恋バナ56
「じゃあ今度は好きな人とかいないの?」
明美の質問にもくずの顔がさらに熱くなる。多分いま私はすごく変な顔をしてるだろう。
これを明美に見られるわけにはいかない。顔は見せないまま、唇を出来るだけ強く噛み
「⋯⋯⋯いないよ」
偽りの平常で答える。がそんなもの人とのかかわりが普通の人より多い明美に子供だましにもならない
「へえーそうなんだ。てっきり力哉君のこと好きなんだと思ってたから」
「⋯な、なんで?」
突然の「力哉」に思わず明美の方を向く。
「雰囲気的な」
「力哉とはただの友達だから、別にそういうのじゃなくて⋯」
今までのとは違い動揺を隠せていないのは自分でも分かる。
「うちさー実は力哉君のこと好きなんだよね。優しいししっかりしてるしさー。でもずっともくずさんが好きなんだと思ってたから告白とかしないようにしてたんだけど、けどただの勘違いでよかったー」
いやらしくもくずさんを見ながら明美は笑う。自分にはできないその愛くるしい笑顔を見ていると、なぜかどんどん頭のなかに不安が詰まっていくのが分かる。多分これも顔に出たんだろう明美は
「本当に力哉君のこと気になってもないの?今なら全然うちも諦めれるんだけど」
「⋯ちょっとだけ気にしてるかも⋯」
実際に口に出す羞恥に、にぎやかな周りの音でかき消されそうな弱い声で返す。
それを見て明美は嬉しそうに笑った
「もう本当にもくずさん可愛いんだからー。うちが力哉君のこと狙うわけないじゃん。うち彼氏いるし」
体を揺らして面白がりながら明美がもくずさんの背を叩く。もくずさんは安堵の息を漏らし、体をちぢ込めた。弱弱しくなった耳に明美は
「いつから好きなの?」
「別にまだ好きってわけじゃ」
「うっそだー」
「本当だよ」
「じゃあ想像してみて。学校帰り雨が降ってるけど力哉君は傘を持っていません。そこにクラスの女子が傘を差しだして一緒に帰ろうって言います」
そうして力哉は何気ない学校の話をしながら家まで送ってもらう。それがきっかけでだんだん距離が
縮まって⋯⋯⋯んで⋯⋯⋯
「悲しそうな顔してるよ」
明美の声で意識が戻る。明美はただ力哉が女子と一緒に帰ると言っただけなのに余計なことまで妄想してしまった。
「うちの場合は彼氏がこくってきたんだけど、もし好きだったら全然こっち側から告白してもいいと思うよ」
「⋯明美は自分から告白したことあるの?」
「あるよー。同じ先輩に4回こくったこともあるし」
「4回も?」
「そうそう結局付き合ってすぐ別れちゃったんだけどね」
笑いながら別れた話をする明美が、もくずさんの目には異質なものに見える。恋愛とはそういうものなのか?
「もくずさんは今まで何人と付き合ったことあるの?」
「まだ誰とも」
「え、じゃあ経験なしってこと?」
「何の?」
「えっちーやつだよ」
顔を近づけて会話しているとはいえ、文化祭まっさい中にそっち系の話題が出る明美はやっぱり自分よりも人生経験が豊富なんだろう。逆を言えば自分は少し恋愛というものを重く受け止めすぎなのかもしれない。
「ないけど」
「えー珍し。じゃあピュアピュアじゃん」
「恋愛とかしたことなかったから」
「あとで交代の時間になるじゃん?その時一緒に周る約束とかしてるの?」
「してないけど」
「絶対一緒に回った方がいいよ。文化祭マジックって言葉もあるし」
「⋯けど力哉他の友達と回るかもしれないし⋯」
「いいの取られて」
「⋯誘うだけだ誘ってみようかな」
「いいじゃんいいじゃん。これは見ててメシウマになってきたねぇ。応援してるよ」
目と唇を細め、朗らかな顔で明美はもくずさんの手を握る。ちょうどその時、一般のお客さんが話しかけてきた。客をクラスに運ぶため会話は中断される。
クラスにつきお客さんをテーブルに案内していた時、力哉と目が会った。
さっきまで明美と話していただけに余計に意識してしまう。
バレないようちらちら見ていると、明美が静かに微笑んでいるのが見えた
注文をとり、クラスの端の暖簾で仕切られたスペースに顔を出す。
「コーヒーを二つ⋯⋯って何してるの?」
中で皆が床に座り、番号順に並べられたカードを凝視している。
瞳と杏奈が顔を合わせていた。杏奈の顔は余裕そうだが瞳の額には汗が流れていた
「あ、杏奈ちゃんお願いだから出してくれない?私もうパス使えないんだよ」
「すいませんね親分。パスで」
「い〃っやーーーーーーあああぁあぁ」
そう言った途端瞳はみじめに叫び持っていたカードを落とす。カードの一つにはジョーカーがあり、挑発的な笑みを浮かべ瞳を見ていた。そいつを睨み瞳はカードを裏返す。
恨み顔で立ち上がり
「もくずさん⋯注文なんですか」
血管が浮き出そうなほど強く拳を握りもくずさんに尋ねた
「コーヒーを二つ。⋯大丈夫?私が運ぼうか?」
「大丈夫ルールだから⋯」
慣れた手つきでインスタントを紙コップに入れ湯を注ぐ。何を隠そう瞳は9回連続負けていたのだ
キマッた目で暖簾をくぐる瞳と入れ替わりで明美が顔をのぞかせる。それを見た瞬間皆が急いでトランプをポケットに隠す。が、明美には見えていたようで、眉間にしわをよせ
「何やってんの?まだうちら仕事中だよね?」
一瞬で全員が姿勢を整える。
「「「⋯すいません」」」
皆深々と頭を下げた。今回のゲームの勝者は瞳だったのかもしれない




