20:兵士の矜持と眠る者
20:兵士の矜持と眠る者
夜の闇に包まれた、瓦礫と空き家の一帯。
風が吹き抜け、どこか遠くで鉄が軋む音がかすかに響いていた。
ロイスは、相変わらず静かに眠っていた。
——そしてその間、リリコは動いていた。
部屋の灯りはない。
暗闇の中、足音を殺し、呼吸すら抑えて、敵の影をひとつずつ追っていく。
銃声は、一発も響かない。
リリコは迷いなく、急所を狙って撃ち抜いた。
(……騒ぎになったら、もっと来る。だから一撃で仕留める)
闇に紛れ、床を這うようにして敵の背後をとる。
パンッ——!
消音器のついた銃が、小さく火花を吐いた。
敵は声を上げる間もなく崩れ落ちる。
数分も経たぬうちに、マフィアたちは全員沈黙していた。
リリコは、銃を下ろし、小さく息を吐いた。
部屋の隅には、回収した装備品と現金の束。
彼女はそれを見つめ、渋い顔をする。
「……最悪だ。私、いつからこんなことまで……」
本来、兵士とは“守る側”だった。
治安を維持し、命を守る立場だったはずだ。
だが今の自分は、追われる存在。
そうでなければ、ロイスと生き残ることすら叶わなかった。
【翌朝:目覚め】
瓦礫の隙間から差し込む朝の光が、眠るロイスの顔を照らしていた。
まるで「もういい」と囁くような、優しい陽の気配。
ロイスはようやく、まぶたをゆっくり持ち上げた。
「……ん、ん……」
最初に見えたのは、重たい顔でこちらを睨んでいるリリコだった。
隣には、マフィアから奪った銃や装備の束。
その空気を察したロイスは、ほんの少しだけ困ったように笑う。
「……なんか、悪かった」
「アンタ、また寝たら二度と起きないかもって自覚ある?」
「……はっきりは分かってないけど、そういう気はしてる」
ロイスはゆっくりと上半身を起こし、寝ぼけ眼のまま苦笑した。
「前も、一回……起きるまで三日かかったことがある。だから……使いすぎたら、戻ってこられなくなるのかもなって」
「だったらもっと慎重に使え。私がいなかったら今頃、誰かの荷物になってたぞ」
ロイスは、うつむき気味に呟いた。
「……ごめん」
その謝罪に、リリコはしばらく黙った。
彼女だって、極限状態だった。
人を撃ち、金を奪い、そうしなければ守れない命を背負っていた。
でも、それを誰かに責められるのは、ごめんだった。
「……礼の一つくらい言いなさいよ、バカ」
ロイスは少しだけ、微笑んだ。
「……ありがとう…」
その一言に、リリコは不意に視線を逸らした。
瓦礫の隙間から射す陽光が、ふたりを淡く包んでいた。




