25:山中の夜
25:山中の夜
山越えも、残すところあと一日。
先の戦闘で倒した政府軍の兵士たちの装備を、ロイスは無言で回収していた。
小銃、ナイフ、弾薬類。それらを素早く確認し、二人に分け与える。
「……これを使え」
リリコとジンに、それぞれナイフと銃を手渡す。
リリコは戸惑いながらも頷いて受け取る。
だが、ジンはナイフを一瞥しただけで、無造作に地面へ投げ捨てた。
「こんなもの、ただのなまくらだ」
吐き捨てるようにそう言い、自らの腰にある刀へと手を添える。
紫焔——
それは彼の身長を超えるほどの長大な刀であり、鍔と鞘には異国的な意匠が施されていた。
あまりに重厚なそれは、少年が持つには不釣り合いなほどだった。
「……使い慣れてるのは、こっちだけだし」
ジンにとって、剣こそが言語であり、誇りであり、唯一の“戦う理由”だった。
余った弾薬はリリコが引き取り、三人はまた無言のまま山中を進み始める。
夕暮れが近づくにつれて気温は下がり、空気は冷たく澄んでいった。
そして夜の帳が降りる頃、三人は岩陰に身を潜め、簡単な野営の準備を始める。
◇夜の描写と感情の揺れ
夜。
木々の間を風が吹き抜け、小さな焚き火がぱちぱちと音を立てている。
ロイスは木の根元に寄りかかり、疲れたように目を閉じていた。
その顔には戦闘中の鋭さはなく、ただ穏やかで無防備な静けさが漂っていた。
リリコは火を見つめていたが、ふと顔を上げ、彼の寝顔に目を向ける。
(……さっきまで、人を殺してたのに)
信じられないほど安らかな寝顔。
長い睫毛が揺れ、呼吸は深く、どこまでも静か。
思わず「綺麗」と呟きそうになる。
知らず知らず、顔が近づいていた。
吸い寄せられるように、ロイスの頬に手が届きそうになった、その時——
「……それ、もうちょい近づいたらキスじゃないの?」
後ろから軽口が飛ぶ。
ジンが木の枝に腰を下ろし、火をあぶりながらにやりと笑っていた。
「お姉さんでも、そういう顔するんだなー。さすがに驚いたよ」
「なっ……!? 何見てたのよ!」
「ずっと。っていうか、隠れて見るつもりなかったし」
リリコは顔を赤らめて睨みつける。
だがジンは肩をすくめ、悪びれた様子もなく笑って続ける。
「ロイスって、こう見えて結構モテるタイプじゃない? 無口で強くて、美形で。ほっとけない感じのやつ」
「……別に、そんなんじゃ……ない」
反論の声も、どこか力がない。
ジンはそれを見て、わざとらしくため息をついた。
「ふーん? じゃあ、ま、何も言わないでおいてあげるよ」
そう言って木の上に横たわり、目を閉じる。
リリコはそっぽを向いたまま、毛布にくるまり、ロイスに背を向けて寝転んだ。
◇リリコの独白(心の声)
(わたし……何考えてるんだろ)
ロイスの寝顔。
戦場で助けてくれた手。
自分がもう“不要な存在”だと思ったとき、何も言わず連れてきてくれた後ろ姿。
それを思い出すたびに、胸の奥がかすかに痛む。
(同情? 仲間意識? ……違う)
理由はわからない。
でも、少しずつ——ロイスの存在が、“他人”じゃなくなってきている気がしていた。




