影と嘆きの少女
「う、確か私……」
そうだ、儀式中痛みに耐えられなくなって意識が落ちて……ってことはこの流れからして夢の中といったところか。
それにしてもリュミアさん人が悪すぎるよ。
多少どころの痛みじゃなかったもの。
起きたらわざとらしく拗ねてやろうなどと考えながら周囲を見回してみるとただならぬ違和感を感じる。
夢の中であることは間違いないけど、なにかおかしい。
今まで見たのは決まって塔の中だったのにここはいったい……。
「これも、継承の儀式なの?」
立ち止まったままじゃなにも起こりそうもないからとりあえず歩いてみるも、行けども行けども闇の中。
「これなんの修行なのぉ? こんなのあるなんて聞いてな……ん?」
愚痴を零しながら前方に目を向けると一瞬赤く光るなにかが目に付く、なにが待ち受けてるのか確かめようと近寄ると徐々にその存在が姿を現す。
赤い眼光を宿した影は、霊素らしきドス黒いなにかをその身から放っていた。
その出で立ちから下手に近寄ったらタダじゃすまないことは火を見るよりも明らかだった。 けど、もしこれが詠零術に関係してるのなら……。
「無視もできないよね。 えっと……ひゃっ」
目の前の存在がなんなのかを確かめようと一歩前へ出ようとするも、影はこちらまで距離を詰めその右手を薙いだ。
咄嗟の出来事に後退するも、衣服の肩部がハラリと裂ける。
夢とはいえあまりのリアルなさに私は戦慄した。
「勘弁してよ、もう……えっ?」
剣がない? いつも腰に下げてるはずなのに、リュミアさんとの手合わせ中落とした? いやこれは夢の中、そんなことは……。
微かに取り乱すもこの一連の流れが継承中に起こったことを思い出し私はすぐに冷静さを取り戻す。
「術だけで切り抜けろってことだよね? ヨシっ」
そう解釈して私は影に向かい熱素の炎砲を放つため詠唱の態勢を取ろうとするも、想像だにしていないことが起こった。
「螺旋の炎、牙向きし者には刃に、我々を護りし盾わっ?」
今の、炎砲……だよね? なんか詠唱途中なのに発動したけどこれ、どういうこと……っていうか渦の高さからして2人分はあったけどなに、コレ?
戸惑う間もなく次の一手を影が下す。 かざした手からは黒い光いや、闇の球体が見え、引き込まれそうになるも距離を取るため風素発動する。
「加速……っ?」
すごい勢いで引っ張られる様な速さでその身体は派手に吹っ飛ぶも、あることに私は気付く。
「詠唱したら、暴発した?」
これが既に英霊術を超えているというのならもしかしたら……なにも言わず、イメージだけを手をかざすと蒼い霊素が影を中心に展開される。
「これが、詠零術?」
そのまま私は「凍って」と念じると霊素が収束を始め、影の足元から胸は凍り、その動きを完全に拘束していた。
もうこうなったらこっちのもの。
「これで、お終いっ」
熱素、湧炎を放つため影の足元に右手を添えようとするも、なんとも形容しがたいほどに不気味な声が耳元に聞こえてきた。
「ドウしテ、わタシだけ、……なノ……」
どうしてかわからないけど、その声は怨念だけでなく悲しみを抱いてるようにも思えた。
いったいなんなのか確かめようにも直後、強い光がペンダントから「彼女を傷つけないで」と声が聞こえる。
この前の解析で言ってたっけな。 「ノイヴィ」って、これってほんとにただ霊素が込められたペンダントなの?
あの影ともなんか関連してそうだし。
「あなたは、いったい……あれ、女の子?」
さっき影と交戦していたはず、こんなとこに女の子なんていなかったような……。
なんだか気になり近寄るとその少女は先ほどの影と同じ言葉を言い嘆いていた。
「どうして、どうしてわたしだけなの?」
よほどの理不尽なことでない限りこんなに小さな子がこんなこと言うわけがない。
私は放っておけずその手を少女の頬に伸ばそうとするも、それが叶うことはなかった。
「あっ」
少女の姿はそのまま粒子となって散った。 一体なんだったんだろうと立ち尽くしていると聞き慣れた声が殺風景な空間に響く
(……ろノエル)
(イミーよくあるのかこれは?)
(ちょこちょこ妙な夢見るらしいのよノエルったら、いつものことね)
(まさか儀式中に倒れ込むとは思わんかったわい、肝が冷えたぞ)
はいはい起きますよぉ……ってちょっと待って、さっきのは継承の儀式には含まれてないっ? じゃあさっき私が遭遇したのって。
あの夢はなんだったの? それにあの娘は、私になにを訴えようとしてたの?
理解が追いつかないまま私の意識は現実へと徐々に引き戻されつつあった。
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「んん」
「あ、ようやく起きた。 リュミアさーん」
エイミーが叫ぶとリュミアさんは「まったく」と呆れと心配が入り混じったような顔で私の前に姿を見せた。
「ある程度痛み出すのは想定してたが倒れるとは思わんかったわ、冷や冷やしたぞい。 して、大丈夫か?」
「あはは、心配かけてすみません……そうだリュミアさん、聞いてほしいことがっ」
「なんじゃなんじゃ落ち着け、いったいなんだというんじゃ?」
私は意識を失ってからの出来事を話した上でこれが継承に関係するものか聞くとリュミアさんは「なんだそれは……」と理解の及ばないものに対する反応を見せた。
「ノエルよ、結論から言うとお主が見たそれは継承とはなんら一切関係がない」
そう、詠零術の継承の儀式はリュミアさんから情報と経験の記憶を受け取った時点で終わっていた。
私はあの暗闇の中でなんらかのメッセージを受け取っていたに過ぎなかった。




