03.ようこそオオエド 2200
江戸幕府が開府260と余年を過ぎた頃、花の都大江戸のまちは賑やかな活気と喧騒に満ち溢れていた。幕府の将軍は今年で15代目、おっと15代目と言ったって15人目じゃないからな?江戸の町は日進月歩、最近はコンピュータってのが出てきて行政の数え数字は全部16進法っていうヤツに刷新された。だから幕府の15代将軍と言ったら21人目を数える。なんだ?あんたそんなことも知らないのか?今時うちの婆さんだってコンピュータを使って16進法で天井の染みの数を数えているぜ?
ちなみに幕府開府から260と余年、これも16進法だ。だから10進法にしたら今何年目だ?俺にはとても分からねえ、だがそんなコマけえことを気にする奴は江戸っ子じゃねえ。幕府は今年で開府から260と余年それが今に続く江戸の世さ!
ジャパンのオオエドタウンへやって来たブライアンはカルチャーショックを受ける。ここオオエドは何もかもがマイアミとは違い過ぎる。まず文字が違う言葉が違う、そしてカルチャーが違い過ぎる。ブライアンがカルチャーショックを覚えるのも当然だ。なぜならブライアンが生まれたのはマイアミ、ゆえにこのオオエドにおいてブライアンはベイビーも良い所だ。
転属先のオオエドタウン警察署の署長、おっとオオエドでは奉行所のオブギョーサマというのか?そこのボス=お奉行さまへ挨拶を済ませると、転属1日目からさっそく仕事を任される。おいおいジャパンってところはブラックか?マイアミ市警なら初出勤の日にすることと言えばデスクの埃をはらってコーヒーとドーナッツを食うぐらいだぜ?転属仕立て右も左も分からないベイビーにも仕事をさせるなんて…、まったくジャパンっていう国はほんとワーカーホリック、どうかしてるぜ!
───江戸の事を何も知らぬベイビーに与えられた記念すべき初仕事は市内の見回りだった。
見回りは相棒” バディ”と組んで二人一組で行われる。市内の見回り仕事なんてのはマイアミもオオエドも変わらぬはず。
ついて来いと背中で語る先輩のデカ…この国では同心って言うのかい?でもデカのほうがカッコいいだろ?だから俺はこのオオエドでもデカを名乗るぜ!
そんなブライアンとバディを組むのは勤続10年になるベテランのスケ=サンだ。スケ=サンはこの街の生まれで、中でも外神田っていうダウンタウンの生まれらしい。そこで育ったヤツの事をこの国では江戸っ子というらしい、生粋の江戸っ子っていうのはこの国では一つのステイタスらしいがエリートと言うのとも違うらしい。江戸っ子を例えるならマイアミで言うリバティあたりで育ったみたいなもんか?そんな疑問を先輩のスケ=サンに聞いてみたらちょっと違うらしい。まったく江戸っ子ってのは何なんだ?この国は分からないことが多すぎるぜ!
オオエドの奉行所の建物を出てそのまま歩いて街の見回りに出ようするスケ=サンをブライアンは制止する。
「おいおいコップカーは無いのか?デカの見回りと言えばイカすコップカーだろ?」
やれやれこれだからベイビーは…という仕草をしてスケ=サンは答える。
「江戸の同心の見回りといやあ自慢の足が花よ」
「おいおいこの広い街を歩いて見回るっていうのかい?そんなんじゃ日が暮れるぜ?」
マイアミでデカの足と言えばコップカー。見回りのデカが歩くなんて聞いたこともない。
デカは一日1000歩も歩かない、それがブライアンの知るデカの仕事だ。デカい車でデカいエンジン音立てて街の安全を守る、それがデカの仕事だ。
スケ=サンはまたもため息。
「マイアミがどんな所だったかなんて知らねえが、ここにはここのやり方がある」
郷に入っては郷に従えって事か、マフィアへの潜入任務でもマイアミの先輩デカからそう教わった。歩いて見回るのは最悪だが、郷に入っては郷に従え…まったくその通りだ。
「それに…」
「それに?」
スケ=サンは最後に付け加える。
「江戸の街中は全道未舗装だ。」
二人の間を春のそよ風が吹き抜け、通りに土煙が舞う。
「まったくこれじゃあマイアミじゃなくてテキサスのカウボーイだぜ…」
風に土煙舞う江戸の街。
そんな事をごちりながらマイアミ育ちのデカと江戸っ子の同心はともに歩いていく。