新たなる詠零術士
「まさかあれだけの威力を叩き出すとは、ペンダントがすごいのか詠零術がケタ違いなのかどっちかしら」
「あはは、やり過ぎちゃったかな?」
誤魔化すように笑う私にリュミアさんは溜息を吐きつつ「まったく」と言いたげな顔を浮かべていた。
無理もない、だって英霊術と同じ感覚で発動したら闘技場が半壊する事態になるんだもの。
私とリュミアさんの防護壁でどうにか全員無事で済んだけど、いったいなんであんなことに……。
「やり過ぎどころの話で済むか、一瞬霊素の暴走でも起こったのかと思ったぞ」
「ミスティとユーゼも未熟だった頃は力の不安定さが見えたが、君のはそれ以上だな」
「実力不足、なのかな?」
暴走同然じゃ周りを巻き込みかねない。 せっかく術の行使までは漕ぎつけたというのにこれじゃ意味がない。
どうしようと途方に暮れるとペンダントを凝視しながらロウさんが「そういうことなのか?」となにかに気付いたように呟く。
「さっき術を放つ際そのペンダントの霊素も使ったのか?」
「えぇ、いつも通りありったけの霊素を込めて打ってみました」
「原因はそれだな。 ノエルの込めた霊素があまりに過剰だった故暴走の様な事象が発生したのだろう」
「けどどうして、今までそんなことなかったのに……」
英霊術で魔物と交戦する時は十分力を発揮できたし、レビィやリズィと対峙した時はそれこそ、ペンダントの霊素を最大限使わないと足元にも及ばなかった。
なにが原因なのかと思考を巡らすも、それに気付くこともなく「あのなぁ」と何度目かの呆れるリュミアさんの声が耳に届いた。
「こんな膨大な霊素を一度の詠零術に当てるアホがどこにおるんじゃ。
詠零術は余計な詠唱がないから瞬間威力が高い、だから当てる霊素量は3分の1ほどでいいんじゃ」
「ってことは、この先ペンダントの使い方を変える必要がありますね」
「霊素の総量自体は個人差があるからの、加えてよくわからぬペンダントも絡んでる以上こればかりの対策法は自身で見つけてくれとしか言いようがないわい」
また課題が増えた。 でも今までより消費量は少なくて済むから不測の事態にも対応できるかもしれない。
「後は教えることはないって感じみたいだけど、試練から継承まではこれで完了ってことでいいのよね?」
私を先回りしてエイミーが尋ねるとリュミアさんはフッと笑みを見せた。
それは弟子の巣立ちを喜ぶ反面、どこか寂しさすらも浮かんでいるようだった。
「あぁ、これで総ての工程は完了した。
おめでとうノエル、私含めて3人目の詠零術者となったことに最大の賛辞を送る」
「あ、ありがどうございます。 ところで、フィオラさんとセレスさんが習得したのは詠零術じゃないみたいですけど、それなら彼女達のはいったい………」
「詠霊術とでも言っておこうかのぅ」
リュミアさんの言葉にエイミーが「またスペル違い?」と呆れたような声を漏らす。
確かに同じ発音の名称が3つもあったら私も混乱しちゃうかな。
「まぁ言ってしまえば英霊術の試験的なものじゃ。 それでも詠霊術は詠零術には及ばん」
リュミアさん曰く、詠霊術は現代で広く認知されてる英霊術のように発動には詠唱が絶対条件となっているが、それを差し引いてもその威力は詠零術に引けを取らない程の絶大さを誇るらしい。
もっとも、詠唱があるかないかの差は大きく、同じ威力の術でも詠零術より後発の術は押し負けてしまうんだとか。
「まさか、あの2人の強力な術がそれでも『ホンモノ』じゃなかったなんてねぇ」
「エイミーだったかの、この話は2人には絶対に言うでないぞ」
「え、なんで?」
あっけらかんとした様子で聞き返すエイミーにリュミアさんは「ショックを受けるからじゃ」と顔を0距離まで近づけて圧をかけた。
後輩の私が2人を越してしまったってことへの師匠としての配慮……なのかな?
「で、主らこれからどうするんじゃ?」
「まずは私自身の容疑を晴らすこと、ですかね」
「そうか、では主たちに1つ頼みごとをしたい」
「いいですけど、なんです?」
リュミアさん程の方の頼みってなんだろう。 やっぱりこの地から出れないだけあって代わりになにかを調べてくるとか、代わりに取ってくるとかそんなとこだろうか。
「主たちが交戦してるという組織だったか、詠零術と酷似した力を使うものは必ず潰しておいてくれ」
リュミアさんのその言葉はリズィのみならず、セリガムさんも例外なく排除するということを暗に語っていた。
それに異を唱えるようにエイミーが前に出る。
「待って、その中には……」
「いいからっ……了解しました。 九つの希望の行動は私達も看過できません。
リュミアさんの生み出した力を悪用する者は打ち倒してみせます」
「頼んだぞ」
こうして継承を終え、私達はイザヤの里から程近いの街の酒場に来たのだけど、リュミアさんからの頼み事についてエイミーが食い気味に問いかけてきた。
「本当にあれでよかったのっ? 組織で術を使えるやつを残さず潰すってのはつまり……」
「セリガムさんも始末することになる、だよね……わかってるよそんなこと」
「セリガムさんだけでも話し合って身を引いてもらう、それじゃダメなの?」
折り合いをつけようとする私はエイミーに納得できないと言った様子で両肩を揺さぶられるも見てられないと思ったのか、制止するようにウィルさんが割って入る。
「その辺にしておけ。 彼が仮に詠零術を模倣してなかったにしてもノエルの無実を証明するには発端となった彼が別の形で報いを受けることは避けられない、わかるな?」
「ごめん。 セリガムさん、どうしても悪人だと思えなくて」
「私も同じ、だから……確かめるっ」
オルフィナさんからもらったこれで早速、彼は今いったいどこでなにを……術式の空欄に名を書き記すとセリガムさんがいるであろう光景が広がった。
薄っすらだけど、最近来た場所であることだけは間違いなかった。
「ウィルさん、ここって……」
「間違いない、スプライト・ウィスパーだな」
「どうしてこんな近くに……」
彼は「もう組織には戻らない」と言っていた。 けど数日前あの街にリズィがいたわけで、セリガムさんは今も組織と繋がってるというの?
どちらにしても落ち着こう……そう頭を冷やそうとした矢先、来客を知らせるベルの音が鳴る。
「見ぃつけた」
現れた客は私達が何度か対峙し、もはや顔を見るのもウンザリする相手だった。
酒場にとってはお金を落としてくれる神様でも私達にとっては文字通り招かれざる客その者でしかなかった。




