初めての依頼
翌朝。
冒険者ギルドの掲示板には無数の依頼が貼られていた。魔獣の討伐、荷物の護衛、薬草の採取――王都ならではの多彩さに、リオンは目を輝かせる。
「さて、俺たちが最初に選ぶのは……」ガルドが腕を組む。
「難しいのはやめましょう。実績作りが先よ」セリアが現実的な意見を述べる。
「じゃあ、これなんてどう?」と割って入ったのはミラだった。
彼女が指差したのは《近郊の森で暴れている狼型魔獣の討伐》という依頼だった。
「危険度は低いし、報酬もそこそこ。しかも私、その森の地形は詳しいの」
「……お前、やっぱり勝手に付いてくるつもりだったんだな」ガルドが苦笑する。
「いいじゃない。仲間が増えた方が心強いでしょ?」ミラは悪戯っぽく笑った。
こうして四人は、初めての正式な依頼に挑むこととなった。
◇
森に入ると、空気はしっとりと湿り気を帯び、鳥の声も少なく不気味な静けさが広がっていた。
「狼の群れなら、匂いを辿ればすぐに見つかるはずだ」ミラが木の根元に跪き、地面を調べる。
「……やるな。足跡まで見分けられるのか」ガルドが感心する。
「これでも元盗賊団の一員だからね。痕跡を読むのは得意よ」
さらりと打ち明けられた過去に、リオンとセリアは目を丸くした。
「盗賊団、って……」
「心配しないで。抜けたのは本当だし、今は冒険者としてやっていくつもりだから」
ミラは軽く肩をすくめ、先へ進んでいく。
◇
やがて、低い唸り声が森を震わせた。
「来た!」セリアが杖を構える。
茂みをかき分けて現れたのは、通常の狼より二回りも大きい黒毛の魔獣だった。牙は異様に伸び、瞳は赤く濁っている。
「……影に侵されてる」リオンが小さく呟く。
黒狼は一声吠えると、一直線に突進してきた。
「任せろ!」ガルドが前に出て、斧で受け止める。しかし衝撃は凄まじく、彼の足が地面にめり込んだ。
「リオン!」セリアが呼びかける。
リオンはペンダントを握り、光の魔力を練る。だが狼の気迫に、体がわずかに震えた。
「大丈夫、あんたは私が護る!」
ミラが横から飛び込み、双剣で狼の首筋を切り裂いた。鮮血が飛び散り、魔獣が怯む。
「今よ!」セリアの炎弾が炸裂し、狼の体を包み込む。
最後にリオンが渾身の光を放ち、魔獣は絶叫と共に崩れ落ちた。
◇
戦いが終わり、四人は肩で息をつきながら顔を見合わせた。
「ふぅ……やっぱり影の影響が広がってるな」ガルドが低く呟く。
「普通の魔獣じゃなかった。放っておけば村が危なかったかも」セリアも真剣な表情だ。
リオンは倒れた狼を見下ろし、拳を握った。
(影は、もう王都の近くにまで迫っている……俺が力を扱えるようにならないと)
ミラがにっと笑い、手を差し伸べてきた。
「悪くない連携だったじゃない。これからも組まない?」
リオンは一瞬迷ったが、その手を取った。
「……ああ、よろしく」
こうして四人の絆が結ばれた瞬間、森の奥で黒い靄が立ち上り、何者かが遠くから彼らを見つめていた。
――影は、着実に彼らの歩みを追っていた。




