歴史から消えた影
「謎の影と嘆く少女か、見当もつかんな」
リュミアさんは手の平を掲げ、自身の記憶を具現化するも該当する情報は出てこなかった。
「あなたほどの人でも知り得ないことがあるのですな」
ウィルさんの言葉にリュミアさんは「買い被るな」と身を引きながら答える。
「私はあくまで詠零術を生み出し、広げただけで全知全能ではない」
「いや、英霊術の礎築いた時点で十分すごすぎよ。 この勢いで総てを見通す術なんてのも創ってくれない?」
エイミーの要求にリュミアさんは呆れ返りながら「バカタレ」と一蹴した。
「総てを見通すとは今生きている者の記憶を集約してようやく完成するんじゃ。
水を汲みに行くことすら億劫な私がそんな面倒なことするはずもなかろう」
「それもそっか」
リュミアさんはものぐさ前提として見ながら頷くエイミーに「おい」と物言いたげな言葉を飛ばした。
うん、この2人以外にも反りが合いそう。
「聖都の書庫とかならそれっぽい情報あるんでしょうか?」
あれだけの大都市ならと思い尋ねてみるもウィルさんは俯き気味に首を横に振った。
「恐らくないだろうな。 我が国が建国されて2000年……5000年も生きられてるリュミア殿の記憶にもないのなら聖都になどないも同然だろう」
「歴史に遺らなかったか、それとも抹消されたか……いずれにしても現時点では確かめようもない」
「そう……ですか」
どうにもスッキリしない結果に私は力なく呟くとロウさんから思い出したように問いかけられる。
「それはそうと、古代の英霊術とやらの継承はどうなったんだ?」
「上手く行ったとは思うんですけど、途中で気絶しちゃったのでよくわかりません。
リュミアさんが言ってる以上にすごい痛さでしたし」
プーッと不貞腐れ気味に答えるとリュミアさんは「まったくのぉ」と呆れた様子で溜め息を吐く。
いわゆる「最近の若いものは」とでも言いたそうな様子だ。
「言ったじゃろう、多少は痛むぞと」
「どこが多少ですかっ。 頭が割れる様な痛さでしたよ」
「頭蓋にヒビ、入っとらんかったろ?」
ちょっとちょっと、開祖なるお方の多少は大ケガしてるかしてないかが基準ですか。
もうほんとなんなんですかねこの方。
「まぁ外傷は……ないです」
「ならばよし。 ではノエル、やってみるとするか」
「やるって、なにをですか?」
額をさすりながらそう尋ねるとリュミアさんは「察しが悪いのう」と呆れた様子を見せる。
すみませんね鈍くて。
「術の試し打ちじゃ」
「ちょっと待って、ノエルまだ目覚ましたばかりよ? そんな無茶させたら体に負担だってっ」
「……ロウと言ったか、ノエルの霊波見てみるがいい」
「構わんが……ふむ」
リュミアさんに言われるまま私の手首に指を添えてしばし、ロウさんは納得のいった様相を浮かべている。
つまり、寝起き直後なこの状態で術の試用を試みて問題ないということだ。
「どうじゃロウ、ノエルに負担がかかってないことがようわかったじゃろう?」
「うむ、霊波も特別乱れてる様子もない。 強いて言うなら寝起き直後の波を打ってることくらいか」
「そりゃそうですとも、さっきまで寝てましたからね」
「これだけボヤけるなら大丈夫じゃ。 ほれ、行くぞ」
こちらが雑に扱われてるのかそれとも彼女がマイペースなのか、私達はまるで振り回されるようにリュミアさんの背中を追いかけ、向かった先は試練で手合わせをした闘技場らしき広場だった。
その広さにロウさんとウィルさんはまるで少年のように嬉々として目を輝かせていた。
「これは、鍛錬の場として申し分ないな」
「同感だ、これだけの広さなら後進の育成にも使えよう」
「おい、話がズレておるぞ。 ノエルの術の試し打ちのために来たんじゃろうが」
「ところで試し打ちってどうするのよ? いくら英霊術の開祖のあなたでも的役
はさすがに堪えるでわけでしょ?」
エイミーの言葉にリュミアさんは「アホか」と呆れながら自身の横に手をかざすと地面がせり上がり、それは徐々に人を模した姿になっていった。
「的役は、コイツじゃ」
「人型のゴーレムってやつね。 けどリュミアさんの召喚するやつはあたしんとこの妹分の寄り小ぶりね」
「まぁ私のはあくまで模倣術じゃからこれが限界じゃ。 巨大なゴーレムを呼び起こせるのはそれこそ天賦の才を持つ者だけじゃろう」
「うへ、モニカってそんなにすごい子だったんだ」
確かに今のを聞くとモニカはすごい。 けどそれ以上にすごいのはリュミアさんだ。
限られた人しか行使できない力を適正外の自身でもいや、それどころか私達が恩恵にあずかっている英霊術の土台たる詠零術を文字通り零から生み出した。
彼女はモニカとはまた違った意味で天賦の才賜れし方だ。
「話が過ぎたが、早速見せてくれんか。 お前さんの、ヤツより2000年ぶりにの弟子の放つ詠零術を」
「あたしも見てみたい。 一段と強くなったノエルの本気を」
2人に影響されたのか、男性陣も興味深く注目しだしてロウさんに至っては「強さ次第では手合わせをしたい」なんて言い出す始末。
私が持たないので勘弁してください。
「それでは、行かせていただきます。 ハァァ……」
私は組織の1人と見立てながら右手から炎膜を張りそして、左手から雷霧を炎の中たたずむゴーレム目掛けて撒き散らした。
「うりゃあぁぁぁっ!」
ありったけの霊素を込めて放った直後、ものすごい爆音が闘技場内に響き渡り私の視界は炎の赤と灰色の煙に遮られた。




