アゼルさんの覚悟と私の甘さ
横たわる盗賊達の前に立つアゼルさんは短刀 回しながら獲物を品定めするかのように目を泳がせている。
「3人生き残ったわけだが、どいつからあの世に生きたい?」
「ヒ、ヒィー……もうおしまいだぁ」
「ガタガタ騒ぐなっ、耳障りなんだよこの咎人がっ!」
「ぐあぁっ、腕があぁっ!」
彼等のやってきた行いは罪深くとても不問にはできない。
けどこれ以上やり過ぎるとアゼルさんが……。
「やっぱテメェら全員仲良く消し炭にしてやるわ。
善良な人を食い物にしたことを後悔しろよ?」
「あ、うあぁーっ」
「じゃあ、死ね……」
「ねぇラウム」
「目をつぶれシェスカ、アゼルは身に降る火の粉を消そうとしてるだけだ」
アゼルさんは焔の矢の形成を始め、今彼等を撃ち抜かんとしていたがそれが放たれることはなかった。
「はぁ……はぁ、間に合ったぁ……」
「ノ、ノエルさん、なにしてるんだ離せっ」
「離しませんっ。 今のアゼルさんはロウさんと違って憎しみに飲まれてる」
悪党とはいえ無抵抗の者を憎悪のままに葬れば心の闇は増大する。
便利屋として見過ごすわけなわいかない。
「だが、放っておけこいつらまた罪なき人をっ」
私は野盗の彼等を庇うようにアゼルさんの前へ立ちはだかり、どうにか言いなだめようと静かに息を整えた。
「彼等はもうスプーンを持つことさえできない、この先数十年そんな状態で生きていくのはあまりにも地獄です。
これを相応の罰として手を打ってもらえませんか?」
「ノエルさん、どうしてそこまで……」
「エゴ、でしょうね。 私と関わる人に必要以上の殺しはしてほしくないし私自身可能な限り命は奪いたくない。 それだけです」
そう言いながら野盗の前から離れるとアゼルさんはそれ以上なにも言うことなく目的地の方角に足を向けた。
「行こう。 それからノエルさん……ありがとう」
「ただの自己満足ですよ……エイミー?」
調査隊のみんなも納得し、西へ進もうとしたら今度はエイミーが男達の前にいき一言言い放った。
「いい? あんたらホントは今日が命日だったんだからね?
最後の標的にノエルがいたことを幸運に思いなさい?」
それだけ言い残すと「よーし行こー」と戻ってきて今度こそ目的地に足を進められることとなった。
道中さっきの野盗との戦いが脳裏をよぎりどうにもスッキリしない。
「うーん、やっぱり一生要介護にするのはやりすぎたかなぁ?」
なんか尊厳を奪ったみたいで罪悪感に似たものを感じていると真横からジトーっと呆れそのものの視線が飛んできた。
「あんたねぇ、あいつらあたし達の命ごと狙ってきたのよ? 生きてられるだけマシってもんよ、ホント甘いんだからぁ」
「だよね、甘いよね……自分でもわかる」
「けど甘さがなくなったらノエルじゃなくなりそうだからそれもそれで嫌、かな」
それは今のままでいいということ? アゼルさん達の生き様を聞き、野盗へのロウさんの対応を見るに脅威は排除するのが普通で私の方が異質なのかもしれない。
けどその『異質』がいつか誰かのためになる時が来ると、そう信じたい。
そんな思いで足を進めること2時間、途中の関所を通ろうとしたところで検問の方からそれとなく声をかけられた。
「あ、アンタらもしかして西の跡地に行くのかい?」
検問の方の問いにアゼルさんが振り向いて答える。
「確かにそうだが、なにかまずいことでもあったのか?」
「気を悪くしたならすまない。 なに、今日でここを通るの2組目だから珍しいなと思ってな」
珍しい、というとその人は遠くから来たのかな?
アゼルさん達のような調査隊? それともどこかの騎士団?
「その方達の風貌はどんな姿でした?」
私はなんとなく気になり検問の方に聞くと思わぬ一言が返ってきた。
「それがな、身の丈ほどの大剣を担いだ男と術士2人が朝早くにここを通ったんだ。
南の大陸から来たとか言っていたな。
確か……サイラとかいう名前だったような」
「サイラって、まさかっ」
間違いない、ヴェルクさんとフィオラさんとセレスさんだ。
でもどうして? 店長はそんなこと一言も……私達はアゼルさん達から公的な依頼でここまで来た。
「解放者さん、その人知り合いなの?」
「同業の方です。 今聞いた限りだと間違いなく」
驚きを隠せない私にロウさんは迷うことなくみんなの先を歩き呼びかけた。
「彼等なりに目的があって来たのかもしれん。
なに、会って確かめればよいことだ、行くぞ」
ロウさんの言葉に応じるようにエイミーが「それもそうね」と納得の意を示した。
そしてこの後私達は知ることとなる。
亡国の悲劇が図らずもサイラの便利屋、クイック・リリーフの精鋭を生み出すことになったということを。




