影の囁き
翌朝。
リオンたちは再びギルドを訪れていた。昨日の安堵は消え、空気は少し張り詰めている。
受付嬢が紙束を手にして説明を始めた。
「最近、王都近郊の遺跡で不可解な現象が報告されています。魔物が異常に凶暴化し、影の瘴気に似た反応も確認されました。調査依頼をお任せできますか?」
「遺跡か……厄介だな」ガルドが腕を組み、唸る。
「でも、ここまで影が関わっているなら放っておけない」セリアが毅然と言い切った。
リオンは小さく頷く。胸の奥で、ペンダントがかすかに脈打つような気がした。
◇
遺跡へ向かう前、セリアがリオンの横に並ぶ。
「ねぇ、昨日の夜……眠れなかったでしょ」
「え……わかった?」
「顔に出てる」セリアは小さく笑った。だがその瞳には、不安を押し隠すような強さも宿っていた。
「影に立ち向かうのは怖い。でも、私たちはきっと乗り越えられる。リオンがいるから」
リオンは言葉を失い、ただ彼女の言葉を胸に刻んだ。
◇
王都の石畳を抜ける裏路地。
ミラが先を歩いていた時、不意に背後から声がした。
「……継承者は、やはりお前か」
振り返ると、そこには黒いローブの男が立っていた。顔は影に覆われ、赤い瞳だけがぎらついている。
「誰?」ミラが警戒し、杖を構える。
「我らは“影の眷属”。闇に選ばれし者だ」
男の声は低く、耳の奥に直接響くような不気味さを帯びていた。
「影の……」リオンの背筋に冷たいものが走る。
男はゆっくりとリオンを見据えた。
「白き光の継承者……お前の存在は闇にとって障害だ。だが、まだ未熟。今ここで消してしまえば容易い」
「させるか!」ガルドが前に出て剣を抜く。
だが、男は嘲笑うようにローブの裾を翻した。
「焦ることはない。我らは常に背後にいる。やがて、お前の心の隙を喰らうだろう」
次の瞬間、男の姿は闇に溶けるように消え去った。
残されたのは冷たい空気と、不気味な囁きだけだった。
◇
「……影の組織、か」
ガルドが唸る。セリアは強く拳を握りしめ、ミラは険しい顔で周囲を睨んだ。
リオンは胸の奥に残るざわめきを振り払うように、深く息をついた。
「負けない。俺は……絶対に」
その決意と共に、彼らは遺跡への道を再び歩き出す。
だがリオンの心には、先ほどの声がまだ焼き付いて離れなかった。




