年長者、ロウの気苦労
ピオスから船で揺られること5時間、私達は亡国ルインズレッケージへ向かうため、西の大陸ウェステリアへと上陸した。
「さぁーて、到ー着」
「あんまはしゃがないでくんない? 遊びじゃないのよ」
「それ、その上から目線やめてくんない? こちとらあんたらの協力を買って出てんだから」
また始まった。 船乗ってからずっとこれだよ。
薄々嫌な予感はしていたけどやっぱり犬猿の仲待ったナシだったかぁ。
どうやって仲裁に入ろうかと迷っているとエイミーとシェスカさんの間にロウさんが割って入る。
「やめんか2人ともっ、仮にもこれから組織の1人が掌握してる可能性のある中域に向かおうとしてるのだぞ。 少しは緊張感持てんのかっ」
うん、ロウさんの怒号初めて聞いたよ。
彼こういうの苦手そうだからなぁ、ルーシーなら一言でピシャリだろうね。
「シェスカ、元はと言えば俺達がノエルさんを侮ったのが原因だろう、エイミーさんに嫌がられて当然だ」
アゼルさんがリーダーらしくなだめるも水を差すようにラウムさんが追い打ちとも言える指摘をしてきた。
「かっこよく言ってる感出してるが先に言い出したのはアゼルだ。 シェスカを責める権限がどこにある」
「あ、ほんとだ。 あんたに釣られて言ったようなものなんだからねっ」
今のはさすがに失言だよ……ほらやっぱりエイミーが険しい目つきに……と心配するも束の間今度はラウムさんが私の方に向き直った。
「解放者さん達すみません、ウチのアホ2人が」
「いえ、私はそこまで、それよりも……」
ロウさんが眉間つまんでる様子からその気苦労が察するに余りある。
私より後輩なのにこんな役をやる羽目になるとは、年長者ゆえのというやつだね。
私が戸惑いながら視線をズラすとラウムさんはすぐさまロウさんに向かって頭を下げた。
「ロウさんと言いましたか、ウチのモンの無礼改めてお許しください」
「なに、複雑という言葉では片付かない事情ではあるからな、気にするでない」
さすがにエイミーもこれ以上のいさかいはマズイと理解したのか、話を逸らすようにラウムさんに尋ねる。
「ところで、港から目的の場所まではどのくらいかかるの?」
「急ぎで歩けば3日、そうでなければ7日はかかるが途中町はあるから焦らずに行こう」
そこから丸一日歩き続けた。
砂漠じゃないからよかったものの草木生い茂る道を歩き続けるのは快適とは言えない。
なにより木の陰は魔物が隠れてることもあるから一歩一歩進むにも気を抜けない。
「ところでアゼルよ、貴公らの服装を見て思ったが、この辺りを進むにはいささか軽装な気が……」
「問題ない……なんて強がってみたが俺達は調査隊に過ぎないからそんなものは与えられてない。
だが、魔物程度なら雷の霊素でショック与えて即座に締める、これで大体は切り抜けてきた」
含みのある言い回しが気になり、私は思わず聞いた。 それが人であった場合はどうしたかを。
「私達はロウさんやルーシーがいるから大丈夫ですけど、野盗が出た時とかは大丈夫でしたか?」
「ああ、シェスカが色仕掛けで許しを請い、その隙に俺とラウムで息の根を止めるという戦法を取った」
息の根、その言葉を私は即座に理解したのと同時に食い下がるようにエイミーが尋ねる。
「こ、殺したっていうのっ?」
「向こうが奪おうとしたから返り討ちにしただけだ……必要な殺しは全てしてきた」
彼の言葉に私とエイミーはただ息を呑み返す言葉が見当たらなかった。
そんな私達にシェスカさんが勝ち誇ったような言葉を投げかける。
「なにも言えないって感じね。 この時代で殺しが非日常、温室で育ったみたいね」
悔しいけどなにも言えないで黙りこくる中、その沈黙を破ったのはロウさんだった。
「身を守るためとはいえ他者に手をかけることに向き合う姿勢……立派だったっ!」
「え……?」
「野盗の命を奪ったのは罪ではない、貴公らが生きるために戦ってきた証だ。
そして今も故郷奪還のために戦う貴公らに賛辞を送りたい」
「っ!!」
その言葉にシェスカさんはなにも言わずただただ涙を流していた。
きっと調査隊として張り詰めていたなにかがほどけたのかもしれない。
「君達はとても頑張ってきた。 私にはわかる」
「ロ、ロウさん……」
アゼルさんに続きラウムさんもロウさんの元へ向けて肩を寄せた。
今日ようやく彼らと一つになれた、そんな気がした。
「ふーん、やっぱ素直なとこあるじゃない」
ニコニコしながら言うエイミーにシェスカさんがポロッと返す。
「……アンタはなんか気に入らない」
「はあぁぁぁっ!?」
……大丈夫かな、このメンバー。




