封印の碑文
巨獣を打ち倒し、息を整えたリオンたちは、さらに遺跡の奥へと進んでいた。
戦闘の余韻がまだ体に残る。それでも前へ進むのは、ここに重要な手がかりが眠っていると直感していたからだ。
「……見て」
セリアの声に導かれ、広間の中央にある巨大な石碑へと視線を向ける。
高さ三メートルほどの黒石に、複雑な古代文字が刻まれている。
「古代魔法文明の碑文……」ミラが目を輝かせ、そっと手を触れた。
「読めるか?」ガルドが尋ねる。
「ええ……少し時間をちょうだい」
ミラが集中し、言葉を紡ぎ始めた。
――“光の継承者は影を討ち、均衡を守る。
だが継承は血に宿り、時を超えて受け継がれる。
影の王、封印されしは深淵の彼方。
封印を解くは、鍵を持つ者なり。”
読み上げる声が、広間に反響する。
「継承者……やっぱりリオンのことよね」セリアが静かに言った。
リオンは息を呑み、無意識に胸のペンダントを握りしめる。
「血に……宿る……」
それはつまり、自分の出自に関わる言葉だ。
◇
「影の王……封印……」ガルドが腕を組む。
「つまり、やつらはその封印を解こうとしているってことか」
「封印が解かれれば、この世界に影が溢れる……」セリアの顔は険しい。
ミラは碑文の隅に刻まれた別の文字を指さした。
「ここに、“南方の古き塔に、第一の鍵眠る”とあるわ。
次に行くべき場所が示されてるのよ」
「南方の塔……新しい目的地だな」ガルドが頷く。
リオンは石碑を見上げながら、心の奥に不安と決意が入り混じるのを感じていた。
自分が「継承者」であることは、もはや疑いようがない。
だが――なぜ自分なのか?
自分の血に宿るという“力の系譜”とは、何なのか。
◇
その時、遺跡全体が低く唸りを上げた。
「……崩れる!」セリアが叫ぶ。
天井から瓦礫が落ち、床がひび割れていく。
「急げ! 出口まで走れ!」ガルドの怒声に従い、四人は必死に駆け出した。
闇の広間が崩壊し、碑文もろとも石塊の下に飲み込まれていく。
やっとの思いで外に飛び出した瞬間、遺跡の入口が完全に閉ざされた。
荒い息を吐きながら、リオンは立ち止まり、振り返る。
「……碑文は消えた。でも、内容は俺たちが覚えてる」
「そうだな。次は南方の塔だ」ガルドが肩を叩いた。
セリアは息を整えながら微笑んだ。
「リオン……あなたはもう、一人じゃない。私たちがいるから」
その言葉に、リオンの胸にほんの少し安堵が広がった。
だが同時に、影の組織の冷たい視線を感じた気がして、背筋が凍る。
彼らは必ず動いている――封印を解くために。
その前に、自分たちが辿り着かなくてはならない。
南方の塔を目指す旅路が、こうして始まった。




