譲れない想い
「ノエルよ、顔色が優れないが大丈夫なのか?」
「すみません、ちょっと考え事をしてました」
「ならいいが、無理はするなよ?」
セリガムさんに接触したのがリズィとかならまだわかる、けど黒衣の男性……なぜ彼が、ノフィスで言っていた「償うため」という罪は組織の動きに加担してたとかそういうこと?
なにがどうなっているのか、まるで霧の中にいる様になにも見えてこない。
実は彼に関することはロウさんとウィルさんには話していない。
これがルーシーなら話すことはできたけど、2人は差出人未記載の依頼書すら知らないから話しようもない。
「大丈夫よロウさん、ノエルってば昨日あんまり食べられなかったから残念がってるみた、んぎゃっ」
条件反射で私はエイミーの手を引いて耳打ちをしてみた。
「ちょっとエイミー、私がなにかあると食べ物で結びつけるのやめてくんない?
食い意地女の烙印押されたら責任取ってよね?」
「まぁまぁ、ウソは言ってないわけだから」
ウソじゃないよ? 美味しそうな料理目の前に霊素不足で食べれなくて残念なのは確かにウソじゃないけどむむむ……。
「あ、そういえばエイミーサイラの事件で影が見えた時に……」
「ぬわぁーー、ノエルその話スト――――ップ」
「へへーん、さっきのお返しー、あっ……」
気がついたら黒衣の男性は姿を消していた。
私が見たのは、幻?
「ここが指定された場所か、見たところ誰もいないが……」
罠なのかどうか見定めようとウィルさんが剣に手をかけようとした時、茂みの中から1人の人影が現れ、私が近づくと彼はあの時のように憂いの込もった目で語り掛けた。
「ノエルさん、来てくれると信じてたよ」
私はその言葉に返事をするでもなくある問いをぶつけた。
「セリガムさん、まず教えてください。
『彼』はいったい……あの人も組織の者なのですか?」
私の問いにセリガムさんは一瞬驚いた顔を見せるも、すぐに落ち着きを取り戻して見せた。
「なぜ君がそれを知って……いや、組織と関係しているかはわからないが僕とは関係してる」
「どういうことですか?」
「彼こそが、僕に君を組織から引き離すよう申し入れてきた人だ」
ノフィスで会った時点であの人は私に気付いてた?
頭の中でいくつもの疑問が渦巻いていたが今は真実が知りたかった。
「ただそれだけのために、もしかしてもう一つの理由というのも彼がっ?」
「そうだ、どちらの理由にも彼がいる。 そしてもう一つの理由……それこそが君に罪を犯人に仕立て上げた真なる理由だ」
「っ! どうしてっ」
「君を強くするためだ」
理解できない。 それが本当の理由ならセリガムさんのやろうとしてることはこちらに加担していることになる。
もしかして彼も組織を倒そうと、そうであるならセリガムさんは密偵……?
「私のために罪を被せたと、どういうつもりですか?」
「君は窮地に立たされても僕らを追うことをやめないだろうと、そう思った」
「それが私の目的に繋がってますから、当然です」
私の言葉にセリガムさんは「なら仕方がない」そう言いながら双剣の柄に手をかけた。
「この先組織を追い続ける以上、僕なんかが通過点に思えるほど過酷なものと対峙せざるを得なくなる。 それでも行くというのか?」
「私は……」
迷いつつも刃砕剣に手をかけると、その場を制止しようとするエイミーの声が湖畔中に響き渡った。
「ちょっと待って、どうして2人が争わないといけないのよ。 あの子達を救おうとした同士じゃないのっ?」
「理屈じゃないんだ。 これは必要なことだから。 ノエルさん、あなたにとってはどうなんだい?」
私はその言葉に揺らぎかけるも、オブリヴの景色が頭に浮かんだ。
父さんに母さん、儀式の記憶……全てを解決して故郷に帰ることを私、諦めたくないっ。
「そうですね、もう一度言います。
組織を追うことは私にとって必要なこと、ですから……譲れませんっ」
「よく言った」
そう言いながら私達は同時に剣を抜き、その切っ先は互いを向いていた。
セリガムさんは両の剣を上下に構えながら私に鋭い眼光を向ける。
「ここからは式典の時以上に本気で行かせてもらう。
罪を晴らして帰りたいなら、組織を追いたいのなら僕を止めてみろ。
ノエル・イルセリアいや……白銀の解放者っ」
この時の私は気づきようがなかった。
彼がここに至るまでどれほど強い想い、覚悟を背負っていたのかを。




