21:野性とユダと野営の夜
21:野性とユダと野営の夜
山々が連なる中、木々は鬱蒼と生い茂り、人工物の影もない。
地図も標識も存在しない世界。
それでも二人は、目的地がこの先にあるという確信だけを頼りに、ひたすら歩いていた。
しかし、空腹は容赦なく彼らを蝕む。
そんなとき——
突然、木々を割って巨大な影が現れた。
鋭い牙と全身を覆う剛毛。
一撃で木をへし折るほどの突進力をもつ、獰猛なイノシシ。
「……あれ、絶対ヤバいヤツでしょ……」
リリコが顔を引きつらせる。
ロイスは淡々と答えた。
「仕留めれば三日分くらいにはなる」
その言葉を最後に、ロイスはためらいなくイノシシの方へと向かった。
リリコが止める暇もなく——
ロイスはあえてイノシシの突進を受け、わざと転倒する。
腕から血が流れ、空気に触れた瞬間、紅い結晶が形成されていく。
イノシシが牙を剥いて飛びかかった刹那、ロイスはその血を爆発的に成長させ、その巨体を内部から貫いた。
ズシン……ッ!!
地響きを立てて倒れる巨体。
「……あんた、正気?」
「よくやる」
「よくやる!?」
■肉の味
夕方。
山中の空き地で、焚き火を囲む二人。
ロイスは串焼きにしたイノシシの肉を無表情のまま、しかし満足げに食べていた。
「……ちゃんと火を通せば、意外とイケる」
「……無理……」
リリコは顔をしかめ、串をそっと置く。
「……ごめん、私、こういうの……」
「あぁ。上の方の人間って、狩りとかしないんだっけ」
「その呼び方やめて。そもそも金あるんだから、肉屋で買えばいいでしょ普通……っていうかさ」
彼女は懐からマフィアの金貨や紙幣を取り出して見せる。
「……これ、どうするの? 山の中でお金って、ただの重りなんだけど……」
「燃やすにはもったいない。持っとけ。どうせまた人の街に出る」
リリコはどこか不満げながらも、それ以上は何も言わず従った。
■夜の寝顔
夜。
焚き火の火が小さくなりはじめたころ。
ロイスは静かに横になり、すぐに眠りについた。
薪の爆ぜる音が、山の静寂をかすかに満たしていた。
リリコは目を覚ましたまま、ふと隣のロイスに視線を向けた。
普段は無口で、感情の読めない彼。
だが今、寝ているその横顔はどこか穏やかで——幼くさえ見えた。
月明かりが白い髪を優しく照らし、その輪郭を静かに縁取っている。
透けるように白い肌。
繊細な睫毛。
あまりに整いすぎたその顔立ちに、思わずリリコは手を伸ばしかける。
「……ユダの民って、こういうこと?」
いたずらっぽく小さく笑いながら、指を口元に近づける。
「……なんか綺麗すぎてちょっとムカつく…、口に絵でも描いてやろうかな……」
けれど、寸前で手を止める。
「……やっぱやめた。起きた時ムスッとしてそうだし」
くすっと笑い、リリコはそのまま火に視線を戻した。
彼女は黙って、夜の番を続けた。




