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海中もくず  作者: 椎名 園学


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9/13

作戦会議❽

簡潔に、こいつの言っていることは正しい。現地集合、自由行動、現地解散は他では見られないこの学校だけの強みで、生徒数が極めて多いので、帰りどこか寄って制服を見られたとしてもそれがだれか特定することは至難の業で、ほぼほぼ不可能に近い。けれど、こいつは最も肝心なことを1つ言っていない

「んで、どうやって女子誘うんだ?」

「…そこなんだよ。そこを会議しようと思ってお前を呼んだってわけ」

クラスが違うので詳しくは分からないが、こいつはモテるタイプでは無いし、異性の友達が多い訳でもない⋯いや、ぜろ。こいつと同じクラスの人の話ではノンデリ発言と奇行ではけられているらしい。通りで聞いてきたわけだ。けれど類は友を呼ぶということか、俺も女友達は幼なじみの瞳ともくずさんしかいない。女友達を作る方法など知るわけがない

「いや、俺も知らんけど」

「またまたーお前いつも女と喋ってるじゃん」

「あれ幼なじみ。もう1人の人は……なんだろ。ヤンキーの人」

もちろんもくずさんを友達と俺は思ってるが、家庭のリアルなところを見すぎて「普通の友達」と感じれない。かといって否定するのも心が痛くなるので、客観的な見た目から想像できるそうな「ヤンキー」と言ってしまった

「じゃ、じゃあ幼なじみの作り方教えてくれ。俺この高校で幼馴染作るから」

高校生の幼馴染作りは聞いたことない話だが、とりあえず瞳とのを口にする

「お母さんの昔からの親友がたまたま同じ年に出産したらしくて女子会とかする時、俺とあいつを一緒に遊ばせていた流れて今に至る」

「あかん、俺のお母さん性格終わってるから友達おらん……。お父さんは少し前に…死んだし」

「え」

唐突な死に低い声が出てしまう。

「ごめん嘘」

舌を出しして「やったぞ」と笑っている。

「もういいわ。解散。会議はここまで」

俺が来る前から弁当をつまんでいたようで、最初から半分しかなかった弁当は早くも空になっている。

雑に弁当を片付け、立ち上がり教室へ向かった

なんだったのだ…。一瞬の出来事に風呂敷すら開けていない俺はそのまま弁当を持つ。今のことを言えば笑われるだろ、どんな顔して帰ればよいのか⋯


「あっはー受ける。聞く人完全に間違えてんじゃん。こんな彼女いたことない童貞やろうに女友達なんてできるはず無いのに」

思ってた以上の攻撃が飛んで来た。子猫パンチかと思っていたらナイフ突き立てて襲ってきたような猛烈な攻撃だ

「言い過ぎだろ」

「だって一言も嘘ついてないじゃんね。ねーもくずさん……あ、もくずさんとは友達じゃん」

「ほんとだよ」

「なら後童貞なだけか」

「否定できないの出すの禁止だろ」

女子が弁当食べてる時、童貞童貞言っていいのか?男でもダメだろ…。だがそんな常識、彼女のパワフルマインドには通じない。

「力哉童貞なんだ」

珍しくおにぎり以外のお弁当を食べているもくずさんがボソッと呟く。タバコなど一般女子と違うとはいえ、女子だと思っている力哉にとってその言葉は瞳のより強く心に来た。

「…そうです……。」

「別にいいんじゃない。いっぱいHしてる人か良いって訳じゃないし」

「ですよね。やっぱもくずさんしかいません」

心の涙が溢れ出る。口に運んだタコさんウィンナーがいつもより塩辛く美味しかった

「てか瞳も彼氏いた事ないなら一緒だろ」

思い出しカウンターを投げる

「うわーお前遠回しに童貞かどうか聞いてきたな、最低だなお前」

「なんで俺は聞いたらダメなんだよ…」

「これが女の強みだ覚えておけ」

勝ち誇るその表情。俺は負けたのか⋯


「お菓子は300円までって小学校みたいですね」

「確かに」

定番となった2人の帰り道。夏の面影を感じながら何気ない会話をするのは普通の学生になれてきているようでうれしい

「力哉って好きなお菓子とかあるの?」

「和菓子ですね。栗まんじゅうが好きです」

「私も和菓子の方が好きかな」

「良かったら遠足の前日一緒に買いに行きません?東金沢駅前のところで」

近くのスーパーはそこだけので、もくずさんもきっと行ったことがあり、自分の好みの商品も置いてあるだろうと図らいで言うが、もくずさんは2、3度目をパチクリさせる。なにかおかしいことでも言ってしまったかなと今の言葉を反芻するも分からない。他に行きつけのがあるのだろうか

「どこか他のところが良かったですか?」

「いや大丈夫。明日ね。覚えとく」

覚えておかなくてもきっといつも通り二人で帰るついでに行くのだから良いと思うとだが…


「たっだいまー」

赤らめた頬で入ってくるは海中家の大黒柱、海中ひとで。唯一の生きがい兼たった1人の大好きな妹のもくずが将来の為にとボロボロなちゃぶ台に向かって勉強しているのを見ると嬉しくてしょうがない。お酒が入っていることもあり、後ろからぎゅと抱きしめ、もふもふと髪を撫でた

「おかえり。遅かったね」

「そうなんだよー。お客さんが酷くてねぇー。飲んだ量勝負で勝ったら料金倍払ってくれるとか意味わからんこと言い出してさー。もうボロっ勝ちよ。客の5倍のんで5倍の料金貰ってやったわ」

どうりでお酒の強い姉が珍しく酔っていると思ったわけだ。お姉ちゃんは酔うとめんどくさいのでいつもなら帰りを待たず寝るのだが、今日は言わなければいけないことがあるのでそうもいかない。書いていたシャーペンを離し姉を向くと

「遠足でお菓子買いに行くんだけど300円もらえない?」

もくずさんは基本的に財布を持ち歩かない、持って行っても何も入っていないからだ。女2人を稼ぎて1人で生活する貧乏暮しではいつでもお金が厳しいので。できるだけ節約しようとなにか必要なものがあった時に姉に申し出るシステムで過ごしていた

「あーもうそんな時期かぁー」

ところどころの小さな穴を布で補完した財布は少し黄ばんでいるものの今年で12年になる。何度か買い換えを提案したが、母が生きていた頃に貰った唯一のプレゼントということで捨てる気はサラサラないらしい。小銭をかきあつめ100円玉1枚、50円玉2枚、10円玉8枚、五円玉3枚、1円玉枚5枚をテーブルに並べ一二三と数え300円を確認し終えるとくずに渡した

「ありがとう」

「別にこんくらいなんともないよ」

そうは言うものの財布の中に残った硬貨がそう多くなかったのを見たもくずはどこか申し訳ない気分になる。けれどどうすることも出来ず、気を紛らわそうとタバコを吸うしか無かった



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