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海中もくず  作者: 椎名 園学


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6/9

颯太郎❺

水田=瞳


「シャァァアーー。面ぇん‼‼」

竹刀の先端が面の金属部に当たり「ビシンッ」と高い音が鳴る。決め切りをと抜け終わる前に山田田監督は俺の面を掴み、抑え込んだ。背の高い監督に止められ面越しに見える監督の顔は怒り心頭であった

「有効打突を狙え。バカチンが。はいも1回ぃい」

竹刀で体を突き放され距離を取らされる。もう一度監督の面を狙った

「面!」

先ほどよりいい音が響く。今度は狙い通りの場所に当たることが出来た。剣道歴の浅い俺でも確実に有効打突で一本であることを感じる。喜びかさっきより速くすり足で走り抜いた

「ええぃ阿呆」

だが監督をさらに怒った様子で俺の面を掴む。顎クイというより顎ギン!の勢いで持ち上げられると、鬼の形相であった

「何しとんねん我。踏み込み忘れとんな。シバキ回すぞゴラァ。言われる前にやらんかい」

あ…有効打突に意識しすぎたせいで、踏み込みを完全に忘れていた。

この後も指導がつづいたのは言うまでもない


「面取れーー!!!」

「「「「「ぅおっす!!!!!」」」」」

キャプテンの声に続き、野太い声が木造道場に響く。室外扉が空いているのでサッカー部の方まで聞こえているが慣れた光景なので今更誰も言わないだろう

面を取ればすぐに集合のため遅れぬよう急いで面を取る。たま絡まって時間がかかり皆の視線を集めてしまう時があるが今回は上手くいった

「礼」

キャプテンの掛け声に皆頭を下げる。酢だこのように赤くなった頭に風が吹けば飛んでいきそうな細雪白髪を携え、湯気を噴出させている監督は皆の顔が見えるよう1本下がり一人一人への反省を言ってく。部員数が多いので一言二言のアドバイスだけれど、どれも的確で実用性の高いことを言うので自分向けではないことでも聞き入ってしまう。

率直にいえば言葉でいえば「すごい先生」なんだろう


「なぁ、春のくせして暑っつくね?」

熱が残る面タオルをくしゃくしゃまるめながら颯太郎はそう言う。

「な。暑いし面付けとったら地獄」

同じように面タオルを丸め、胴と垂れを脱ぐと熱が外へ抜け出す。ほんのりと残る熱を感じることは剣道をしないものには分からないだろう


俺の友達は、ほぼよっ友程度と言った。だが一人颯太郎は違う。クラスは1年も2年も違うが同じ部活でどちらも高校から始めたので話しが合い、言い切るのが怖い俺だが、彼は親友だと思っている。阿呆でビビりでお調子者なマヌケのせいで、一緒にいると表情が飽きることがない

思うと1年のほとんどの時間を彼と過しただろう、彼以外良き友がいなかったのもでかいが

「地稽古中胴外して脇打ったよな?」

「そんなことないてー。しゃーない。お前が出鼻狙っとったからやん」

確かにそうだが、あれは酷かった。まともに狙っていたら絶対に行かないような角度で俺の脇腹を切りつけたのだ。痛さで竹刀が上手に握れなくなったほどなのできっと赤く腫れているだろう

「そういえばさ、」

逃げるためかそうたろうは話題を変える

「お前のクラスに海中ってヤツおらん?銀髪で貧乳の」

「貧乳かどうかはよく見てないから分からんけどおる」

「いや、絶対貧乳。そいつパパ活やってるらしい」

いきなりのことに痛んでいた脇腹の痛みがスっと消える。力哉の瞳は分かりやすく開き驚きを隠していなかった。

「え、マジ?」

結局昨日は夜ご飯前まで一緒にいたもくずさんがパパ活?…。確かにタバコ吸うような品行でなおかつ家が貧乏とは言っていたが、まさかそんなことは無いだろう。

「ガチのマジ。パパ活って言うより立ちんぼ的な、隣のクラスのやつがお世話になったらしい」

心が冷たく締め付けられるのがわかった。

別に彼女でも身内でも無いので特に問題ないことだが彼女のあの寂しそうな顔に、友達と言った時の揺れた雰囲気を思い出すとなにか嫌なものを感じてしまう

「…どんな感じに」

「そりゃもうかなりエンロィらしくて、体の隅から隅たんまりと回って行って仕舞いには」

「颯太郎!!!」

怒鳴り声に話を止めて振り向くと監督がトマトの様に赤く怒っていた。

「おい、颯太郎。さっき稽古中終わったら言うことあるから来い言うたよな」

「あ、やべぇ」

監督は近づき颯太郎の耳の先を握り持ち上げそのまま個室に連れて言った。さらにでかい怒鳴り声が聞こえてきたのは言うまでもない


「ただいま…って言っても誰も居ないか」

逆にもくずさんが2回来ていたことがおかしいのだ。静かな部屋に荷物を置き何もすることがなくなると、頭に颯太郎の言っていたことが蘇る

決して惚れているわけではないので好きな人が軽い女と知って落ちていると言うわけでない。

友達がそうなんだと知って落ちていた

「いいや、あいつの事だ嘘かホラ掴まされたに違いない」

気をそらそうとやかんを火にかける。

コーヒーでも飲めば気が紛れる気がして


トゥクン!

滅多に来ないLINEが鳴った。開くと定番の公式LINEではなく、アニメキャラのアホ面アイコンの瞳だった

「明日から弁当やでー。忘れたらあきまへんよー」

わざわざ…と思うが言われなければ忘れていたのでありがたい

「あんがと」

「₍ᐢ. ̯.ᐢ₎む」

可愛いうさぎのスタンプに既読をつけテーブルに置いた

「あってかさ知ってる?もくずさんなんだけど」

暗くなった画面がまた光る。見えた内容にスマホをすぐに取り上げる。続きはすぐに来た

「実は囲碁部らしいよ。意外じゃない?私てっきり女バスだと思っててさ、今日暇だったから帰ると一緒にバスケやろうと…」

近所のおばちゃんと話しているようなLINEだったので最後まで見ないまま。電源を消す。

「勉強でもするか。瞳には寝てたって言えばいっか」

もやもやは消えないが悩んでいてもどうにもならない気がして勉強に取り掛かる

熱いお湯をインスタントコーヒーに注ぐ音を聞き、シャーペンを握った


前話の展開からいきなり剣道が始まってびっくりした人もいるでしょう。私もです

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