氷解の兆し
「あれは両親が帰ってこないまま数日経ってのできごとだった。
俺は近所のパン屋のおっさんから訳あり品をもらいラウムとシェスカの3人で身を寄せ合い飢えを凌いでいた」
「そ、そんなことが……」
当時のアゼルさん達の年齢と照らし合わせると私は家族と穏やかに過ごしていた。
そんな立場で共感と同情、どちらも無責任に思えてなにも言うことはできなかった。
「苦しくても3人で協力し合えれば俺達は笑顔になれた。 だがそんな日々も間もなく終わりを告げた……なにがあったと思う?」
「まさか、税の請求……」
「ああそうだ。 明け方に棒を持った役人達が押し寄せてきたんだ。 税を払えと」
「そんな、まだ子供じゃないですかっ」
いくら子供含めて全員一律の税とはいえ今のモニカより幼かったアゼルさん達に支払い能力がなかったことは明らかだった。
「だが奴らはそれでも構うことなく書きの俺達に思い切り棒を振り下ろそうとした」
「無事、だったんですか?」
私の問いにアゼルさんは過去を思い返すように瞬きをしながら話を続けた。
「ああ。 もうダメだってとこでパン屋のカメリオさんが扉を蹴破って単身救助しに来てくれた。 だがその結末はとても喜べるものじゃなかった。
役人どもは、逃げろと言う俺達を無視して立ちはだかったカメリオさんを、一斉に袋叩きにし始めた。 だがそれでもカメリオさんは俺達を身を挺して逃がすためだけにそこに立っていたんだ」
「ってことはそのパン屋さんがいなかったら……」
「俺達はこの世にいない。 あの人は、文字通り命を賭してくれた。
その後、どうにか荷馬車や船に乗り継ぎ北の大陸、ノーザンレイスへと亡命を果たした。
これがシェスカとラウムが変わっちまうまでの顛末……ってあんた、泣いてるのか?」
アゼルさんの言葉で自身の眼から涙が伝ってることに今になってようやく気づき、慌てて拭った。
「だってこんなの、こんなのってあんまりじゃないですかっ。
アゼルさん達は本来なら今も普通に笑って生きていられたのにこんな、こんなっ……」
いつかイリスさんが言った言葉の意味、あの時は頭でしか理解してなかったけど為政者が民を守るという自覚を忘れたら……その重みが深くのしかかった。
「……みんなが俺達を哀れむ視線を向けてきたがあんたは違うんだな」
「え……?」
「今のは俺達3人の苦しみを共有しようと流した涙だ、あんたは優しい……ありがとよ」
そう言いながらアゼルさんが腰を上げると同時に立ち上がり私は手を差し出した。
「なんとしても取り返しましょう、あなた達の愛した故郷を」
私の言葉に応えるかのようにアゼルさんはこれまでにない笑みで手を酌み交わしてきた。
「あぁ、よろしく頼む……さて、感傷に浸るのは終いだ。 シェスカ達を起こさねぇとな」
そうだった、もう見張りの交代の時間に、あっ……。
「エイミー起きてっ、もぉほとんど眠っちゃってたじゃない」
「あ、ごめんごめん。 ふぁーあ……さて、もう一眠りしましょうかね」
あれ? エイミーつい今まで眠ってたよね?
寝起きの人ってあんなハキハキ喋れるものなの?
私はまさかと思い確かめるように問いかけた。
「エイミー、もしかしてさっきさぁ……」
「んー? なんのことぉ?」
あ、なるほどそういう……シェスカさんとの関係性、よくなったらいいな。




