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海中もくず  作者: 椎名 園学


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7/12

観察❻

「おっはよぉー!元気か少年。朗報だ!」

机に顔を伏せ寝に入っていた俺の背中をビシビシと叩いてくる奴がいる。可愛い声でやかましく、男の様に接してくる。やや殺意が籠った眼差しで見つめると

「私朝からお茶漬け食べてきたんだけどね、それが緑茶だと思ったらほうじ茶だったの。仰天したんだけどお父さん平気で食べてるし、しかも「これが文豪の食べ方だぞ」ってお米にお饅頭のせてほうじ茶かけて「饅頭茶漬け」って。本当に面白くてさー。けどそれが案外美味してくてさ、力にも試して欲しいんだよね」

「…そうか、寝させてくれ」

特に重要ではないと即座に感じ適当に返事をする

「いやいや、話聞いてた?お茶漬けだよ?」

「…うん、そうやね。いつか試す…」

絶対試さん、心ではそう決め話を終わらそうと再び頭を机につける

昨日、あの後特にもくずさんのことを考えずに予習に打ち込むことができた。そのいっぽうでコーヒーのせいでなかなか眠れずにいた。結局床に就けたのは午前2時、起床時刻は7時30なのでロングスリーパー気味の力哉には全然足りず、胃には吐き気、瞼には重みが乗っていた

「いいや、今だね」

ドスンと何かを置かれ片目で見てみると、置かれたタッパーの中には白米とほうじ茶らしき茶色の液体が混ざっていた。

「え?持ってきたん?」

「だって力、絶対試さないじゃん。だから持ってこようと思ってお父さんの残りもらってきたんだ」

「……ってことは瞳のお父さんの口付け?…」

「まぁまぁそれは堪忍。あ、一応お饅頭もあるよ?」

制服のポケットから出されたお饅頭。食べる気になるわけがなく、必死に首を横に振り続けた


元から俺が絶対に食べないだろと踏んでいたようで、本当は昼ごはんの弁当用だった。衛生面が気になるが、お父さんの残りというのも嘘で新鮮なものを作ったようだ。安全のためわざわざ保冷剤を沢山用意して。まんまと遊ばれたわけだ

単におやつとして持ってきた饅頭を頬張る瞳を無心で見ていると、視界の端にもくずさんが教室に入ってくるのが見えた。そのせいで昨日のことを思い出してしまう。うまく興味を消せたと思っていたが実際にその姿を見てしまうと本当かどうか知りたくなってしまう

「なあ瞳」

「ん?饅頭はやらんぞ」

「そうじゃなくて」

もくずさんに聞こえぬよう顔を耳に近づける

「もくずさんの事なんだけどさ」

「お、どうした恋か?」

「じゃなくて、もくずさんってさ…どんな人?」

口に饅頭を含みながら顔をへの字にしてぽかんと瞬きをする。瞳からしてみれば二日前、自分にもくずさんを紹介した張本人の俺がもくずさんがどんな人か聞いてきたのだから唖然とするのは当然といえば当然。けど自称恋愛マスター(彼氏歴ゼロ)の瞳はなにか勘繰ったようで

(こいつ好きやな…)

「もくずさんめっちゃいい人だよ。クールだし……えーと、かっこいいしそれに、イケメンだしね!」

邪推で気持ち悪いニマニマ顔で話し始めたが話ていくと自分も全然関係がないことを気づいようで結局褒めているのは外見だけになっている

「いや、そういうんじゃなくて。どちらかと言えば性格的なほうで」

「うーんと…一昨日話したばっかだからあんまわかんなけど、まぁ雰囲気は怖いけど(わんちゃん)が好きって言ってたしワンチャンいい人!!!」

「決まったみたいにやめてくれ、特に決まってないぞ」

いい人…まぁ悪い人では無さそうに見えるが、パパ活する人が全員悪い人というわけでは無いからまだ否定はしきれない。怪しいとこがないか実際に見てみるしか無さそうだ…


単に睡眠不足なこともあるが、もくずさんをずっと見えてると眠くなる。1~3限は数学、現代文、世界史と教室で先生の言うことをただただ聞くだけだった。意外なことに、もくずさんは授業中寝ずちゃんと授業を聞き必要であればメモをとるタイプな人だった。勝手な偏見から授業中は寝るタイプと思っていたのでこれは驚いた。

そして休み時間。これも恐ろしいほどつまらない物だった。授業が終わると次の授業の準備をし、ただ予習するだけ。授業が始まればまた真剣に聞くし終われば予習、それの繰り返し

