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海中もくず  作者: 椎名 園学


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3/9

2.5

呼吸で入ってくる副流煙に頭がふらつくのを感じる。こんなものおいしいのだろか。家系図で見ても一人を除いて皆非喫煙者でそこまで酒も飲まない。裕福であるくせに平民ぶった「狸の皮被り」と裏で言われている吉塚家の力哉にとって今この状況に気が気じゃなくなっている

歯科検診の時煙草を吸っているかどうか一目で分かると聞いたが、副流煙は大丈夫なんだろうか。

「雨すごかったですね」

気にしたところで自分で許可を出した後なので撤回はできない。まぁできたとしてももくずさんの鋭い目つきと男勝りな端正な顔立ちを前にして堂々と言えないだろう⋯

「ね」

「タオルいります?」

「いやいい」

雨が染みこんだもくずさんのワイシャツは濃い蒼に変わり、言い難いが⋯下着が見えかけている。

経験のない力哉の心臓は外で鳴り響く雨音の中でもはっきりと唸っていた

頼むから何か遮ってほしい⋯⋯、このままじゃ身動き取れないので、断られたがタンスからタオルを取り出しもくずさんに手渡した。

「風邪ひいたら大変なんで一応どうぞ」

「あ、そう⋯⋯」

申し訳なさそうな顔で受け取ると、タオルをワイシャツに粗く押し付け、微かに湿った髪をごわごわふき取る。シンプルな猫のキーホルダーだけが付いたバッグにもさっと拭くと律儀に四角く折りたたみ力哉に手渡した

「ありがと」

受け取り洗濯籠に入れる⋯⋯⋯⋯。雨のにおいが満ちている部屋にタオルの音が落ちた

何を喋ればいいんだ⋯⋯。いつもあっちから会話を振ってくれる瞳の気楽さが改めて身に染みてくる

もくずさんは喋る気が無さそうなので黙っておくのも手かもしれないが、自分から家に誘ってほとんど会話がないは自分の力量を自覚させられ、反抗的に何か喋らねばとなってしまう

「明日模試ですね」

「そうだね」

もういちど深く煙草をふかし、立ち上がる。曇天広がる窓を空け外に向かって煙草をとんとんと叩く。ぼろっと落ちていく灰は風に吹かれどこかへ飛んでいった

吸い終わると濡れた鞄から教科書と安物の筆箱を取り出し机に広げる。

筆記音がぼそぼそ鳴り、力哉も予習を始めることにした

雨は相変わらず止んでいない

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