束の間の休息
ギルドの扉を押し開けると、酒場のような賑わいが再び三人――いや、四人を迎えた。
受付嬢が顔を上げ、にこやかに声をかけてくる。
「おかえりなさい。依頼は無事達成されましたか?」
ガルドが討伐した黒狼の証拠を机に置くと、彼女の目がわずかに見開かれた。
「……これは。普通の狼とは違いますね」
「影に侵されてた」リオンが答えると、受付嬢は小さく頷き、険しい顔をした。
「最近、こうした異常個体の報告が増えているんです。ギルドでも調査を進めていますので、何か情報があれば共有していただけると助かります」
◇
報酬を受け取り、ようやく安堵の表情を見せたガルドが声を張り上げた。
「よし! 今日は祝勝会だ!」
「もう……本当に飲むことしか考えてないんだから」セリアは呆れつつも微笑む。
ミラはにやりと笑って、リオンの肩を軽く叩いた。
「ねぇ、君も行こうよ。初依頼だし、盛大に祝おう!」
「えっ、俺も?」
「当たり前じゃない。主役の一人なんだから」
こうして四人は近くの酒場に移動した。
◇
酒場は木造の温かみのある内装で、香ばしい肉の匂いが漂っていた。
大皿に盛られた料理を囲み、四人は笑い合いながら食べる。
「リオン、意外と度胸あるじゃない」ミラが笑いながらグラスを掲げる。
「い、いや……必死だっただけで」
「でも、確かに強くなってるわ。光の魔法も前より安定してきた」セリアの言葉に、リオンの頬が赤くなる。
「お前ら、若いっていいなぁ」ガルドが豪快に笑い、酒を一気にあおった。
その瞬間だけは、影の脅威も忘れ、確かに青春のひとときだった。
◇
夜。
リオンは宿の窓辺に立ち、王都の夜景を見下ろしていた。
「……本当に、ここに影がいるのか」
街は明かりに包まれ、人々の笑い声が響いている。だがその奥に、黒い靄がうごめいている気がしてならなかった。
不意に、ペンダントが淡く光を放った。
「また……」
光はすぐに収まったが、胸に残ったざわめきは消えなかった。
「リオン、まだ起きてたの?」
振り返ると、そこにはセリアが立っていた。
「眠れなくて……」リオンが苦笑すると、セリアは窓辺に並んで立ち、夜空を見上げる。
「影が迫っていても……私たちはきっと大丈夫。だって、一緒にいるから」
彼女の言葉に、リオンは胸の重さが少し軽くなるのを感じた。
◇
一方その頃――王都の裏路地。
フードを被った数人の影が、ひそやかに集まっていた。
「継承者は王都に入った」
「ふん、愚かな。いずれ我らが手に落ちる」
赤い瞳が夜の闇に浮かび、冷たい笑みを浮かべる。
――束の間の安息は、嵐の前触れに過ぎなかった。




