笑った。
そのやりとりを聞きながら、リオンは心の中で迷っていた。
――仲間なんて考えたこともない。だけど、この人がいれば……俺は、もっと強くなれるのかもしれない。
迷いの中で、ふと母の言葉を思い出す。
『リオン、誰かを守れる人になりなさい』
胸の奥に灯った決意が、恐れを押しのけていった。
「……わかった。俺、ガルドさんと一緒に行くよ」
「おい、リオン!」セリアが目を見開いた。
「決めたんだ。俺は強くならなきゃいけないから」
リオンは真っ直ぐに言い切った。
ガルドは満足そうに頷き、大剣の柄を軽く叩いた。
「いい目だ。坊主……いや、リオン。これからは仲間だ」
こうして、リオンとセリアの旅に、豪胆な剣士ガルドが加わった。
新たな出会いは、さらなる試練の幕開けを告げていた。