けど4時目は運が良いことに体育でバレーだった。特にバレーが好きって訳でもないが、バレーは準備や仲間との協力など色々なものが見れると思い、観察がばれないようにそれっぽいカモフラージュしながらジッと見つめる。

準備は皆がダラダラ喋りながらやる中、1人静かに物を準備し、試合中は連携などせず、その身長から繰り出されるアタック、ブロックでほぼ1人で点をかっさらった

「おかしなとこは特にないな。強いていえば誰とも会話してないくらいか…」

「ヘイ!誰見てんのかい?おやぁー?その視線の先にいるのはもくずさんではないか」

隣の席に腰を下ろす瞳はまだいらん邪推を持っているので言動が少しウザイ。だが逆に好きでは無い人をジロジロ見てると思われてもあれかもしれないので否定はしすぎないようそれとなく流す

「うわー。もくずさん上手いね。あんなジャンプ私には出来ないよ」

「確かにだいぶうまいな。さっきから1人で7点取ってるし」

「よし小僧、良いこと教えてやる、女子はなぁ、胸にダイナマイトつけてっから普通飛べないんだよ。強い球打たれても本気で取りに行ったら魅惑マグナムがバレてしまうから全力を出せないのさ。普通に運動神経が良いのもあるけどこの点でもくずさんはメチャ強」

「お前しれっと胸いじってね?」

「だって〜さっき私のチーム0vs25でもくずさんに負けたんだよ?酷くなぁい泣」

珍しく人の悪口を言うと思ったらそいうことか。涙目敗走の必死の抵抗は胸をいじるしかない…悲しき生物だ。瞳もそこまで胸があるという訳でもないが、言えば背骨でも剥ぎ取られそうなので今はやめておく

そう言う間にも、もくずさんはスパイクを打ち一点をとった

「なぁ、もくずさんって友達いないのか?」

「近寄り難いんじゃない?目がちょっと鋭かったりボーイッシュな見た目だったりどちらかと言えば男の雰囲気じゃないかな」

そう言われ改めてもくずさんを見る。確かに…俺よりもカッコイイかもしれない……

「確かに。あんなカッコよかったら男より女子からの方が人気あんのかな」

「うーんと…まぁ、そんなにかな。てか逆かも」

若干主観を後ろに置いたかのように話す

「本当かどうか分からないんだけどパパ活?的なやつやってる噂あって」

「それ本当なのか?」

1日考えていたことを言われつい聞き入ってしまう。いきなりなものだから瞳は一瞬驚いていたが

「それがわかんないんだよね。女子の間じゃ1年生の時から噂になってるけど、実際に見たって子はいないし、もしかしたら昔もくずさんに告った女の子の腹いせとかかもしれない」

自分でも思ってはいたがやはりホラである可能性のほうが高いのかもしれない。

「けど瞳はそんなに嫌い無さそうだな」

「だって本当かどうかわかんないし。あともしやってたとしても私に被害が無いなら別にいいかなって。人それぞれ環境とか考え方とか違うしね」

真偽は分からない。結局わかったのはそれだけだった。けれそんな噂を知っていても普通に話している瞳がなんだか今日はカッコよく見えた。これは寝不足のせいじゃないだろうな


5.6.7限目も同じくことの繰り返しだった。メモ、予習、メモ、予習……。何も掴めずだった俺はただの噂であるとか信じ観察を辞める。ずっと観察に集中して見ていたので気を楽にすると尿意が襲ってきた。そういえば今日はトイレに行ってなかった。トイレから帰り教室に戻るともくずさんはもう帰っていた

俺もそのまま荷物を持って学校を離れる。青く澄み渡る快晴の空の下、残りわずかな桜が舞っていた。近くのと思われる小学生が幼く元気な可愛らしい声がそこらから聞こえてくる。景色に見とれ無心に歩いていると、いつもよりひとつ早い角で曲がってしまったようで見慣れない光景が広がっていた

「寝不足もだいぶか」

振り返り抜けようとすると嗅いだことの無い汚い煙が鼻に入り込んだ

「けほっごほ」

咳き込む。チラリと目をやると、もくずさんがタバコを吸っていた

「またタバコですか?」

「お客さんさん?若いねぇ、お金もってる」

生ぬるく甘い雰囲気を感じてかゾッとする。いつもの少し鋭い目と違いトロンと溶けた瞳になにか誘われるものがある

「ホ別で2万円。お兄さんは学生さんみたいだからそれでいいよ」

ねっとりとした声に耳が負けそうになってしまう。何もできず立ちすくんでいるいると

「お姉ちゃん。この人私の友達」

後ろから低い声がする。振り向くとそこにはもう一人もくずさんがいた

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