旅立ちの決意
深夜のギルド裏路地で聞いた“不穏な声”が、リオンの頭から離れなかった。
「奴は間違いなく継承者だ」「確保せねばならん」――その会話は、夢や幻ではない。敵は確実に近づいている。
翌朝、リオンはセリアとガルドを呼び寄せ、昨夜の出来事を打ち明けた。
セリアの顔が蒼ざめる。
「つまり……この町にいては危険、ってことね」
「逃げるのか?」ガルドが腕を組む。
「逃げるんじゃない。――戦うために動くんだ」リオンの瞳が強く光った。「俺が継承者なら、必ず狙われる。だったら先に出て、真実を探し出す」
静寂の後、セリアが小さく笑った。
「やっと本音を言ってくれたわね」
「本音?」
「昨日までは、自分一人で抱え込もうとしてた。でも今は違う。リオンは私たちを仲間として見てる。それだけで十分」
ガルドも豪快に笑う。
「まったくだ。坊主、やっと冒険者らしい面構えになったな!」
◇
昼過ぎ。三人はギルドを離れる準備を整えた。
セリアは古語の巻物を何本か革袋に詰め、ガルドは大きな斧を背に担ぐ。
リオンは腰に剣を差し、布袋の中に母から唯一残されたペンダントを忍ばせた。
「これからどこへ?」セリアが尋ねる。
「……古代魔法の痕跡を追うなら、まずは北の山岳地帯だ。そこに“封印の洞窟”があると記録に残ってた」
「洞窟か……面白そうだな」ガルドの声は弾んでいた。
だがセリアは表情を引き締める。
「でも敵も同じ記録を狙ってるかもしれない。道中で襲撃される可能性もあるわ」
リオンは頷いた。
「覚悟の上だ。それでも、進まなきゃならない」
◇
町を出る直前、セリアは小さな振り返りをした。
市場の喧騒、石畳の道、子どもたちの笑い声。すべてが日常で、愛しい場所だった。
「……戻ってこれるかな」思わず口をついた言葉。
リオンは隣に立ち、そっと答えた。
「戻るさ。みんなで一緒に」
その言葉に、セリアの胸が熱くなる。頬がわずかに赤らんだのを、彼女自身は気づいていなかった。
「よし、行くか!」
ガルドが声を張り上げ、三人は北へと続く街道を歩き出す。
◇
その背後。
屋根の上から三人を見下ろす影があった。
「旅立ったか……。だが逃がしはせぬ。“主”のために必ず捕らえる」
風に揺れる黒衣の裾。その瞳は冷たく光り、遠ざかる仲間たちの背をじっと見据えていた。




